異世界に来ちゃった魔王代理は可愛いものが大好きです!! Rturns
【あらすじ】
前作『異世界に来ちゃった魔王代理は可愛いものが大好きです!!』の続編です。
「大丈夫?本当に見つからない?」
「安心しろリュナ。我が発見した最高の隠れ家だぞ」
「貴方の言うことだから信用できないのですが…」
「な、なんだと!?」
「いやスザーク。ここはリファレを信じよう」
「……メロ、お前いいやつだな」
あぁぁぁ……なんだろう。なんなんだろう、この可愛さはっ!
皆さんこんにちは、高橋りりなです。
魔王代理を勤めてから半年、勇者御一行が来てから三ヶ月が経ちました。
今は皆でかくれんぼの真っ最中。鬼は私で、時間内に全員捕まえられたら、一時間 存分に可愛がらせてもらう約束をしている。
それを聞いた瞬間、皆は顔を青ざめさせて散々に逃げていった……はずなのに。
なんで一緒に隠れてるの!しかもそのとっておきの隠れ家が小さな鉢植えの裏側とか、立って探してる私には丸見えだよ? 今日も絶好調で可愛すぎる皆は本気で私を殺しにきてる 。今すぐにでも悶え死にそうだよ!
私はそろそろと鉢植えの後ろに忍び寄り、大きく深呼吸をしてから
「みーつっけたっ!!!」
「「「「!?」」」」
がばっと両腕で四人を抱き締めた。
その勢いのまま、柔らかなほっぺに頬擦りする。
嫌がる皆に、一時間可愛がらせてくれる約束ですよ? と言えば、面白いくらい一斉に固まった。
「だから言ったんですリファレの言うことは信用できないと!」
「なっ……スザーク、黙って聞いておれば…これ以上我を愚弄するのは許さぬぞ!!」
腕の中で喧嘩を始めたのは魔王様と僧侶様。犬猿の仲と言いますか、目を離せばいつも口論をしています。
でも、お互いに名前で呼びあったり、遠慮せずに言いたいことを言えるのは、仲がいい証拠だと思うんですよね。
良かったですね魔王様。初めて見たとき、なんて美しい人だろうと思った。同時に、近寄りがたいとも。だけど今はそんな雰囲気はなくて、確かに威厳は減っちゃったかもしれないけど、前より何倍も楽しそうだ。
そうそう、ラテ……ラテバナ?の件だけど、私は何もしていない。
いや、やることはいっぱいあったらしいんだよ。でもモンスターたちに
「人間界は雨が降らなくて困ってるんだって~」
って言ったら、水竜さんが雨を降らせ、
「王都付近には盗賊が蔓延って大変らしいね」
と独り言を漏らせば、次の日には盗賊たちは王都の側から姿を消したらしい。
部下たちが優秀すぎて怖い。最近じゃ私が何も言わなくても自ら出来ることを探して人間たちの役にたっているらしい。
そのおかげか、人間たちと仲良くなったらしいよ。魔王城を潰そうと躍起になってた王様も考えを変えたとか。
もう一度言う。部下たちが優秀すぎて怖い。私にやることがなにも回ってこない。
まぁ、余った時間を四人を可愛がることに使えるから私としては万々歳だけどね。
「じゃあ一人一時間ずつですからね。まずは魔王様!」
「!? ち、ちょっと待て!」
「はい?」
「四人で一時間ではないのですか!?」
「そうだよ!聞いてないよ!」
必死に抗議する四人、可愛い。
その様子に頬を緩めつつも、有無を言わせない口調と笑顔で「一人、一時間です」と言えば、トップバッターである魔王様が踵を返した。それをすかさず捕まえる。
それでは可愛がりタイム、スタート!!
ここでちょっと、皆の可愛がった時の反応をまとめてみようと思う。
まず魔王様は、一番可愛がられ歴が長い分、さすがというか。一応抵抗はするものの、私が膝の上に乗せると、仏頂面ではあるものの、おとなしく撫でられてくれる。抵抗は無駄だとよくわかっているらしい。からかって「お利口ですね」と言うと睨まれるが、頬を膨らませるだけで暴れたりはしない。可愛い。
勇者様は可愛がられるというか、女性に触れられることすら慣れてないのかな?膝の上に乗せると、氷像のようにカチンと固まる。まばたきもしない。時々 呼吸すら止まってて、非常に危ない。慌てて床に下ろすと急いで呼吸を開始する。きっと数々の強敵を倒してきたであろう人なのに、膝の上に乗るだけで過呼吸なんて可愛すぎる。
魔導師様は案外ノリノリで、「髪サラサラですね」と撫でれば嬉しそうにはにかみ、「そうでしょ?もっと撫でていいよ~」と頭を擦り寄せてくる。そんな魔導師様の弱点は脇腹で、そこをくすぐると途端に涙目になり抵抗してくる。犯罪並みに可愛いからといって苛めすぎると口を利いてくれなくなるからほどほどにしてあげないといけない。
僧侶様は暴れる。ひたすら抵抗する。僧侶様を可愛がろうと思えば、不穏な気配を察知してか、大抵どこかに隠れてる。まぁ、見つけるけどね。いい加減慣れればいいのに、ずっと抵抗し続けるから、可愛いがり終えるころにはグッタリしてる。その様を見るたびに、 疲れるなら暴れなきゃいいのにっ! と悶える羽目になる。
それぞれの反応を見せてくれる四人の可愛がりはいつまで経っても飽きない。とりあえず、皆 超絶可愛い。
最後の僧侶様を撫で終わり、満足していると
「りりな様大変でございます!!」
乱暴にドアを開け放ち、モンスターが入ってきた。
……うん、なんかデジャヴ。
「なにかあったの?」
「はい、実は…」
額に大粒の汗を浮かべたモンスターが、深呼吸をしてから口を開いた。
「ソフレ様が……」
「ソフレ?」
「ソフレだとっ!?」
私と勇者様たちが首を傾げる一方で、魔王様は興奮したように叫んだ。
この様子だと、魔王様の知り合いかな?
「あの、ソフレって誰ですか」
「あぁ、お前たちは会ったことなかったな!」
尋ねると、魔王様は瞳をキラキラさせながら語ってくれた。
「ソフレはな、我の右腕的な存在だったのだ。悪魔の末裔で、とっても優秀な奴だったんだぞ。我に忠誠を誓っておってな、りりなが魔王代理になることに反対してこの城から出ていってしまったが……戻ってきたのか」
そうソフレという人物について話す魔王様はひどく懐かしそうで、出会って半年しか経ってない私なんかにはわからない絆を感じた。
……そんな人が、私に反対して出ていっちゃったんだ。魔王様は、それで良かったのかな?
「その、魔王様」
「なんだ」
「お、落ち着いて聞いてくださいね?冷静な判断をお願いしますね!?」
「だからなんだ」
嬉しそうな魔王様に、モンスターが言いずらそうに言葉を濁す。
なんだか嫌な予感がするんですが。
すぅっと息を吸い込んだモンスターは
「ソフレ様が……りりな様を倒しに来ました」
真剣な目でそんなことを言った。
「………え」
「「「なっ!?」」」
「…………………は?」
魔王様はもちろん、勇者様たちも驚きの声をあげる。
私は……
「へ~倒しに来るんですか。どうしようかな」
当事者とは思えない、呑気な声を出した。
「えぇぇぇええっ!?なんでそんな余裕なの!?!?」
「"どうしようかな"…なんて言ってる場合ですか!もっと危機感を持ってください!!」
すると魔導師様と僧侶様に非難された。
でもなぁ……なんだかんだで命の危機をチート魔法で乗り越えてきたから、今回もあれを発動すればなんとかなるんじゃないかな~としか思えない。だってあの魔法、本当にチートだから。
私はショックを受けているのか、放心している魔王様の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「安心してください魔王様。そのソフレ様とやらも可愛い姿に変えてやりますから」
元気付けるように笑えば、魔王様も笑みを浮かべてくれた。大分無理矢理ではあったけど。
「よしっ!!かかってきなさいソフレ様!皆の者ーっ、戦の準備じゃーーっ!」
気合いを入れて拳を突き上げる。
私だって、異世界で殺されてたまるかっての。
「……そう上手くいくといいけどな」
そんな勇者様の声が聞こえたのは、きっと気のせいだよね?
――――――――……
あぁ、私のバカ。大事なこと忘れてんじゃんか。
四人を背に隠しながらジリジリと後退する私を、ワインレッドと銀色のオッドアイがみつめる。
ソフレ様の後方には、いつも私に尽くしてくれる、優秀なモンスターたちが転がっているのと、そんなみんなを見下ろす反乱軍の人達が見えた。
馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だ大馬鹿だ。
私はグッと手を握り、震えを誤魔化すようにスカートの裾を掴む。
お願いっ!発動して!!
そう祈るような気持ちで彼に向かって手をかざす。
「チート魔法、発動!!」
ところが右手から出てきたのは、夏だったら少しは涼しいかもね ぐらいの小さな小さな風だった。
そうだよ。私まだ魔法のコントロール出来てないんだよ!!
あれから練習はしたけど、全然使いこなせない。最近は特に使う必要も感じなかったから ま、いっかぐらいにしか思ってなかったけど……まさかこんなことになるなんて。敵がたくさんいるとも思ってなかったし。
そうしている間にも 藍色の髪にオッドアイ、口元から犬歯を覗かせるイケメンは私たちとの距離を詰めてくる。
はい、ソフレ様も美形でした。でも今はそれを喜んでる余裕は無い。
「ま、待ってください!話し合い、そう!話せばわかると思います!!」
大袈裟な身振りと親しみやすい笑顔付きで説得してみたものの、
「********」
ソフレ様の口から出てきたのは、かろうじて聞き取れるほどの意味不明な機械音だった。
嘘、もしかして言葉通じない!?これじゃあ話し合いなんて意味ないじゃん!!
こうなったら武力行使……いや、あの強いモンスターたちを一瞬で床に沈めた人だ。チート魔法無しの私が勝てるわけがない。
さすが魔王様 自慢の部下。強さが尋常じゃない。対するこちらは、チート魔法が上手く発動しないと何も出来ない女子高生と、私の魔法のせいで本来の力が使えない四人の天使……。
冷や汗が背中を伝った。
こうなったら私が出来ることは一つだけだ。
「チート魔法、発動発動発動!!」
とにかく何か強力なのが出るまで連射するしかない!
だけど、地面に花が咲いたり、上から紙吹雪が降ってきたり、爪の先に火が灯ったり。こんなときに限ってどうでもいいものしか出てこない。
どうしよう。でも、これしか方法が…
「りりなちゃん!?凄い汗だよ!」
「へ?」
魔導師様に言われて頬を腕で拭ってみると、確かに物凄い量の汗が流れていた。マラソンを走り終わった後でもこんなにかかないよ。
「アホっ……魔力の使いすぎだ!下手したら死ぬぞ!!」
「りりなさん、ここは逃げたほうが賢明です!」
「…りりなっ!」
へー、魔力って使いすぎれば死ぬんだね、初めて知った。
でもね、逃げたってどうせすぐに追い付かれる。
それに……仮にも私は魔王代理だ。魔王城
から逃げるわけにいかないよ。だって、モンスターたちは私を守るために闘ってくれたんだもん。
必死に私の心配をしてくれる四人に微笑む。
「大丈夫。きっと大丈……ぅぐっ」
頭を撫でようと手を伸ばすけど、急な息苦しさを感じて、その手を首元に持っていった。
すると、私の首を締め付けている長い指に触れた。誰のものかなんて考えなくてもわかる。
恐る恐る視線を上げると、こちらをきつく睨むオッドアイと目が合った。
彼に首を絞められたまま、私の体は上昇していく。片腕で人を持ち上げるなんて、すごい腕力。
気道が絞められ、視界が霞む。
下で四人が何か言っている気がするけれど、意識が朦朧としてきて上手く聞き取れない。
ごめんなさい。魔王様、勇者様、魔導師様、僧侶様。
それからベベとモンスターの皆たち。
たぶん、私はラティヴァナじゃなかったよ。英雄がこんな役立たずなわけないもん。魔王業だって、これといった何かが出来たわけじゃないし。
結局私は、見せかけで皆を騙すような感じになっちゃった訳だけど。
それでもこの半年間、すっごく幸せだったなぁ。
首元に置いていた右手を離し、ゆっくりとソフレ様の眉間近くに持っていく。
何の策もない、ただの悪あがきだ。
「チ…ト、まほ……発っ、動」
息も絶え絶えになんとか紡ぎだした発動呪文。
次の瞬間、辺りは眩い光に包まれた。
フッと首の拘束が緩み、腰から地面に叩きつけられる。
この光は、あの魔法だ。
ピンチの時にやっと発動するなんて、粋なことしやがる。
私は一発逆転を確信して、光が収まる頃に瞼を上げた、が。
「…えっ、……何で!?」
目の前に立つソフレ様は、変わらぬ大きさだった。
さっき私から手を離したのは、単に目が眩んだだけみたい。
じゃあ、さっきの光は!?魔法は……失敗だったの?
依然として私を上から見下ろすソフレ様に、絶望を感じた。もう無理だ。魔力の残りが少ないのか、指の一本にすら力が入らない。
ぐらりと傾いていく体。硬い床に衝突する数センチ前。
「魔王代理、ご苦労であった」
誰かのたくましい腕に抱き止められた。
どうして……と、驚きに目を見開くが、すぐに理解した。
なんだ、そういうことか。さっきの魔法は、失敗なんかじゃなかったんだ。
「後は任せろ」
「全く…あなたは無茶ばかりするのですね」
「今度は、僕らが守る番だよ」
聞き慣れた声と共に、元の大きさに戻った四つの頼もしい背中が、私を庇うように前に立った。
ズルいな………カッコよすぎるんですけど。
「頼みがある。あれでも我の大事な部下たちだ、殺さないで欲しい」
「…承知した」
「OK~!楽勝だね♪」
「甘いですねリファレ。……今はあなたに従ってあげますが」
ソフレ様と対峙する魔王様と、反乱軍を鎮圧に向かう勇者様たちの勇姿を瞳に焼き付けて、私はそっと瞼を下ろした。
段々と意識が深いところに潜っていく感覚がする。これは……起きるのは数時間後かな。
そこで意識はぷっつりと途絶えた。
そうして次に目覚めたのは五時間後。
「…ま、て…んし……待って私の天使!」と寝言を言いながら飛び起きたら、目玉を丸くしたベベが居て、「……りりな様らしい寝言ですね」と苦笑された。
なんか、寝言までこんなんですみません。
私はぐるりと部屋の中を見渡した。見慣れた私の部屋だ。一体誰が運んでくれたんだろう?あの場にいたのは敵と小さな天使たちだけだったはず…。
「……あっ!!」
「どうしたのですか、いきなり大声だして」
「ベベ、あのさっ…皆は」
そう尋ねると、ベベはにっこり笑った。
「もうすぐこちらにこられるかと」
「違っ…あのね、私、皆が元に戻るのを」
あのとき見た背中は、確かに本来の姿の皆だった。あれは、夢?それとも……
不安を露にした顔でベベをみつめていると、不意に部屋の中の空気が変わった気がした。
私でもわかる、膨大な魔力がピリピリと肌を刺す。私の魔力は多いらしいから助かった。普通のモンスターたちなら、きっとこの場にいるのも辛い。
案の定ベベが、私はこれで と部屋を出ていった。
代わりに入ってきたのは――…
「なんだりりな、随分小さくなったな」
「もう起きて平気なのか?」
「通常ならあれだけ魔力を乱用すれば即死、耐えても回復に一週間はかかりますよ。相変わらず規格外ですね」
私用に設計されたドアを狭そうにくぐりながら入ってきた美形軍団。もう見上げないと目を合わせられない。可愛い要素なんて、何処にあるって言うんだろう。もうかっこよさや美しさしか見当たらない。
久しぶりに見た皆の大きな姿から、私は目が離せなかった。
……あれ?魔導師様は?と思っていたら
「うわっ、りりなちゃんちっちゃーい!ほら見てみて!腕の中に収まっちゃうよ」
「!?い、いつの間に!」
後ろから抱き締められ、案外しっかり筋肉が付いてる腕にガッシリと閉じ込められた。
え、ちょ、ナニこれ!?
可愛がることには慣れているけど、私自身が誰かに可愛がられることは慣れてないから、プチパニック状態だ。
「あ、あのっ!ま、魔導師、様っ!?早くこれ離し」
「りりな、反乱軍は我が鎮圧しておいた」
「お前が最後に放った魔法は、俺達の魔法を解くものだった」
「モンスターたちの手当ても済ませておきました」
「城の修復もしておいたからね~」
え、ありがとうございます…………って、何で今それ話すの?
訳がわからずに首を傾げると、魔王様が不適な笑みを浮かべた。
「これで、何も心配は無いだろう?」
「そ、そうですけど……あの、何故近づいて来ているのでしょう?」
後ろから魔導師様に抱き締められ、身動きの取れない私に、魔王様は一歩一歩距離を詰めてくる。
ついにベッドの所まで来た魔王様は、そこに方膝を付き、右手で私の顎を掬い上げた。
「よくも、今まで、散々、我等を可愛がってくれたな?」
無駄に色気を撒き散らしながら、愉快そうに笑う魔王様。なんだろうこの嫌な予感。
誤魔化すようにへらへら笑って どう致しまして~という言うと、大きな手で頬をプレスされた。
そして魔王様はとんでもない爆弾を落としてきた。
「次はこちらが可愛がる番だぞ」
「………………はい?」
少しこの人の言ってることが理解できないというかしたくない。
誰が誰を可愛がるって?
いつの間にか左右も勇者様と僧侶様に囲まれた、私は身動きが出来ない状態に陥っていた。
「りりな、すまない」
いや、勇者様。すまないと思ってるならその指に絡めてきた手を外しましょうか。
「たくさん苛めてくれましたもんね?もちろん倍返しですよ」
僧侶様の倍返しとか怖すぎませんか?とりあえず私の髪を弄ばないでください。
「今度は僕がりりなちゃんの弱点を攻める番ね!」
魔導師様、可愛く言っても許しませんから。一体いつまで抱き締めてるんですか。
「りりな」
低くよく通る声に上を見上げると、そこには魔王と呼ぶにふさわしい表情を浮かべた魔王様が居た。
「覚悟しろよ?」
……………もう元の世界に帰ってもいいですか(泣)
―――――――――…
皆さんこんにちは、高橋りりなです。ソフレ様騒動から約2週間。
ただいま鬼ごっこの真っ最中。何故か鬼は四人で隠れる人が私だけというリンチ状態。絶対見つかるわけにはいかない。見つかったら地獄の可愛がりタイムが待ってる。
そもそも女子高生が天使を可愛がるのと、青年が女子高生を可愛がるのとじゃ全然わけが違うんだよ。なんか後者のほうが卑猥な感じがするじゃん。いや、別に何かされたわけじゃないけどさ……なんかダメじゃん!!
というわけで、命がけで隠れてる。何このスリリング感。心臓に悪い。
「りりなサマ」
そんな状態の時に後ろから声をかけられたら、誰でもびっくりすると思う。若干飛び上がる位の勢いで驚いた私は、後ろを振り返り、声の主を睨み付けた。
「ソフレ様!鬼ごっこの時は声をかけないでくださいといっつも言ってるじゃないですか!!」
「ス、スミマセン」
私に怒られてしゅんと項垂れるソフレ様。
彼はあの後 改心し、今では昔のように魔王様の右腕として働いてる。魔王様の言う通りソフレ様はすごい優秀で、事務的なことから掃除や洗濯 料理まで。お城の役職的に言うならば、宰相と執事を兼任してる感じ。
私のために言葉も覚えようとしてくれて、カタコトながら話せるようになってきた。今の私の唯一の癒しである。
「それでソフレ様、何か用があったんじゃないですか?」
「ハイ、用ガ アリマス」
可愛いな~これが天使化したら恐ろしく可愛いんじゃないかな~と思いながら、何ですかと聞いた。
「魔王サマガ、りりなサマ見つけてコイ、言っタ」
「……………は?」
咄嗟に私は周囲を見回し、二階からこちらを見下ろしている人達を見つけて顔を強張らせた。
「よくやったぞソフレ」
「魔王サマ、ソフレ、頑張っタ!」
あー最低だあの人。純粋なソフレ様を利用するなんて!!おつかいをやり遂げた子供のようにはにかむソフレ様に和みつつも私はその場から駆け出した。
「逃がさないよぉ~♪くらえっ!!」
「…なっ!?」
魔導師様が変な呪文を唱えた瞬間、足が地面に縫い付けられたかのように重くなって動けなくなる。
鬼ごっこに魔法を持ち出すなんてっ…!
勝ちを確信したように近付いてくる魔導師様に向かって、咄嗟に右手をかざした。この軌道的に魔王様や勇者様、僧侶様だけじゃなくソフレ様も巻き込んでしまう形になるけどごめんなさい!我が身が一番可愛いのです。
「チート魔法、発動!!」
途端に放たれる眩い光
誰かが直前に「まさか…」と呟いた。
――この世界に来てから約半年と二週間。
「て……天使×5っ!!!!!」
私の異世界天使可愛がり生活はまだまだ続きそう。
いつになったらというか、どうしたら私は元の世界に帰れるんだろう。 寂しくないわけじゃない、帰りたいに決まってる。
でもね、それは別に今すぐじゃなくてもいいって思ってるんだ。
どうやら私は、想像以上にこの世界を気に入ってしまったらしい。
嫌がる5人を無理矢理可愛がる私を見て、ベベがドアの外から「あらあら」と笑った。