乙女ゲームの攻略対象者たちがBL気味なんだけど、どうしよう
【あらすじ】
乙女ゲームをなめてたら、神様の怒りを買って乙女ゲーム世界に召喚されました。対象者を全員攻略して逆ハーレムを作り上げたら元の世界に返してくれるらしいんで頑張ります!
……って思ってたのに、なんか対象者たちがBL気味なんですけど!?これどうやって攻略しろって言うのよ神様のバカァァア!!! っていう感じのお話。
私は、調子に乗ってた。
自称 乙女ゲームマスターなんて言って、「私におとせない男なんていない!」と ほざいてた。
だからだろうか?乙女ゲームの神様の怒りでも買ったのだろうか?
私は……
金井 三咲、16歳。
乙女ゲームの世界に召喚されました。
そう、召喚。転生じゃなくて召喚。
ある日突然、全てを元の世界に残してこちらへ連れてこられた。
私を連れてきた(というか、ほとんど拉致に近い)自称 神様によると、この世界の攻略対象者たちを全員攻略して逆ハーレムエンドを迎えることが出来れば元の世界に帰してくれるらしい。
リアル男子を攻略するのは初めてだけど、早く自分の世界へ帰りたいし、何よりここで怖じ気づいたら乙女ゲームマスターの名が泣く!と、その案を受け入れた。
ゲーム補正か、私の外見もかなり美人になってたしね。待ってろよイケメン共!
そう意気込んでた時期もありました。
「ねぇ爽ちゃん、俺のこと嫌い?」
「俺が瞬を嫌うわけないだろ」
ちょ、ちか…近いって!お互いの太股に手を置くなぁ!!いくら幼馴染みだからって仲良しにも限度があるぞ!
「兄さん米粒ついてんぞ。ほら、取ってやるからじっとして」
「……ありがとう」
え?その指で取った米粒、まさか……うぎゃぁああああ!!食べた!弟くんそのまま食べちゃったよ!!
兄弟愛はダメだって!
「先生、集めてこいって言われたノート持ってきて…うわっ!」
「っと……アブねーな。本当にお前はよく転ぶな。危なっかしくて目が離せねーよ」
ノォォォオオオ!!早く離れろ、離れなさいそこの二人!抱き合ってるみたいになってるから!生徒と教師が抱き合ってるみたいになってるからぁあ!!
……ハァ、つっこみ疲れたわ。
もうおわかりかな?この乙女ゲームの世界
攻略対象者たちがBL気味なんですけど!!
てかもうカップル成立しちゃってません?他人が入る隙間無くないですか?
この人たちを全員攻略とか、どんな無理ゲーよ。
確か神様が
「君、乙女ゲームマスターなんだってね(笑)。じゃあちょっと難易度あげておくね」
とか言ってたけど……
上げすぎだわ 馬鹿野郎。もはや攻略の糸口すら掴めないわ。
完全に乙女ゲームマスターっていうネーミングバカにしてたし、絶対私のこと恨んでるよね?元の世界に帰す気ないよね?
私だってさ、幸せそうな彼らを引き裂くのは心が痛むし……ハァ。帰るのは諦めないといけないのかなぁ。
私は膝を抱えてしゃがみこむ。
BLのカップルを木陰で観察しながら泣きそうになってる美女ってどうなの。
クソッ!人が悲しんでる時にイチャついてんじゃねーぞリア充。爆ぜろ。
教室に行ってからも私の落ちた気分は上昇しない。いや、いい加減慣れろって話なんだけどさぁ。そういう場面を見るたびに、お前は帰れないんだって言われてるみたいで辛くなる。
私が机に突っ伏し、ジメジメとキノコを生やしていると、不意に私を呼ぶ声がした。
「金井」
あ~この爽やかボイスはあの人ですね。
チラッと視線だけ上げてその人物を確認する。
ほら、やっぱり。皆さん、彼こそが幼馴染みカップルの攻めのほう、爽ちゃんこと 早川 爽矢くんです。
ちなみに私のクラスメイト。受け担当の瞬くんとやらとはクラスが離れたらしいよ ザマーミロ。
「何、早川くん」
「あ…あぁ、あいつが金井を呼んでくれって」
何故かどもりながら答えた早川くん。あ、軽く睨んだのがバレたとか?
まぁそれはいいとして、早川くんが指差す方向を見ると、教室の入り口の所に、1年生らしき美少年が立っていた。うん、身長が伸びれば将来有望なんじゃないかな?
あ、ちなみに私は2年生。
告白かな~なんて浮かれながら席を立つと
「……金井っ」
ガシッと早川くんに腕を掴まれた。何故だ。
「ん?」
首をコテンと傾けながら、腕を掴んでいる大きな手をみつめていると、早川くんはバツが悪そうに なんでもねぇ… と、手を離した。なんなんだ。
とりあえず意味不明なホモはほっといて、緊張のためかガチガチに固まっている美少年の元へ向かう。
「あ、あの!金井 三咲さんですよね?俺、1年の菅井 昌樹っていいます。放課後、体育館裏に来てもらえますか」
震える拳を握りしめ、身を小さくしながらも一生懸命 言葉を紡ぐ菅井くんは可愛かった。思わず抱き締めそうになった。
そりゃあ私だって女ですから、振り向いてくれないホモイケメンより自分を思ってくれる美少年のほうが好印象だよ。いや、まだ思ってくれてるって決まったわけじゃないけどさ。
「わかった」
私がそう言って微笑むと、菅井くんは何故か一瞬顔を歪めた。でもそれはほんの僅かな秒数で、次の瞬間にはその端正な顔に安心の色を浮かべてた。
「ありがとうございます。それじゃあ放課後」
遠慮気味に手を振りながら駆けていく菅井くんを見送り、振り向くと、早川くんが複雑そうな表情でケータイに何かを打ち込んでいた。
メール?あの様子だと痴話喧嘩かな、どうでもいいな。どうせすぐ仲直りするんだろ、そして喧嘩前より仲を深めたりするんだろ。末長く爆発しろ。
そして放課後、私は言われた通りに体育館裏に来た。こんなところに呼び出しなんて、告白かリンチかのどっちかだよね。ま、私の場合は前者かな~と調子に乗ってた。すぐ調子に乗るのは私の悪い癖かもしれん。
「キャハハッ、マジで来たよ~」
「傑作だわ。まさかコクられるとでも思ってた?」
「ざぁ~んねんでしたぁ」
スカートを下着が見えないギリギリの位置まで折り、シャツのボタンを第2ボタンまで開けている派手な女の先輩に連れられた、真っ青な顔の菅井くんをみて、 えっ!?そっち?まさかのリンチ!? と思ったことは言うまでもない。
本当、自惚れてた自分が凄く恥ずかしい。
「何か用ですか?」
その恥ずかしさを誤魔化すように、ツンとした態度を取ってみる。
「何の用って……自覚無いわけ!?」
「まー落ち着きなよ~、どうせ自分が何してんのかもわからないバカなんでしょ」
「単刀直入に言うわ。皆様に近づかないでくれる?」
そう言いながら派手な女先輩の一人は、私の方へ手を伸ばした。紅いマニキュアを塗った、長く鋭い爪が私の頬をなぞる。
ちょっと痛いよ。案外力入れてますよね?食い込んでますから。
鋭い爪が顎を伝い、首まで下りてきた時 「ひっ……」と 誰かが息を飲むような悲鳴が聞こえた。その声に私も女先輩もそちらを振り返る。
するとそこには、可哀想なくらい顔を青くした菅井くんがいた。
…………あ~ごめん。少しだけ存在忘れてた。
「菅井くん、帰ってもいいよ」
これ以上怯えさせないように笑いながら言うと、彼は目を大きく見開いた。
菅井くんは、悪くないと思うんだ。
私だって派手な男の先輩たちに「ちょっとあいつ呼び出してきてくんね?」とか言われたら、素直に従っちゃうもん。そして帰っていいなんて言われる前に速攻で逃げるね。
それをしない辺り、菅井くんは優しい。少なくとも私よりは。だから逃がしてあげる。
暫く迷った様子だった菅井くんは、ごめんなさい!!と叫んで走り去っていった。
さて、どうしよう。
私は目の前の女先輩たちに向き直る。
近づかないで近づかないでと言われても、ねぇ?
彼らがカッコよくてモテるのはわかるけど、こっちにも事情っていうものが……。
「彼らの恋愛の邪魔をしないで!」
えっ!?そっち?
どうしよう、これ言ったの本日二回目だ。
「邪魔しないでって……まさか先輩たち腐…」
「腐女子だよ!!悪いか!!」
なるほどね。それなら確かに私の存在はこなく邪魔ですね。
「決して許されない禁断の感情!」
「それなのに加速する恋情!」
「障害が多いほどに盛り上がる恋……」
「「「BLこそ至高!」」」
打ち合わせでもしてたんだろうか?まるでアクションヒーローみたいにビシッとポーズを決めた先輩たち。なんだろう、憎めないこの人たち。
……………BLこそ至高、か。
「金井っ!!」
私の思考を断ち切るように校舎裏に響いた声に、視線は自然とそちらを向いた。
そして目を見張った。
「大丈夫か!?」
「金井ちゃんから離れて」
「てめぇら……そいつに何した!」
「……三咲さん、無事?」
「金井さーん!」
「教師の前でリンチなんざ、いい度胸だな」
上から順に、幼馴染みの攻め、受け。双山兄弟の弟、兄。どじっ子栗山くんに色気が半端ない新谷先生です。
それよりなんでここに?と思っていたら、彼らの後ろに隠れている菅井くんを発見した。
呼びにいってくれたんだ……嬉しいけど、たぶんこの先輩たち害ないから平気だと思う。
ちなみに腐女子先輩たちは彼ら勢揃いのご登場にテンションが上がったらしく、頬を紅潮させ、鼻息荒く去っていった。
いやー、それにしても皆さん優しいですね。あまり関わりのない女生徒のためにわざわざ集まってくれたの?ますますホモってのが残念。普通に女子に目を向けれたなら……
「カッコいいのに」
「「「「「「え?」」」」」」
おっと、声に出ちゃってた?ヤバイヤバイ。
私は素知らぬふりして彼らに頭を下げ、満面の笑みでお礼を言ってその場を離れた。
余談だけど、この時の笑顔には『攻略対象のくせにホモってんじゃねーよ。五秒後にこいつら爆発しますよーに♪』っていう呪いも込められてるから。
家に帰って部屋のドアを開ける。今日は疲れた、早く寝ようとベッドに視線を移す。
「あ、おかえり三咲ちゃん」
何故にお前(神様)がここにいる。しかも人のベッドの上でくつろぐな!
私がキッと睨むと神様はニヤニヤと口角の端を上げた。
「それで?攻略は順調~?」
あ、こいつ確実にバカにしてる。どうせ上手くいってないことも知ってるくせに。
私は怒りまかせに鞄を床に叩きつけ、バスタオルと着替えを持って部屋を出た。
「あれ、どこ行くの?」
「お風呂です!覗いたりしたら殴り飛ばしますからね」
「冗談言わないでよ。誰が好き好んで君なんかの覗きなんて…ふぎゃっ!!」
おっと……手が勝手に。
私の豪速球クッションを顔面で受け止めた神様は、ベッドに仰向けに倒れた。その様子に満足しつつ、お風呂に向かう。
「クスクス……乙女ゲームマスター、ね」
クッションの痛みから立ち直った神様は、三咲がいなくなったことを確認し、空中にステータス画面を展開させた。
乙女ゲームの進み具合や好感度が一目でわかる画面を見つめながら、神様は笑みを深める。
表示された好感度ゲージは全て赤色。つまり、好感度MAXを表している。
「さすが、小っ恥ずかしいあだ名を豪語するだけはあるっていうか……隠しキャラの菅井くんまで攻略済みとはさすがだよね」
まぁ、当人がそのことに気付くまでこのゲームは終わらせてあげないけど。
「そうだ!もっと隠しキャラ追加しちゃおーっと」
まさか神様がそんな独り言を漏らしているとは露ほども知らない私は
「どうしよう~、最近BLが美味しくなってきた自分がいるよぉ。そこだっ、もっと攻めろっ!なんて思ってる自分がいるよぉお!」
開いてしまった新たな扉に困惑しながら、湯船に体を沈めていた。
攻略しなきゃなんないのに、腐ってどうすんの私。こんなんじゃいつまで経っても帰れないよぉっ!!
*****
三咲が去っていった後の校舎裏。
七人の男たちは頬を朱色に染め上げ、硬直していた。
「……笑った。普段俺たちとは目も合わせようとしないのに」
「爽ちゃん、それよりも彼女が言ったことのほうが大事だよ」
「あぁ……“カッコいい”って言ったよな?だよな兄さん」
「…………うん、確かに、そう言った」
「金井さん…どうしてあんなに可愛らしいんでしょう」
「爽矢から金井が呼び出されたってメールが全員に送られた時は焦ったが……おい、菅井。どうせお前も惚れたんだろ」
「は、はいっ!俺、先輩を守れるような男になってみせます!いくら先輩や先生たちが相手でも、譲りたくありません!!」
「「「「「「負けねー(ない)よ?」」」」」」
人気のない校舎裏。
徐々に傾いていく夕日に照らされながら、学園の人気者たちがそんな会話を繰り広げていることを知るものは、
この世界を造り出した神様ただ一人だけ 。