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鳥籠  作者: 快流緋水
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10/10

つがい

 かけられたブレーキに,セレストブルー・カラーは背筋がゾクゾクするほど震えた。それから身体が硬直していった。時が止まったように。自分の身体がその場に凍りつくように。セレストブルー自身,身体が硬直していく様を感じられた。それほど掛けられた声に,彼は思いを揺さぶられた。それは。

「スカー?」

ようやく出た声は,掠れていた。だが,相手にはちゃんと届いていた。

「そうよ,セレ。」

全身に電気が走ったような,ビリッとした感覚に見舞われる。聞きたかった声だけに,震えが止まらない。そこをなんとか抑えつけ,ゆっくりと振り返る。

「スカー…!!」

セレストブルーは鳥籠を手から離し,スカーレットをもう2度と離すまいとして抱き締める。だが,それで気付いてしまった。スカーレットが死者であることを。生身ではない抱き心地に,胸が詰まるセレストブルー。涙が溢れ出てきた。

「セレ,私――」

セレストブルーは首を振ってセリフを遮る。口に出してまで,耳に入れてまで確認したくはない。

「分かってる。でも,今はこうさせて。」

ギュッと抱き締め,全感覚でスカーレットを感じる。これほど落ち着いたのは,何年振りであろうか。全身から滞っていたつっかえがすっかり払われたかのように。始終身体を縛っていた緊張がほどけていく。セレストブルーはその安心感に溺れていくように……。

 抱き合ってからしばらくして,スカーレットは彼の背中をやさしく叩いた。それを合図に,2人はそっと離れる。

「逢いたかった。」

「私もよ,セレ。こんな形になっちゃったけど。」

スカーレットの悲痛さを感じつつも,穏やかな微笑みを向ける。

「セレ?」

「この半年,スカーの行方が分からなかった。けれど,今はここにいる。それだけで俺は安心するよ。」

スカーレットは目を伏せる。

「でも私は――」

セレストブルーは聞くまいとして,唇を重ねた。

「それでも俺は嬉しいから。」

「ありがとう。でも,こっちに来ちゃダメよ。」

彼女はそう言うと,彼の手を引いて家の方へ足を向けた。その歩みから察すると,スカーレットは少し怒っているようだ。

「力があるんだから,この先に何があるってことぐらい分かるでしょう?」

「良かったんだよ,それで。」

スカーレットはピタッと止まる。それに続いて止まるセレストブルーの表情には,哀愁が漂っていた。

「どういうこと?」

「スカーがいなきゃ,生きている心地がしない。だから……。」

スカーレットは困惑した表情でセレストブルーを見上げた。言われて嬉しいが,彼の死を決して望まない。それを察したのか,にっこりと優しく笑む。

「君がいなかった半年,どれだけ辛かったか。」

ズキッとする痛み。それは,お互い様。

「知ってる。」

「え?」

「貴方が辛かったことを,私は知っているわ。気付いたらここにいて,それからずっと貴方を見ていたから。」

スカーレットは死後,死界の境を彷徨っていたのである。逃げ出したのにセレストブルーに会えなかったという後悔が,彼女をここに引き寄せたのであろう。

「だったら声を掛けても…!」

詰まった声に,彼女は静かに首を振った。

「この状態を知られたくなかったのよ。でも,さっきは止めたくて……。」

セレストブルーは彼女を抱き寄せる。これほど心地よい人は,ほかにはいない。

「ありがとう。」

2人はしばし,余韻に浸る。逢えなかった半年を埋めるかのように。

 しばらくして,スカーレットが口を開いた。

「ねぇ,お願いがあるの。」

スカーレットはセレストブルーの胸に顔をうずめつつ,すがるように言った。なんとなく予想がついてしまったが,彼は頭を撫でて先を進める。

「私を貴方だけのものにして。」

私をその鳥籠に閉じ込めてと。

「いいの?」

「セレの側にいたいの。」

スカーレットの想いがセレストブルーに絡み,溶け合う。それだけで,お互いに十分であった。

「愛しているよ,スカーレット。」

「私も愛しているわ,セレストブルー。」

2人はそっと離れ,最後のキスをする。

「ありがとう。」

セレストブルーは鳥籠の戸を開け,スカーレットを入れる。鳥籠の中で発光して鳥に変化したスカーレット。彼女は紅の羽根を持つ,可愛らしい小鳥に変化した。

「スカー。」

彼の目から,とめどなく涙が溢れる。

「俺も行くよ。」

セレストブルーは空を1度仰ぎ,それから鳥籠に入った。スカーレットのときと同様に発光し,彼も鳥に変化した。


 鳥籠には蒼と紅の鳥が仲良く止まり木にいた。ときどきついばみながら,さえずりあっている。それは凄く幸せそうで。生命感が溢れていた。

 もう誰にも2人を引き離せない。

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