第13話 人を買う0歳児
聖イルミナス教会。
その総本山であるここは、多くの人が住み観光客も多い。
つまり、宿屋や武器屋、雑貨屋といった通常の街並みのような場所もあるということ。
「坊ちゃん、本当によろしいので?」
「ん?」
都合のいいことに現在奴隷商人が宿屋にいるということを聞き、早速馬車に乗って向かう。
その道中でゲオルディクスが笑顔で尋ねてくる。
ちなみに、1台目に父親とアイリンさん、そして冒険者の男性。2台目に僕とゲオルディクス、そしてマリンさんが乗っている。
「もちろん、そちらの少女を奴隷にする、ということですよ」
「構わない。1度奴隷にするという手順を踏むことでただのお情けではないことをアピールする」
「くっくっくっ、そうですな」
情に訴えれば何とかしてくれるぞ、という輩に対して。奴隷に落ちてもいいならという注意書きが加わる。
こうすればゲオルディクスも納得するだろう。
あの父親も、金が手に入るのだ。文句はあるまい。
問題は……マリンさんだ。
「…………」
「マリンさん?」
「…………」
「マリンさん!」
「…………は、はい!?」
終始上の空というかなんというか……。
彼女は本当に納得してくれているのだろうか。
いや、する訳がない。これから奴隷だなんてものになるのだから。
「着きましたな」
「そ、そうですね……さっそく部屋に向かいましょう!」
先に降りていた父親の案内で宿の部屋、奴隷商がいるという部屋へと向かう。
本当に最初から娘を奴隷にするつもりだったようで、手際がいい。
部屋の扉をノックし、返事の後に入室する。
「こ、これはこれは……一体どなたですか?」
奴隷化の魔法には闇魔法を使う。
本に書いてあった通り、どこか陰湿な雰囲気を纏った黒ずくめの男。
彼が奴隷商か。
「突然の訪問、お許しください。この娘の奴隷契約をしてくださるというお話を伺いまして」
「おや、既に買い取り手もご用意されていたとは。にしても……くふふっ、いかにも物好きそうなお方ですなぁ」
ニチャァという擬音が聞こえてきそうなほど汚らしい笑みを浮かべる奴隷商。
しかしゲオルディクスは再びとんだ風評被害を被ってしまったもんだ。ドンマイ。
「……いえ、私ではなく。こちらのぼ――坊主です」
「ども! 物好きな坊主です!」
一応身分を偽る。
隠すようなことではないが、馬鹿正直に『聖子ちゃんでーす』という必要もない。
「ああ、ご子息の成長――性長のために、ということでしたか。よくある話でしたな」
「……そうですな」
「ではお手間を取らせる訳にもいきませんからな。早速、紋を刻みましょう」
どうやら、やんごとない身分のご老人、そのバカ息子の性奴隷の調達と勘違いしてくれたようだ。
いや半分ほど正しいか。ともすれば9割くらい正しいかもしれん。
「では……“闇よ、原初の刻より存在する闇よ。我が地肉を喰らい、彼の者に授けよ。縛る鎖、主従の呪い。従順には蜜を、裏切りには死を──『奴隷紋』”」
「うぐっ……」
詠唱だ! 魔法の詠唱だ!
イメージを確かなものにするために用いられているという詠唱だ!
初めて聞いた!
いやそんなことよりマリンさんだ。右肩を抑えてながら小さな悲鳴を上げて痛がっている。
「大丈夫?」
「あ、はい……」
「お坊ちゃん。魔力をその右肩の紋に流してくださいねぇ」
「はいはーい」
マリンさんを気にすることもままならず、奴隷商に促される。
魔力を流す、か。
「これでいいですか?」
「……はい、結構です。これで主従の契約が結ばれました」
「ふむ、案外簡単にできるもんなんですね」
「そうですねぇ。刻まれる側が抵抗すればこうもいきませんがね」
なるほど。抵抗はできるものなのか。
こんな簡単に他者を支配できるのなら、闇魔法最強間違いないものね。
「ちなみに、命令に従わなければどうなる?」
「激痛に襲われます」
「げきつう」
「大人でも耐えられないほどの、とてもすごい痛みですよ。それでも従わなければ死にますね」
「しぬ」
なにそれこわい。
母様、僕は間違ったことをしている気がしてきました。
「お嬢さん、これであなたは晴れて奴隷ですが……元気に忠実にお坊ちゃんに媚びるのですよ!」
「はい!」
マリンちゃんの笑顔がまぶしいが、間違ってるからな。笑顔の使い方。
いや……。
「マリンちゃん、本当に良かったの? 奴隷になったんだよ?」
「は、はい! 誰とも知れない人じゃなくて……聖子様の奴隷になれて嬉しいです!」
「……うん。ありがとう」
満面の笑み。
過程はどうあれ、これが見れてよかったよ。
その笑顔に免じて、僕を聖子と言ってしまったことは許してあげよう。
「せ、聖子……? ま、まさか……」
「他言無用になさることをお勧めいたしますよ……くっくっくっ」
「は、はいぃぃっ!」
ゲオルディクスが奴隷商に笑顔で釘を刺している。
まあ漏れたところでどうということもない。
「さて、用事も済んだことだし帰るか」
「そうですなぁ。そうだ、私少し野暮用を思い出しましたので先におかえりいただけますか?」
「はいはい」
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