序章 5歳の娘が失恋した日、20年前の初恋が蘇る
はじめまして。
インターネットもスマホもなかった平成初期。
不器用で、痛くて、最高に綺麗だった「あの頃」の物語です。
夢を見た。
それも、二日連続で。
忘れていたわけではない。
けれど、鮮明に覚えているわけでもない。
朝、目が覚めた僕の胸に焼き付いていたのは、映像ではなく、ただひたすらに熱い「感情」だけだった。
それは、今の僕がどれだけ手を伸ばしても届かないもの。
幸福で、切なくて、瞬きする間に過ぎ去ってしまった日々の残像。
二十年以上も前の、「初恋」の記憶だ。
正直に言おう。
もう貴方の顔も、声も、思い出せない。
記憶の中の貴方は、すりガラスの向こう側にいる。
目を凝らしても、その表情は霧の中に溶けてしまう。
それでも、貴方に恋をしていたあの時――胸の奥がじんわりと満たされ、同時に締め付けられるようなあの感覚だけは、昨日のことのように思い出せるのだ。
5歳の娘が教えてくれた「痛み」
きっかけは、僕の娘・リコだった。
リコには、0歳の頃から保育園で一緒だった男の子がいた。
家族ぐるみで付き合い、小さな恋人同士のように育った二人。
けれど、男の子の親の転勤で、突然の別れが訪れた。
引越しの日。
リコは泣き叫んだりしなかった。
ただ、やり場のない悲しみをどう処理していいか分からず、些細なことでぐずり、長い間、静かに涙を流していた。
その小さな背中を見た瞬間、僕の中で眠っていた記憶の蓋が開いた。
恋しくて、苦しくて、嬉しくて、儚い。
喜びと幸福感が同時に押し寄せて、胸が押しつぶされそうになる感覚。
ああ、僕も知っている。
この痛みを、僕は知っている。
インターネットがなかった頃の恋
僕が育ったのは、関西の南側に位置する田舎町だ。
都心から電車で四十分。
見渡す限りの田んぼと、新しい住宅地がパッチワークのように混在するベッドタウン。
まだインターネットもスマホもなかった。
世界が今よりもずっと狭くて、不便で、だからこそ愛おしかった時代。
これは、そんな場所で過ごした小学校三年生から中学二年生までの、六年間の物語だ。
もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない貴方へ。
もしも奇跡が起きて、デジタルの海を漂うこの言葉が届くなら、伝えたいことがある。
「あの時、あの場所で、素敵な思い出をありがとう」
あの時代でしか成し得なかった感情。
思い出すだけで、体温が一度あがるような想い。
それを風化させないために、僕は今、この詩を書き始める。
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次回、第1章「クラスの1.5軍だった僕と、阿修羅軍団」へ続きます。




