第12話 騙される0歳児
ゲオルディクスに連れられ、“聖癒の間”へと戻される。
いつもの張り付いた笑顔すら鳴りを潜め、静かに怒っているのが見て取れる。
こいつのこんな顔、見るのは初めてだ。
「ふぅ……実はあの家族、とても裕福とは言えない状態のようでして。そちらのお嬢さんが冒険者として一家を支えていたようです」
「アイリンさんか。父親は?」
「寝たきりの奥様の介護で忙しいらしく」
うむむ。
奥さんはそんなに大変な状態なのだろうか。父親が働くことは叶わないと。
よそ様の事情に口を出すのもどうかと思うが……。
「その治療費諸々で暮らしが厳しく、要は彼らに“聖癒”を受けるための資金――ご寄付が足りないそうなのです」
「それは……」
「普段は先にお納めいただくものなのですが……ちょっとした手違いがございまして。まぁ、それはともかく……」
「今回は大目に見る、なんて訳にはいかないのだろう?」
「その通りでございます」
先ほどの父親の様子。
少し考えればわかる。これは確信犯だ。
つまり、最初から寄付金を踏み倒すつもりで来たんだ。
汲むべき事情があるのかもしれないが……。
「踏み倒すつもり、だけならばまだいいのです。そういう輩は少なくないのも事実」
「他にも何かあるのか?」
「やつは……やつは――」
「――奴隷として――高く――売れる」
ゲオルディクスが言葉に詰まり、その言葉の合間を縫うように。
まるで汚物にまみれたような声が聞こえてきた。
思わず、反射的に扉を開け放つ。
「足も治ったことだし、見た目も悪くないからな。これならお前だけを売ればご寄付も賄えそうだ」
「はい……」
「おかげでアイリンには引き続き冒険者をやってもらえそうだ!」
「……そう、ですね……」
こいつ……!
あろうことか娘を奴隷にしようとしていやがる!
「きさ――」
「貴様ッ! それが親のすることかッ!!!」
「ぬぐっ!?」
しかし僕が声を上げるより先、ゲオルディクスが父親に掴みかかる。
胸倉を掴み、壁に押しやってくっつきそうなほど顔を近づける。
「娘さんを……こんなに小さい子どもを……!」
「苦し――放し――」
「ちぃっ!」
しぶしぶ、汚いものを払うように、父親の服を放す。
それでも怒りは全く消えていないようで、ゲオルディクスの拳が小刻みに震えている。
「カハッカハッ……ふぅ。ひどいじゃないですか。それが聖職者のすることですか?」
「…………」
「……あなた方、恵まれた人たちにはわからないのですよ。我々かよわい貧乏人の苦労が」
「…………」
「何も珍しい話じゃない。子どもを売るなんてそこかしこで聞く話です」
「…………」
そう、なのだろうか。
この世界は……まだまだ貧しいということなのだろうか。
元の世界でも、そういう話は大昔のものではなかった気もする。
「……確かに、そういった実情はありますな」
「でしょう? 仕方のないことなのですよ」
「しかしあなたからは酒の匂いがする。染み付いた酒の匂いが! 娘を売る前にできることがあったのでは!?」
「さ、酒くらい飲まないとやってられなかったんだ! 仕方ないじゃないか! 俺だって好きでこんな生活送ってんじゃない!」
「やめてください」
ゲオルディクスと父親。
尚もヒートアップしそうな口論を制したのは、他でもないマリンさんだった。
笑顔を浮かべた彼女だった。
「い、いいのです。私も納得、しています、から……」
「しかし……」
「お父さんは……最後に、私のわがままを聞いてくれました。聖子様にお会いしたいという……」
「僕……?」
「はい! 私より、小さくても頑張り屋さんって有名な子に……どうしても会いたかったんです……! 本当に、会えて……良かった……」
「…………」
「ですから、最後の親孝行、です。聖子様に会わせてくれた、お父さんに……それと、今まで優しくしてくれたお姉ちゃんにも……!」
どうしてこの子は……こんな顔ができるのだろうか。
笑っている。笑っているのに……すごく苦しそうな顔だ。無理をしている笑顔だ。
そんな笑い方……子どもがしていい訳ないじゃないか……!
何でそんな笑顔ができるんだ……!
「ほ、ほら……娘もこう言っていることですし――」
「この子は僕がもらい受けます」
「え?」
「マリンは……僕の奴隷とする!」
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