表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

残念王子様の恋を取り巻く人々

【あらすじ】


 文化祭で屋上から告白というとんでもないことをやってのけた残念ハイスペック王子様。私はそんな彼に恋をしました。

 王子様に振り回される人たちのゆる~いラブコメ………になってるといいなぁ。

 文化祭の最後、生徒たちはキャンプファイアーの真っ最中。

 その、BGMの音楽が途切れた一瞬


「武藤涼華さぁぁああん!!俺と付き合ってくださぁぁいっ!!」


 全校生徒、全教師陣が居るにも関わらず、人目を気にせずに屋上から愛の告白をしたオカシイ男。

 周りが呆然と彼を見上げる中、私は恋に落ちたんだ。


―――――――……


「あっ」

 日本屈指の難関高、その校門付近に愛しい人の姿を見つけ、私は足を止めた。


 確か、イギリス人と日本人のクォーターだった気がする。

 日本人離れした端整な顔立ちと、色素が薄くて 光の加減によっては金色にも見える茶髪。澄んだ青い瞳。モデル並みの長身。スラリとした体型なのに、案外細マッチョ。

 誰か、彼の外見に問題点があるなら教えてくれ。


そんな学校一のイケメンが


「お願いします武藤涼華さん、貴方のことが好きなんです」


土下座して交際を申し込む相手も、これまた驚くほどの美女だった。


 風にたなびく艶やかな黒髪。真っ直ぐに切り揃えられた前髪と、全てを飲み込んでしまいそうな漆黒の瞳は、まるで日本人形のよう。


 美女と王子様――武藤むとう 涼華すずか宮代みやしろレイは、誰もが羨む 理想のカップルになるはずだった。


「いい加減にしてください、迷惑です」


 頭を擦り付ける勢いで懇願する彼に浴びせかけられたのは、武藤さんの鋭い視線と冷ややかな言葉。

 彼女はそのまま、踵を返して昇降口へと足を進めた。


 …うん、レイ様の告白は……なんていうか、予想外だよね。

 屋上からの告白から始まり、毎朝 犯罪並みに下駄箱に突っ込まれるラブレターの山。挙げ句に土下座。 憧れてた王子様のそんな姿を見せられたら、百年の恋も冷める。


 レイ様を冷たく振った武藤さんには男子たちの称賛の声がかけられ、代わりにレイ様には嘲るような視線が突き刺さる。


 自業自得だと、切り捨てることが出来たら楽なのに。

 惚れた弱味というやつか、彼の泣きそうな横顔を見ていると、じっとなんてしていられなかった。


 私は駆け出し、脇目も振らずに昇降口へ向かう武藤さんの前に立ちはだかると


「お願いです!レイ様と付き合って貰えませんか!!」


スカートが汚れることも気に止めず、膝を地につけて頭を下げた。……まぁ、土下座というやつです。

 ところが、さすがはクールビューティー武藤様。私のことなんて視界にも入ってないわよ とでも言うように、華麗にスルーされた。


 あぁ……何やってんだコイツ 的な視線が痛い。でも、仕方ないじゃん。私がこうでもしなきゃ、彼がその視線に当てられ続けるんだもん。一人ぐらい彼に味方が居たって、いいじゃんか。じゃないと彼が……レイ様が泣いちゃうじゃん。


 肩を叩かれて顔を上げると、柔らかな微笑みを浮かべたレイ様がいた。良かった……泣いてない。


「……ありがとう、柚木ゆうきさん」


別に、周りにどう見られたっていい。だって、レイ様が笑いかけてくれるんだ、名前を呼んでくれるんだ。なら私は、どんな醜態を晒してもかまわない。

 私は、ほとんどの女子が夢から醒めてしまっただろう、あのとんでもない屋上からの告白で、彼に恋してしまったんだから。



千架ちか!あんたまたレイ様の告白に協力したって本当!?」

 教室に入るなり、そう問いかけてきた友人に私は苦笑をこぼす。

 協力…全然協力なんて出来てないけどね。


 ハハハ と乾いた笑い声で誤魔化すと、友人ことありさちゃんは、ドンッと私の机の上に足を上げてきた。

 おぉう、パンツが見えちゃう!!……って、短パン履いてるのか。なんだ、焦って損した。


「千架!!あんたバカなの!?なんで好きな奴の恋の応援なんてすんのよ」

「なんでって言われましてもね~。ありさちゃんも恋すればわかるって……ぐぅえっ!」


ちょ、ちょい ありさちゃんよ。首絞めないで!あ、本気で苦しくなってきたよ……。

 眉間に深い皺を刻み、怒りを露にしていたありさちゃんは、突然顔を悲しげに歪めると、私の首を絞めていた指の力を抜いた。


「……ねぇ、バカじゃないの?バカなんでしょ。なんで自分の幸せのために動こうとしないのよ。私はね、あんなバカ王子のことなんてどうでもいいの。でも、あんたは……千架には幸せに…」

「ありさちゃん!」


私はなんていい友達を持ったのだろうか。でもここはあえて遮らせてもらうよ。

 私はゴソゴソと鞄を漁り、一冊のメモ帳を取り出した。


「見て!これね、どうやったらレイ様の告白が受け取って貰えるかの作戦が書いてあるの!!ほら、レイ様の告白って独特でしょ?だから代わりに私が考えてあげたんだっ!今日の昼休みに作戦会議する予定なの!!」


訝しげにメモ帳を読んだありさちゃんは、呆れたようにため息をついた。


「あんた、相当あの王子様に惚れてんだね」

「うんっ!!大好き」


 率直に言うと、私だって辛い。なんでライバルに好きな人をけしかけてるのか、自分でも時々わからなくなる。

 でも……私が協力すると、彼は笑ってくれるんだ。完璧そうに見えるけど、実はすっごい打たれ弱いし、そのくせにとんでもない行動するし、確かに残念すぎる王子様だけど。


 私は教室の外に、日光に照らされて黄金色に輝く髪の人物を見つけ、きゅっと胸辺りの制服を掴んだ。


 レイ様は、本当に武藤さんのことが好きなの。いくらひどいフラれ方をしても、周りに変な目で見られても、とにかく一途で。こんなにも人を真っ直ぐに愛せる人がいるのかってくらい、ただただ純粋に武藤さんを想ってるの。

 皆はきっとそれを知らないだけだ。知ってしまったら、応援せずにはいられなくなる。


「訂正するわ」


教室の外から目を移すと、ありさちゃんが笑ってた。


「千架はバカじゃなくて、ウルトラスーパーミラクルMAX超絶神級バカなのね」

「え!?ちょ、そこはせめて大バカ程度にしておくところじゃないの!?色々詰め込みすぎだよ!?」

「大バカじゃ足りないでしょう?」


ふんっと鼻で笑ったありさちゃんは顔をぐいっと近づけ


「ちなみに、そんな千架の気持ちに気付かない王子はウルトラハイパーミラクルMAX超絶神級DXバカよ」


心底面白そうにそう言った。



*******



「お前も懲りねぇよな」

「うぅ…」

ばつが悪そうに俯く目の前のイケメン。口を尖らせる様まで美しいってどういうことだよ死ね。

 お前の外見ならどんな女でも引っ掛けられるだろうに、なんでよりによって武藤――許嫁がいる女に惚れるかな。


 俺は菊池 晃我こうが。良い意味でも悪い意味でも目立ちまくりな王子様、宮代レイの数少ない友人。

 いや、前から変わった奴だとは思ってたぜ?実家が金持ちらしく、金銭感覚おかしいし、誰にでも紳士的だし、この難関高で成績一番だし、運動も出来るとかマジいっぺん死んでこい。おかしいところ語ろうとしてたのに誉めちぎっちまったじゃねーか。

 そんなレイがやらかしたのは数週間前の文化祭。皆 唖然としてたぜ、あの告白に。俺は大爆笑してたけどな。おまけに次の日から変な女の子までトンデモ告白に加担してるしよ、笑い殺されるかと思ったわ。


「んで?今日はどんな告白したんだよ」

「いや、なんか色々やりつくしちゃったし、ストレートに行こうかなって」

「だから何したんだよ」

「土下座」

「………………………は?」


いや、俺の聞き間違いだよな?コイツ、真面目な顔して何つった?


「だから、土下座した」


 ケロッとした態度でそう言ってのけるレイに、俺は目眩がした。あのな、土下座は謝る時に使う最終手段なんだぞ?告白の場面で……特にお前みたいな美形が使って良いものじゃねえんだよ!ますます残念王子に磨きがかかってきてんだろが。


「ハァ……それで、あの変人は」

「変人じゃなくて、柚木さんね」

「………………………。その柚木さんは何したんだよ」


 トンデモ告白に毎回様々な形で協力してくる変人女。レイはもちろん面白いけど、変人が加わると二倍面白い。だから俺はいつも、二人が何したか聞くんだが……。


「あ、んっ……柚木さんはね」


そいつの話題になる度に頬を紅に染め上げるレイ。

 時に嬉しそうにはにかみながら、時には照れて目線を反らしながら。変人のことを話すときのレイはいつもの数十倍乙女だ。

 美形過ぎてそれさえ違和感ねぇのがイラつく。


「柚木さんも土下座してくれたんだ。武藤さんに『お願いです!レイ様と付き合って貰えませんか!!』ってね」


ぶふっ……マジかよ。相変わらず頭おかしいな 変人女。

 俺が一生懸命笑いを堪えようと口を手で覆っている向かいで


「…可愛かったなぁ、柚木さん」

と目元を緩めるレイ。


 前から思ってたんだが、お前 告白する相手間違えてねぇか!?

 俺と居るときにいつも話すのも変人のことだし、変人の名前に過剰に反応するし、いつも目で追いかけるのは変人の姿だし。どれも武藤涼華には見せたことのないものたちだ。


「なぁレイ、お前さ」

「ん?」


コテンと首を傾げる仕草に、クラスの女子たちが吐血する。一部男子も。

 あの告白からファンは減ったと思ってたが……相変わらず魅了するんですね、さっさと地獄に堕ちやがれ。


「お前さ、告白する相手がちげぇんじゃねーの?」

「なんで?」

「だってお前、明らかに武藤より柚木のが好きだろ」

「そうだよ?」


それが何?とでも言うような碧の瞳に、俺は絶句した。


「じゃあ何で……」

「柚木さんは優しいし、落ち込んでた俺を励ましてくれて、いつも俺に笑顔をくれる人だよ。彼女の側は暖かくて居心地がいいんだ。柚木さんの旦那さんになれる人は幸せだよね、羨ましいと思うよ」


いや、いやいやいやいや!おかしいだろ!?じゃあ何で


「告白しねぇーの!?」


そう言うとレイは


「…………あ」


 今気付きました~とでも言いたそうな顔をした。


「い、今気付き…」

「はぁぁぁああああっ!?お前バッカじゃねーの!?じゃあなんで武藤に告白し続けてんの!?」

「え、だって柚木さんが応援してくれるから 、何かそういう流れで」


 ……くっ、なんか色々通り越して脱力してきた。

なんで流れで告白とかするかなぁ!?許嫁のいる冷徹武藤だから良かったものの、間違ってOKでもされたらどうするつもりだったんだよ!?!?!?


「ぐぇ…晃我、落ち着いて」

「これが落ち着いてられるか!!今すぐくたばれこの天然記念物!」

「え!?天然記念物は殺しちゃダメだよ……ぐふっ!ちょ、苦し」

「てめぇのこと言ってんだよボケナスがぁあ!!誰が本物の天然記念物殺すって言った!?ぁあっ!!?」

「だ、誰も言ってないです」

「そうか、なら良い」


レイも苦しそうだったし、離してやったけど


「あ~あ、制服が乱れちゃった」

当の本人は何事も無かったかのように、崩れたネクタイを片手でシュルッとほどき、器用に結び直した。

 ……まぁ、空手に合気道、柔道やらフェンシングやら、護身術のためにあらゆる武道を身に付けてるやつに、一介の不良でしかない俺の攻撃が効くとは思ってなかったけどよ。思ってなかったけど……すっげームカつくなお前。苦しがってたのは演技か!?そうか、ハリウッドでも目指せよこの色男。俺がレッドカーペットの上で殴りかかってやるから。


「…ありがとう晃我」

「ぁあ!?なんだよ」

「お前のおかげで気付けたよ。俺の友達がお前で、本当に良かった」


そう言ったレイは、俺の机に手を付き、ぐっと顔を近づけて


「あの子を……俺のものにしてくる」


普段の天然ボケなレイからは考えられないほど大人びた表情で不敵に笑うと、脱いでいたブレザーの上着を肩に掛け、もうすぐ授業だってのに、窓枠を飛び越えて廊下に出た。

 そのまま、50メートル5秒台を叩き出すその足で走り去っていった。


 ………おい、落とす相手がちげぇっての。周りを見渡すと、クラスの奴らはもちろん、既に教室に来ていた教師まで全員 顔を真っ赤にしてる。

 本当にトンデモねぇな。俺まで惚れるかと思ったわ。



********



「兄さんにしてはよくやったじゃない」

「はいはい、双子の妹さんに褒めて頂き光栄ですぅ~」

「あっ!?バカにしてんの?」

「おいありさ、すぐその人の首絞める癖ヤメロ」

「これは不良の兄さんに似たんだから兄さんのせいよ」

「はっ!?なんで俺の…いだだだだっ!」

「……でもまあ、今回のことは感謝してる。ありがとうね、私の親友を笑顔にしてくれて」

「はっ、誰が変人のためなんか。……俺はただ俺の親友のために奴の目を醒まさせてやっただけだよ」

「ちょっと、千架のこと変人って言わないでくれる?」

「てめぇだってレイのことウルトラハイパーミラクルMAX超絶神級DXバカとか言ったじゃあねぇか」



 その日の放課後、校門で迎えの車を待っていた私――武藤涼華は、仲睦まじく手を繋いで帰った出来たてホヤホヤのカップルと、そんな二人を見守る騒がしい兄妹の様子を見て フッと口角を上げた。

 良いですね、とても微笑ましいです。冷たく宮代くんを振り続けた甲斐があったといいますか……。

 あぁ…彼らを見ていたら園田そのださんに会いたくなりました。


 ちょうどそう思っていた時、校門前に一台の高級車が止まった。

 その運転席に座っている愛しい許嫁の姿を見付け、私は笑顔で駆け寄った。


「お帰り、涼華」

「ただいまです、園田さん」


 高校を卒業すれば園田さんと結婚出来る。楽しみだなぁ。

 私は普段、クールビューティーとか冷徹鉄仮面と言われる顔に、学園の人たちが想像もできないような満面の笑みを浮かべて、園田さんの肩に頭を預けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ