第11話 騙す0歳児
石化。
体を構成する皮膚、肉、骨、その他細胞にいたるまで全て、まるで石のように変化する状態異常。
本でしか知りえなかった現象だが、実に興味深い。
原理は何か、動力となる魔力はどこから、なぜ遅効性なのか。本当に石なのか。
「……お姉ちゃん……」
「…………」
しかし探求の扉を開けるのはまた今度にしよう。
今は彼女たちを襲う苦しみを取り除くのが先だ。
「『聖女御座す安息の地』」
「ふわぁ~……きれい……」
心配したり感嘆したり、子どもの表情は忙しい。
実に善きことである。
しかしボサボサの髪、痩せこけた顔、粗末な衣服。
今まで大変な思いをしてきたことが理解できる。薄水色の髪もくすんでしまっているではないか。
「安心して。この世界で1番かわいくて美しくて優しくて慈しみ深い女性がお姉さんを治してくれるよ」
「う、うん……?」
そして戸惑いの表情である。
まぁいいや。母様――いや、レストリア、頼むよ。
「…………」
「わぁ……あたたかい、光……見て! 石が消えていくよ!」
「あれ? 治った」
「え?」
「間違えた、予想通りの結果だ」
拍子抜けだったが、治った。
レストリアもどことなくドヤ顔をしている。
てっきり状態が既に定着しているとかそんな感じで治らないのかと思っていた。
何でここに来たんだ? 一般の神官じゃだめだったのか?
「うっ、うぅ……こ、ここは……?」
「お姉ちゃん!?」
「あ、やべっ。『強制睡眠』」
ついでに意識を取り戻したらしいお姉さん。治療を見られるのはよくないので再び眠っていただく。
まだ妹さんの治療が終わっていないからね。
「……お姉ちゃん?」
「ぐー……」
「気のせいだったようですね。治療を続けましょう」
「……んん~?」
そして疑念。
わかるかい、少女よ。大人の世界には触れてはいけないこともあるのだよ。
バレたら多分教会を追放される。
「しかし、99割がたは治療できましたが残りがしぶといですね~」
「そ、うなんですか……?」
「これは神の奇跡を願うことにしましょう。マリンさん、お姉さんの横に寝転がってください」
「はえ?」
「主も言っておられます。かわいい女の子は多ければ多いほどいい、と。きっと奇跡は舞い降ります」
「かわ……私が、ですかぁ?」
「はい」
恥ずかしそうに顔を赤く染める少女。
控えめな印象だったが、表情もコロコロ変わる普通の女の子じゃないか。
「こ、これで……いいでしょう、か?」
おずおずと横になるマリンさん。
落ち着かせるように、彼女の頭をレストリアがそっと撫でる。
「ふわぁ……あたたかい……やさしい……」
「うんうん、世界一の女性だからね」
「ぐすん。何だか……涙が出てきちゃいます……」
彼女が母様の魅力に取りつかれているうちに済ませてしまおう。
なぁに、既に1度やったこと。
慣れたもんだ。
◇◇◇◇◇◇
小一時間ほど経っただろうか。
先日の手術よりもスムーズに終えることが出来た。
いつの間にか眠ってしまっていたマリンさんに声をかける。
「マリンさん、起きてください」
「――はえ? あ、寝ちゃってました……」
「ふふ。見てください、奇跡が起こりましたよ!」
「――――っ! お姉ちゃん!」
飛び起き、未だ眠ったままの姉の足を見つめるマリンさん。
まぁ、レストリアが早々に治してから変化はないんですが。
「よ、よかったぁ~……」
「はい、後は自然に起きるのを待ちましょう。ところで……他にも奇跡、起きてませんか?」
「はい? えと……んと……?」
「とりゃ」
マリンちゃんの体を軽く押す。
少々乱暴だが、子どものやることだ。大目に見てほしい。
「きゃっ――あれ? 痛くない! 足が痛くない!」
「わぁ、やはり主はかわいい女の子に奇跡をもたらすんですねー」
「すごい……神様……」
満面の笑み……を浮かべてくれるかと思ったのだが、予想に反してその笑顔には影が差していた。
「こんな私に――ううん、きっと最後にくれた奇跡……ありがとう、神様」
「あ、うん……よかったよ」
何か引っかかるものを感じながら、しかしこれ以上自分にできることはないとも思いつつ。
マリンさんを連れて“聖癒の間”を出ようとすると、外からゲオルディクスが珍しく大きな声を出しているのが聞こえた。
「どうした、ゲオルディクス。まだアイリンさんが寝ているから静かにして欲しい」
「坊ちゃん! いえ、申し訳ございません……実は――」
「おぉ、マリン! その足はどうしたんだね」
「はい。神様が、治してくれました」
ゲオルディクスの言葉を遮るように、マリンさんの父親が彼女の足の異変に気付く。
いや気づくの早いな。
「それはそれは……連れてきた甲斐があったな」
「……そう、ですね」
したり顔の父親と、暗い表情のマリンさん。さらになぜか浮かない顔の冒険者の男性ザック。
何だ、何が起きている?
「坊ちゃま、こちらに……少々困ったことがございまして」
「……ん?」
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