第7話:疑惑の種
23時59分。
作戦室は沈黙に包まれていた。
「...生きてるっす...」
ジェイクが椅子に倒れ込んだ。エナジードリンクの缶を落とす。カランと音がした。
エミリーは両手で顔を覆った。指の間から、小さくすすり泣く声が漏れる。肩が小刻みに震えていた。
アレックスは深く息を吐いた。眼鏡を外し、目を閉じる。
マーカスが全員を見渡した。
「よくやった」
画面のミランダが頷いた。
「お疲れ様」
しばらくして、エミリーが顔を上げた。目が赤く腫れている。
「や、やったんですよね...成功したんですよね...」
「成功よ」
画面のミランダが言った。
「死ぬかと思ったっす...」
ジェイクがまたエナジードリンクに手を伸ばした。缶を掴むが、手が震えて落としそうになる。慌てて両手で支えた。
「ミランダ、そちらは大丈夫か」
マーカスが聞いた。
「データセンターは平常に戻ってる。誰も侵入に気づいていないわ」
彼女は窓の外を見た。夜景が、彼女の後ろに広がっている。
「大臣は明朝まで外出中。このまま部屋にいる」
「了解した。よくやった」
「こっちこそ。本当に...ギリギリだったわね」
ミランダが小さく笑った。その笑みには、安堵が滲んでいる。
画面が消えた。
アレックスはダウンロードしたデータを確認し始めた。89件のファイル、合計127GB。ユアン共和国国防省のデータ、経済産業省のデータ、外務省のデータ、すべてA国が盗んだものだった。
だが。
最後のファイルを開いた時、アレックスは画面を二度見した。眼鏡をかけ直し、もう一度確認する。
Ω-Driveのバックアップデータ。日付:火災の3日前。サイズ:217GB。
アクセス記録を確認した瞬間、彼の背筋が凍った。
A国は火災の前に、計画的にΩ-Driveをコピーしていた。
「アレックス」
マーカスの声が聞こえた。
「何を見つけた」
アレックスは画面を彼に見せた。
マーカスはデータを確認し、表情を変えなかった。だが、その目が、わずかに細められる。
「...そうか」
二人はしばらく無言で画面を見つめた。
「火災は...事故じゃないかもしれない」
アレックスが言った。声が低い。
「証拠が必要だ」
マーカスが答えた。
「次のミッションで、さらに情報を集める」
その時、エミリーの小さな声が聞こえた。
「あの...これ...あと6回も...」
沈黙。
ジェイクはエナジードリンクの缶を見つめた。
アレックスが言った。
「やるしかない」
マーカスが立ち上がった。
「3時間の休憩だ。ミランダはA国に残れ。次のブリーフィングは朝4時。B国への侵入計画を立てる」
彼は部屋を出た。靴音が、廊下に響く。
残された3人はしばらく沈黙していた。
やがてジェイクが呟いた。
「...エナジードリンク、100本追加で注文するっす」
エミリーが小さく笑った。涙を拭いながら。
2人が部屋を出た後、アレックスは一人残った。彼は再びデータを見つめた。眼鏡の奥の目が、画面を走査している。
火災の3日前。A国は何かを知っていた。
この作戦は単なるデータ回収ではない、何か、もっと大きな陰謀に巻き込まれている。
アレックスは画面を消し、部屋を出た。
廊下は静かだった。足音だけが響く。
そして——
長い戦いが、今始まったばかりだった。




