メディカルルーム#1おかしな病院-1
重い瞼を上げると明るい室内に目が慣れず、木内優奈はぼんやりと瞬きを繰り返す。
目に映るのはシンプルに白一色。
「HPS-20130920覚醒」
覚醒、という言葉だけはすんなり理解できるが、聞きなれない女性の声。
声の主を探そうと優奈が視線を巡らせようとする前に、視界の右側から綺麗な女性が覗き込んでくる。
ただの綺麗な女性ではない。
くっきりとした二重、切れ長の瞳、小さな顎、白くトラブルのない肌にバラ色の頬、すっと通った鼻筋。
ナースキャップから覗く黒髪はきっちり帽子の中に仕舞われている。
誰も異論を唱えられないと言って差し支えない、美女だ。
「人工心肺正常機能。体温、正常範囲内。瞳孔反射、正常。私の言葉が理解できますか?」
つややかな唇が動いて、女性の声に優奈はぼんやり頷いた。
ナースキャップを被っているから、ナースなのだろうと優奈は安直に思う。
柔らかさが欠けた平坦な声は、小さい頃から入院と通院経験の多い優奈が知っているナースの誰にも当てはまらない。
「意識レベルⅠ-1。聴力正常機能。非言語的応答可能。日本語モード続行」
事務的に言葉を続ける美女の顔が離れて、女性の服装が優奈の視界に入る。
背中を向ける美女はワンピースの白衣を着ている。
最近ワンピースもナースキャップもなくなってきたのに、どちらもその人気は衰えず、白衣の天使のイメージは通りの、スタイルもよく、ずば抜けた容姿の看護師だ。
「ここ、どこ?どこの病」
乾いた口と眠っていたせいか、動き辛く感じる舌を動かして優奈は声を出す。
看護師がいる場所で、自分が寝ていたことを合わせれば当然病院であるというのは導き出される。
確かに小さい頃は入院も手術もしたし、人よりは多く通院しているが、ずっと調子よく過ごせていた。
入院するような体調不良もなかったはず。
優奈は自分が病院にいる理由がわからず女性に尋ねる。
背中を向けていた美女は素早くに振り返るが、その顔には驚きもの笑顔もなく、全くの表情を変えない。
感情を読み取れる変化がなく、考えなしに声をかけた優奈は身を縮める。
いよいよ始まりました。