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鳥籠  作者: 快流緋水
9/10

行く先

 セレストブルー・カラーがスカーレット・カラーを捜した3ヶ月。その3ヶ月間,彼は8つの町を隈なく捜していた。狂ったような捜索ではあったが,彼女を手離したくない思いからの行動であろう。しかし結果は実らず,独りでの帰宅となってしまった。その結果には,レイヴン・フリントが絡んでいた。セレストブルーが尋ねてきても,嘘をつくようにお金を持たせて強制させていたのである。いくらセレストブルーが執拗に捜していても,何も出てこないわけだ。それほどレイヴンは2人を裂くことに徹底させていたのだ。



 3ヶ月間徹底的に,血眼になって捜し,結果は虚無。それだけに彼のショックは大きく,彼自身を一変させてしまったのである。

 今日もまた,死界の境を歩き回っていた。すでに3人の死者を送り,疲れているようだ。しかし,帰宅しようとせず,彷徨う死者を捜しに歩く。スカーレットを捜しているように,あちこちと歩く姿は痛々しい。まるで,絶望を背負っているようで。



 スカーレットの死を事前に知っておきながらレイヴンは彼女の両親を呼び,彼らとともに再度スカーレットの死の報告を受けた。偽装誘拐事件をしたからには,彼らの前でそれらしいことをし,自分の正当性を主張しなければならない。だからこそ,レイヴンは報告を受けるなり嘆き悲しんだ。もちろん演技である。

「ああ,私のスカーレットが死んだなんて。一体誰が私の妻を。」

スカーレットの両親はあまりの事に何も言えず,抱き合って泣いていた。お金と家のために嫁に出したとしても,我が子のことである。悲しいほかに何もない。

「こんなに若くして逝くなんて。ああ,でも私よりあなたがたの方がお悲しいでしょう。スカーレットの両親ですから。」

「いやいや。レイヴンも連れ合いを亡くしたのだから,お互い悲しいもんだよ。」

それから互いに慰め,しばらくしてからスカーレットの両親は悲しみを引きずりつつ帰った。

 2人が帰ってから,レイヴンは顔を洗って気を引き締め,執務室で仕事をし始める。先ほど見せた悲しさなんて微塵もない。むしろ,清々しているように見える。実際,気分は晴れ晴れとしていることであろう。口答えするものが消えたのだから。しかも,自分の手を汚さずに済んだのだから。悲しむ必要はないのだ。

 しかし,レイヴンの天下は長く続かなかった。

 レイヴンはその後,告発されたのである。スカーレットの両親による告発であった。これは,フリント家に仕えるメイドや護衛の男たちがスカーレットの悲運にいたたまれなくなり,レイヴンを裏切って両親に実情を告白したから出て来たものである。レイヴンは当然の如く否定したが,メイドたちの供述を覆すことは出来なかった。そのため,レイヴンの名は貴族名簿から除名され,罰金を払うこととなったのだ。それから一生,レイヴンは最低の男として見られるようになった。

 全て,自分の思い通りになるわけはないのだ。



 死界の境を疲れていても歩くセレストブルー。家とは逆方向に進む。その様子は,死者を捜しているようではなかった。むしろ,自分の意志によって突き進んでいるかのようだ。とにかく奥へ。

 奥に何があるのか,彼には予想がついていた。だからこそ,奥へ行く。楽になるために。

 そこにブレーキがかかった。

「行かないで…!!」


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