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#1 都市伝説「配信施工員」

 東京都渋谷区――A級ダンジョン地下5階層。


「……なあ、あのうわさ知ってるか?」


 ダンジョンを攻略中の2人組の男たちが、探索の合間を()って会話をしている。


「――すごく強い配信施工(せこう)員がいるって話?」

「そうそう」


 それは最近ダンジョン探索者や、ダンジョン配信の視聴者の間でまことしやかに(ささや)かれている(うわさ)だった。


 配信施工員――それは、探索者が安全にダンジョン内で動画配信を行うためのインフラを整えるエンジニアのことだ。


「あんなのデタラメでしょ。そんなに強いなら、探索者やれよって話」

「……だよなぁ」


 噂をきっぱりと否定されながら、探索者の男――金太(きんた)はさらに問いを重ねる。


「――でも、施工員って探索解禁前にダンジョン入るだろ? それなりに強くないと無理なんじゃね?」


 そう()かれたもう一方の探索者――銀太(ぎんた)は、思わず目を見開いた。

 相棒である金太の言葉が的を射ていたから……ではない(・・・・)


「はぁ? ダンジョンが活動期に入るまでモンスターは出ないって、素人でも知ってるんですが」

「……そうだった」


 ダンジョンに関する基礎知識を指摘され、金太は「しまった」と(ひたい)に手を当てた。


「それに、マジで危険なときはダン対(=ダンジョン対応戦隊)の護衛がつくっしょ」

「そりゃそうだ」


 ダン対――ダンジョン対応戦隊とは、政府が組織したダンジョン対策のための戦闘部隊のことだ。


 次の銀太のセリフは、ここまでの話を端的にまとめていた。


「……あり得ないよ、そんな配信施工員がいるなんて」


 そうだな、と金太も同意した。




 ちなみに、この2人の探索者――銀太と金太も、ダンジョン探索時にはいつも動画をライブ配信している。

 せっかくダンジョン管理局が配信インフラを整えてくれているのだ。利用しない方が損というものだ。



《――今日も銀太のツッコミは()えてるねぇ》

《いやー金太、さっきのはないわ。オレでもわかったで》

《それが金太のキャラだからな〜》



 そんなデジタルのテキストが、2人の視界の片隅(かたすみ)を流れていく――。



 2人とも、配信アプリと連動したスマートコンタクトレンズを装着しているのだ。それが、視界の邪魔(じゃま)にならない位置に視聴者からのコメントを表示してくれる。


 息の合った軽妙なトークを交えつつ、2人のダンジョン配信はその後もしばらく続いた。



 ふと、銀太がカメラの死角の方を向いて声を発する。



「…………あ、お疲れさまでーす」



《誰かいるのかな?》

《カメラには映ってないね。探索者じゃね?》


 そんな視聴者のコメントが流れたが、誰も大したことだとは思わなかった。


 銀太があいさつしたのは、たまたま2人の近くを通りかかった配信施工員(・・・・・)だ。

 特徴的な全身グレーの制服を着ているので、すぐにそれとわかる。


 施工員は軽く会釈(えしゃく)をして、入口の方に向かって(すべ)るように走り去って行く。その姿は、さながら舞台演劇における黒子(くろこ)のようだ。



 あっという間にその影が見えなくなった後、2人は思い出したように会話を再開する。



「…………なあ、銀太。今のって配信施工員だよな?」

「そうだね」

「1人だったよな?」

「1人だったね」



 ――――しばらくの沈黙の後、再び金太が念を押すように(たず)ねる。



「…………ここって活動中のA級ダンジョンだよな?」

「うん、そうだね」



 A級ダンジョンの上はS級ダンジョンだ。

 A級は事実上、危険度が2番目に高いダンジョンとなる。

 一般人が入ったら、秒で命を(・・・・)落としかねない(・・・・・・・)


《――えっ、配信施工員がいたの?》

《いやいや、あり得ないだろ! ここA級ダンジョンだぜ》

《ちょっと待って! それって……もしかしてあの、例のウワサの――――》


 焦りを隠せない視聴者のコメントが怒涛(どとう)のように飛び交う。


 銀太と金太が互いに目を見合わせた。


 2人は、同時に声を発する。



「「――あいつだ!」」



 ――――これは、ただのモブだった配信施工員の男が、規格外の活躍によって成り上がっていく物語。




作者初のダンジョン配信モノです。

既に完結まで書き上げていますので、安心してお読みください。

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