つがい
かけられたブレーキに,セレストブルー・カラーは背筋がゾクゾクするほど震えた。それから身体が硬直していった。時が止まったように。自分の身体がその場に凍りつくように。セレストブルー自身,身体が硬直していく様を感じられた。それほど掛けられた声に,彼は思いを揺さぶられた。それは。
「スカー?」
ようやく出た声は,掠れていた。だが,相手にはちゃんと届いていた。
「そうよ,セレ。」
全身に電気が走ったような,ビリッとした感覚に見舞われる。聞きたかった声だけに,震えが止まらない。そこをなんとか抑えつけ,ゆっくりと振り返る。
「スカー…!!」
セレストブルーは鳥籠を手から離し,スカーレットをもう2度と離すまいとして抱き締める。だが,それで気付いてしまった。スカーレットが死者であることを。生身ではない抱き心地に,胸が詰まるセレストブルー。涙が溢れ出てきた。
「セレ,私――」
セレストブルーは首を振ってセリフを遮る。口に出してまで,耳に入れてまで確認したくはない。
「分かってる。でも,今はこうさせて。」
ギュッと抱き締め,全感覚でスカーレットを感じる。これほど落ち着いたのは,何年振りであろうか。全身から滞っていたつっかえがすっかり払われたかのように。始終身体を縛っていた緊張がほどけていく。セレストブルーはその安心感に溺れていくように……。
抱き合ってからしばらくして,スカーレットは彼の背中をやさしく叩いた。それを合図に,2人はそっと離れる。
「逢いたかった。」
「私もよ,セレ。こんな形になっちゃったけど。」
スカーレットの悲痛さを感じつつも,穏やかな微笑みを向ける。
「セレ?」
「この半年,スカーの行方が分からなかった。けれど,今はここにいる。それだけで俺は安心するよ。」
スカーレットは目を伏せる。
「でも私は――」
セレストブルーは聞くまいとして,唇を重ねた。
「それでも俺は嬉しいから。」
「ありがとう。でも,こっちに来ちゃダメよ。」
彼女はそう言うと,彼の手を引いて家の方へ足を向けた。その歩みから察すると,スカーレットは少し怒っているようだ。
「力があるんだから,この先に何があるってことぐらい分かるでしょう?」
「良かったんだよ,それで。」
スカーレットはピタッと止まる。それに続いて止まるセレストブルーの表情には,哀愁が漂っていた。
「どういうこと?」
「スカーがいなきゃ,生きている心地がしない。だから……。」
スカーレットは困惑した表情でセレストブルーを見上げた。言われて嬉しいが,彼の死を決して望まない。それを察したのか,にっこりと優しく笑む。
「君がいなかった半年,どれだけ辛かったか。」
ズキッとする痛み。それは,お互い様。
「知ってる。」
「え?」
「貴方が辛かったことを,私は知っているわ。気付いたらここにいて,それからずっと貴方を見ていたから。」
スカーレットは死後,死界の境を彷徨っていたのである。逃げ出したのにセレストブルーに会えなかったという後悔が,彼女をここに引き寄せたのであろう。
「だったら声を掛けても…!」
詰まった声に,彼女は静かに首を振った。
「この状態を知られたくなかったのよ。でも,さっきは止めたくて……。」
セレストブルーは彼女を抱き寄せる。これほど心地よい人は,ほかにはいない。
「ありがとう。」
2人はしばし,余韻に浸る。逢えなかった半年を埋めるかのように。
しばらくして,スカーレットが口を開いた。
「ねぇ,お願いがあるの。」
スカーレットはセレストブルーの胸に顔をうずめつつ,すがるように言った。なんとなく予想がついてしまったが,彼は頭を撫でて先を進める。
「私を貴方だけのものにして。」
私をその鳥籠に閉じ込めてと。
「いいの?」
「セレの側にいたいの。」
スカーレットの想いがセレストブルーに絡み,溶け合う。それだけで,お互いに十分であった。
「愛しているよ,スカーレット。」
「私も愛しているわ,セレストブルー。」
2人はそっと離れ,最後のキスをする。
「ありがとう。」
セレストブルーは鳥籠の戸を開け,スカーレットを入れる。鳥籠の中で発光して鳥に変化したスカーレット。彼女は紅の羽根を持つ,可愛らしい小鳥に変化した。
「スカー。」
彼の目から,とめどなく涙が溢れる。
「俺も行くよ。」
セレストブルーは空を1度仰ぎ,それから鳥籠に入った。スカーレットのときと同様に発光し,彼も鳥に変化した。
鳥籠には蒼と紅の鳥が仲良く止まり木にいた。ときどきついばみながら,さえずりあっている。それは凄く幸せそうで。生命感が溢れていた。
もう誰にも2人を引き離せない。




