囚われ
スカーレット・カラーは高級ソファーに座り,真向かいに座っているレイヴン・フリントを睨みつけていた。彼女の手足には合計20にもなる絆創膏が貼られていた。そして更に,4ヶ所も包帯で巻かれていた。散々たる状態だ。それでも痛い様子を見せず,ただひたすらにレイヴンを睨んでいた。所為のひどさを憎むように。
「2年も待ってやったんだ。」
「待たなくても結構です。私たちのことなんて放っておいてくださればいいのです。」
スーパーマグナム級をはるかに超える嫌味を込めて返す。普段は奥ゆかしい方なのだが,自分のこととなると強く出るのが彼女である。それをも知らないレイヴンにとって,スカーレットがただのじゃじゃ馬のように見えてしまうのだ。
「綺麗な顔でそんなに見つめられると照れるな。」
スカーレットの嫌味に気付いてか,気付かないでか,わざとらしく皮肉を言う。彼女にとっては何を言われても,レイヴンは憎悪の対象でしかない。さっと立ち上がる。
「さようなら。」
背を向けて退室しようとする。そこに声がかかった。
「馬車で2日もかかる道を楽に歩けるわけがない。ましてその傷だらけの身体では。それに,スカーレットはオレの妻だ。許可なく外出できると思うな。いいか,これは絶対だ。」
威圧する声。降伏を命ずる声。支配する声。それによってスカーレットは束縛されてしまう。だが,ここで折れるわけがない。屈するなんてとんでもないことだ。スカーレットの全身を,灼熱した思いが駆け巡る。
「嫌に決まっているわ。私はあなたの物じゃない。私はあなたの妻なんかじゃない。私はセレの――」
パシーン
スカーレットの頬に無慈悲な,独占的な制裁が走った。
「2度とその名を言うな。言ったら口を縫われると思え。分かったか!」
怒鳴り散らし,荒々しく出ていくレイヴン。スカーレットは力が抜けて座り込んでしまう。それからレイヴンの執着心に震える。家とお金のためだけとはいえ,なぜここまで執拗にされるのか。怖くてたまらない。
彼女は自分で自分を抱きしめ,なんとか落ち着かせてみるが,すぐに出来なかった。ここにセレストブルー・カラーはいない。そして,彼女の味方はいないのだ。孤立無援にさらされたスカーレット。そんな彼女の脳裏に浮かぶものは1つ。
ここにいたら殺される。
ただそれだけであった。
セレストブルーはたった1人で夕食を口にしていた。スカーレットを想いつつ。その想いは決して消えることはなく,むしろ膨らむばかりだ。それだけ理解してくれる人への想いは深いのである。そんな彼がぽつりと呟いた。
「人の愛はどこまで続くのだろうか。」
小さな呟き。でも,重い呟き。




