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第十一章 封印の魔女

明日の投稿(あと1話)で3巻分が終わります。4巻はまだあるので、またしばらく投稿が止まりそうです(>_<)

「遅くなってすまなかった」

帰還途上の道で、青いコートの男が笑みを浮かべながら軽く頭を下げた。

「すっかり情報が間違っていたみたいだ。 まさかあんなに入り組んだ迷宮だとは思わなかった。 ・・・・・もしかして怒っているのか?」

「・・・・・別に」

 金色の髪の女性――ありしあはぼそりとつぶやいた。

 仕事そのものが本当に大変だったのは知っている。

ギルドで聞いたから。

 でも、それでも半年も帰ってこなかったら、怒るに決まっている。

 何か言おうと思って、ありしあは自分の中で言葉を探した。

「・・・・・別に」

 ありしあは繰り返した。結局、それしか思いつかなかったのだ。

 でも、すぐに彼女は青いコートの男に呼びかけていた。

「・・・・・ねえ、お父さん」

「? なんだ?」

「『イドラ』の人達を助けてほしいの・・・・・」

 驚いて、青いコートの男はありしあの顔を見た。

「・・・・・私の友達なの。 だから・・・・・」

「・・・・・分かっているのか? それは――」

「分かっている・・・・・。 それが、お姉様に逆らうことになるのも・・・・・。 でも、それでも初めてできた友達だから・・・・・」

 青いコートの男はありしあを見て、それからここにはいないもう一人の娘、インフェルスフィアのことを思った。そして一度、空を見上げた。澄み渡る青い空。流れていく白い雲。

 再び、ありしあに視線を戻した時、男の心は決まっていた。

「分かった」

 と、男はそれだけを言った。



 

「――お父様っ?! って、この人が・・・・・!?」

 レシオンの目が驚きで見開かれる。

「インフェルスフィア・・・・・」

 青いコートの男は、インフェルスフィアの顔を見てそうつぶやいた。

「・・・・・悪いが、ここは通らせてもらう!」

「・・・・・ここから逃げられるとでも思っているのか?」そう言って一歩進み出たのは、黒いコートの男だった。

「行かせてもらう!」

青いコートの男は、そう言ってインフェルスフィアに笑いかけた。

だが、インフェルスフィアは笑わなかった。表情を消して、じっと青いコートの男を見つめている。

 少し間を置いた後、インフェルスフィアは問いかけた。

「どうして裏切ったの? お父様」

 青いコートの男は何も答えない。彼女に視線を固定させたまま、沈黙を守った。

「どうして私達を裏切ったの? お父様」

青いコートの男はその言葉にも答えず、頷かない。

「・・・・・話しては、下さらないの・・・・・?」

青いコートの男はその言葉にも答えず、頷かない。「・・・・・ありしあに頼まれたの?」「・・・・・・・・・・っ!?」

 その言葉にだけ、青いコートの男は反応した。

「そう」

 と、インフェルスフィアは溜息をついた。

インフェルスフィアは今度は青いコートの男のほうに視線を向けず、口を開いた。

「・・・・・やはりそうなのね。 ありしあが魔王の娘と仲良くなったということは聞いています。 あの子なら、私の邪魔をするのも不思議ではありませんね」

「えっ!? ありしあさんのことを知っているのですか?」

 ファティは驚きのあまり、インフェルスフィアを見た。メイルも同様に彼女をじっと見つめる。

 だけど、インフェルスフィアはそれには答えずに笑みを浮かべた。「・・・・・だけど、ありしあが――妹が私の邪魔をするというのなら排除するまでです。 もちろん、お父様、あなたも含めて――!!」

「「「い、妹っ!?」」」

 レシオンとファティとメイルは動揺のあまり、絶叫した。

「・・・・・そうか」

だが、青いコートの男は何でもないことのようにさらりと答えた。

「・・・・・悪いが、ここは通らせてもらう!」

「・・・・・ここから逃げられるとでも思っているのか?」そう言って再び一歩進み出たのは、黒いコートの男だった。

「そうだな」

 青いコートの男は剣を構えなおした。

「私、一人では無理だろうな。 だが――」

 青いコートの男がそうつぶやいたのとほぼ同時に――。

「ええい、邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ドッカァァァァア――――――ン!!!!


 わずかなタイムラグの後、突然、緑のコートの男の横の壁が爆発し、吹き飛んだ。

 続けて誰かの切羽詰まった声がした。

「くそっ! よもや、こんなところでこんな雑魚どもに手こずるとはな・・・・・!」

 突然の爆発に巻き込まれ、うめいていた緑のコートの男は爆発とともに姿を現した魔族の男を見て絶句した。

「貴様はオルファス・・・・・!? 何故、ここに?」

 さすがの黒いコートの男も驚きを隠せずにつぶやいた。

「ほう・・・・・。 あの大軍の魔物の群れと戦い、生き延びていたのか・・・・・」

「当たり前だ! 何故なら、愛と正義の名の下に俺が勝つことは決まっているからだ!」

「・・・・・あっ。 な、なんだか、エレジタットさんみたいな人ですね」

 あくまでも自分の言葉を貫き通しているオルファスを見て、少しばつが悪そうな表情でレシオンが言った。

「そ、そうですね・・・・・!」

 レシオンの言葉に、同意するかのようにファティも頷いた。

「でも、この人は一体――?」

 レシオンが首を傾げていると、オルファスと呼ばれた魔族の男がいきなりナレーション口調で何かを読み上げ始めた。「私の名はオルファス! 君達は知らないかもしれないが、実は私は魔王様の直属の配下だったりするのだ!!」

「・・・・・・・・・・え? ちょっと?」

「そして、魔王様の指示のもと、今まで君達を見守っていたのだ!!」

「あ、あの・・・・・」

「・・・・・だが、なかなか辛いものがあった・・・・・。 何故なら、私は極度の目立ちたがり屋だからだ!!」

「は、はあ・・・・・」

「しかし、仕方ない!! これも私に課せられた使命なのだから!!」

 いきなりボケてしまったのではないかと心配になるレシオンの声を無視して、一気にそこまで読み上げたオルファスは、ようやくレシオンとファティの顔を見て言った。「――というのが今までの経緯だ。 おわかりになられたかな! イドラの少年、姫様!!」

ひょっとして、俺達のために説明をしてくれたのかな?

何だか、すごく突拍子もない説明だったけれど・・・・・。

レシオンが唖然としたまま、黙っていると、オルファスがつまらなそうに声をかけてきた。

「・・・・・感想はどうした?」

「わ、わあっ、すごいな・・・・・!」

わざとらしい返答だったが、オルファスは納得したらしく、矛先を青いコートの男に向けた。「・・・・・で、どういうつもりだ! 貴様! 『イドラ』を逃がすとは?」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・答えないつもりか! なら、こちらにも考えがある!!」

 すかさず、オルファスはレシオンとファティの手をつかんだ。その手を離さないようにがっちりと握りしめ、オルファスはインフェルスフィア達と青いコートの男をにらみつけた。

「悪いが、ここは貴様に任せた! 私は彼らを連れてここから脱出されてもらう!! 後のことは全て任せた!!」

「えっ! ちょっと!」

「ありしあさんのお父さんを置いていくのですか??」

 そしてオルファスは青いコートの男の返事を待たず、レシオン達の手を握りしめたまま、出口を目指して駆け出した。

「・・・・・追いなさい。 レイチェル、ストラ」

「はっ!」

 インフェルスフィアの命に従い、レイチェルと緑色のコートの男――ストラはオルファスの後を追った。

「・・・・・予定どおりにはいかないわね」

 それだけ言うと、今度はもうオルファスには一瞥もくれず、インフェルスフィアは青いコートの男に向かって歩き出した。




 オルファスが通ってきたらしい通路の先は、静寂に支配されていた。先程まで遭遇したインフェルスフィアの配下と思われる魔物達はみな、彼にやられてしまったのか姿を現さない。

 先程の広間で繰り広げられているであろう青いコートの男とインフェルスフィア達の喧騒が嘘のように、見事にレシオン達の足音しか響かない。 と、突然、それまでオルファスの誘導に従っていたファティが、初めて足を止めた。

「どうされた?」

「ありしあさんのお父さん、大丈夫なのですか?」

 怪訝そうにしたオルファスに、ファティが不安そうにそう問いかけた。

「心配するな、奴はこのくらいでやられる相手ではない! なにしろ、この私ですら、いささか苦戦を強いられるのだからな!」

オルファスはそう言って、ファティに微笑みかけた。「あの―、オルファスさんは今まで私達のことを護ってくれていたのですね?」

「うむ、そのとおりだ! だが、なかなか辛かった・・・・・。 見守るだけ、まさに拷問だ! 何故なら、先程も言ったが、私は極度の目立ちたがり屋だからだ!! こうして、助けに来た時も正面突破という作戦でないと、どうもこうも落ち着かなかったのだ!!」

「・・・・・そ、それは大変でしたね」

 あまりのオルファスの無謀無策ぶりに、思わずレシオンはそう口にしていた。

「でも、これからどうするですか?」

「・・・・・そうだな。 恐らく、あいつらもすぐに追いかけてくるだろうし・・・・・」

 と、ファティとメイルが疑問を口にした次の瞬間だった。

「心配ないぞ!」

 と、オルファスが先程のときと同じく、ナレーション口調で説明を始めてくれた。さすがに二度目だったので、レシオン達はちょっとしか驚かなかった。

「この先に地下通路がある! そこを通れば『ユヴェルの地』へと出られるのだ! あとは、月の森を抜ければランリールの街まですぐだ!!」

「・・・・・えっと? その、詳しい説明、ありがとうございます」

「そうなのですね! すごいです!」

 相打ちを打つレシオンとともに、ファティも感心したように頷いた。

「さあ、急ぐぞ! 地下通路まですぐそこだ! 手を離すなよ!!」

 レシオン達の手を強引に握りしめると、オルファスは軽く何事かをつぶやく。すると次の瞬間、レシオン達は瞬く間もなく、地下通路の出口へとたどり着いていた。

 思わず、レシオンはつぶやいた。

「こ、これって――」

「こっ、こっ、これがわ、私の俊足魔法だ・・・・・! 一瞬で行きたい場所へとたどり着くことができる!! だが、体力の消耗が激しいのと半径五キロまでしか移動できないのがな、難点だ!!」

「そ、そうなんですね・・・・・」

 そう語るオルファスの顔は誇らしげだった気がするけれど、果たしてこれは俺の気のせいだろうか?

 ・・・・・何はともあれ、オルファスさんの俊足魔法とファティさんが持っていた月の森周辺の地図を何とか駆使して、ランリールの街まで戻ってくることができたのだった。「ところで、先程いた場所のことを『ユヴェルの地』と言われていましたよね?」

「うむ」

 レシオンの問いに、オルファスは重々しく頷いた。

「それってどういう意味なのでしょうか?」

「姫様が以前、訪れた月の時計塔があった場所は、この世界――『リパル』ではなく、『ユヴェルの地』への入り口なのだ! 最も、この世界の者達は一部を除いてそのことを知らぬけれどな!!」

「そ、そうなんですか!」

 オルファスの返答に、レシオンは驚愕した。

「『ユヴェルの地』に月の時計塔があるんですね!」

「・・・・・あるんですね、じゃなくてあったんだよ・・・・・」

「あっ、そうですね!」

 メイルの言葉に、ファティは納得したかのように手をポンと叩く。

 そんな彼女に、メイルはすかさず突っ込む。

「・・・・・あのな、アプリナ」

 だが、ファティが手に持ったままの地図に気づいて、メイルは表情を険しくした。

「・・・・・それしても、行方不明者の捜索の時に使った地図がこんなところで役に立つなんてな」

「えっ? 役に立ったですか?」

「おまえ、今まで見ていただろ!」

 メイルがファティに人差し指を突きつけて、力強く言い切った。

だが・・・・・。

「それが、どうかしたですか?」

 と、言われた当人は全く平然とした顔で答えた。

「そんなことよりもメイル、今はテレフタレートさん達と早く合流するべきです! ほら、行くですよ♪」

 そう言って、ファティは満面の笑みを浮かべて歩き出そうとした。

「おまえな、その根拠は一体どこから――」

「あっ! です」

思わず、メイルがそう言いかけた時だった。突然、ファティが言葉を挟んできたのだ。

「いきなり何だよ?」

メイルは不愉快そうに言いながらも、ファティを見つめる。ふと目を遣ると、彼女の視線はいつのまにか目の前に立っている二人の人物にあった。

「オルファス、逃がすつもりはないぞ!」

そのうちの一人、緑色のコートの男――ストラはそう告げた。

「このまま、逃がしてもらいたいものだが・・・・・!」

「そんなこと、私達が許すとでも思っているのかしら?」

オルファスの苦笑に、もう一人の少女――レイチェルは言った。「なら、無理やりにでも通してもらおう!」

「できるものならやってみなさい!」

レイチェルは大きく右手を上げ、そしてその手を勢いよく振り落とした。その瞬間、レイチェルの全身からごう、と魔力が放たれた。魔力の光弾が命中するまでわずか数秒しかかからないだろう。

だがそれは、オルファスの呪文の詠唱には充分すぎる猶予だった。

「ここから離脱するぞ!」

レシオン達の手を強引に握りしめると、オルファスは先程と同じく何事かをつぶやく。すると次の瞬間、レシオン達は瞬く間もなく、ランリールの街から姿を消していた。

 思わず、レイチェルはつぶやいた。

「これは、俊足魔法――?」

「あーあ、また逃がしたな? レイチェルが!」

 ストラのバカにするような茶化しに、レイチェルはキッと彼を厳しく睨みつけた。

 目にも留まらぬ勢い、とはまさにこのことだった。

 しばらく毒気を抜かれて立ち尽くしてしまったレイチェルだったが、思えば別段、驚くほどのことではなかった。

オルファスの俊足魔法については熟知している。一瞬で行きたい場所へとたどり着くことができるが、体力の消耗が激しいのと半径五キロまでしか移動できないという欠点がある。

つまり、まだこの近くにいる可能性が高いのだ。

「・・・・・逃がさないわ!」

小さな笑みを浮かべ、レイチェル達は再び、レシオン達の後を追った。

   


「はあ――っ、はあっはあっはあっはあっはあっ・・・・・・・・・・!!」

 月の森の入口の前で、オルファスが荒い呼吸を立てていた。

 レシオンは恐る恐る尋ねてみる。

「あ、あの――、大丈夫ですか?」

「はあっ、はあっ――!!」

 何だか、いろいろと問題のある返事だった。

 明らかに体力の限界なのだろう。

 ランリールの街にたどり着くまでに何度も俊足魔法を連発していた。そして恐らく、助けにきてくれた時にも使用していたのだろう。

こんな状態で、本当にインフェルスフィア達から逃げ出すことはできるのだろうか、少し、いやかなり不安になってきた。

「これから、どうしようか?」

 当然のレシオンの質問に、

「さあ? です」

 と、ファティはさらりと答えた。 

 それを聞いて呆れたように溜息をつくと、メイルはファティにそっと耳打ちした。

「テレフタレートさん達と合流する、だろう?」

「ああ! そうでしたです!」

 そう言って、ファティはてへへと笑みを浮かべる。

 笑い事じゃないだろうと心の中で突っ込みながら、メイルは訊いた。

「じゃあ、その後はどうするんだよ?」

「さあ? です」

と、ファティが笑顔を浮かべて言った。

 やっ、やっぱり・・・・・か。

 メイルはガクッと肩を落とした。

「・・・・・あのな。 おまえ、もう少しちゃんと考えろよな!」

動揺して叫びつつも、メイルは両手を交差してバツのサインを出した。

「よし、まずはオーダリ王国です! さあ、行くですよ!」

ファティは地図をしまうと、メイルの言葉など聞こえなかったようにメイルから顔を背ける。

「おい! 無視するなよ!」

 メイルは怒りのあまり、がむしゃらに拳を振り回す。

「ほら、メイル、早く早くです!」

「・・・・・あ、ああ」

 有無を言わさないファティの言葉に、メイルはしぶしぶ頷いてみせた。

 やっぱり、俺はアプリナには敵わないらしい。

 そう思うと、メイルは哀しげに溜息をついた。

 

 余談だがこの後、オーダリ王国に向かう前にレシオンがファティに一つ問いかけてみたことがある。

 それは――。

「・・・・・ファティさんもオルファスさんみたいな俊足魔法や瞬間移動ができる魔法ってないんですか?」

「もちろん、ないですよ!」

レシオンの問いに、ファティはあっさりとそう答えた。・・・・・いや、分かっていたんだよな。

分かっていたんだけど、ちょっとだけ期待していた分だけ、凄く脱力感が・・・・・。

 はあっ・・・・・。

ここからオーダリ王国まで無事に戻れるんだろうか・・・・・?

 落ち込むレシオンをおもむろに眺めて、オルファスは言った。

「・・・・・さっ、さっさと行くぞ! はあはあっ・・・・・、こっ、このまま、私達を奴らが見逃すとは思えないからな! はあはあはあっ・・・・・! ・・・・・まあ、と、とりあえず、・・・・・わ、私はもう、俊足魔法は使えないようだ・・・・・。 はあはあはあはあっ・・・・・!!」 

 ――――!!!!!

 何だかもう、絶対に無理な気がする!!

 いろいろな意味で・・・・・!!


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