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エルデナの祈り  作者: 春乃


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第11話 春の光と寄り添うもの

「それでは、私の部屋は2階なので。また明日」

「はい。今日はありがとう、アメリアさん。また明日」


2階へと向かう彼女の背中を見送り、私も自分の部屋に向かう。


部屋に入り、ドアを閉めて鍵をかける。

「はぁ、疲れた。セラ、ただいま……あれ、いない」


制服からシンプルなワンピースに着替えて、今日アレクト先生から配られた「選択学科届」を机に出した。

そこには、剣術・騎士科、魔術科、薬師科、文官科、そして社交術科と書かれている。


「魔術科と……あとはどうしようかな」

悩んでいると、窓辺のカーテンがふわりと揺れて、白猫が音もなく入ってきた。


「セラ、おかえり。周りの様子はどうだった?」

『ああ、今のところ不審な波動は感じない』

「そっか、よかった」

(アメリアさんも、大丈夫ってことかな)


『油断はするなよ。……何を見ている?』

セラが、机に広げた紙を覗き込む。


「あー、選択学科だよ。魔術科の他にもう一つ、何がいいか悩んでたの」

『……』

「なんでもいいだろって思ってるでしょ」

『……リナのやりたいようにすればいい』

「それ言うと思った」


思わず笑ってしまう。


セラは尻尾をゆらりと揺らしながら、机の端に軽やかに飛び乗った。

『お前の選んだ道が結果として、守りになるかもしれない。それだけのことだ』

「うん……ありがとう」


小さく返事をして、もう一度「選択学科届」に目を落とす。


「魔術科に行くのは、学園に入る前から決めていたんだけど……」

『どうした?』

「入学式で紹介された魔術科主任が、ルキウス・リュミエールって名前なの」

『……そういえば、リナに似た波動を感じたな。――そいつか』

「うーん、そうかも。魔術科は絶対行きたい。でも……」

『問題ない』

「え、そうなの?」


セラは机の上から軽やかに飛び降り、尻尾を一度だけ揺らした。

『行け。大丈夫だ』

「……なんでそんなに即答なの?」

『理由は、いずれわかる』


そう言い残して、セラは窓辺へ歩いていく。


窓の外では、春の風がやわらかく木々を揺らしていた。

新しく芽吹いた葉の隙間から淡い陽射しが差し込み、机の上の紙を金色に照らす。

遠くで、小鳥のさえずりが聞こえた。


(セラがそう言うなら、信じよう)


そっとペンを手に取り、「魔術科」と、その下にもう一つの学科の名を書き入れた。


♦︎♦︎♦︎


入学式のあと、二日間の休みがあり、新しい週から授業が始まる。

その間、寮の中を見て回ったり、荷ほどきをしたりしていたところ、アメリアさんに誘われて学園の図書館へ来ていた。


この世界の一年は、里奈のいた世界と同じように十二か月ある。

呼び方も同じで、一月、二月、三月……と続いていく。


ただ、一つだけ大きく違うのは――

すべての月が三十日間と決まっていることだ。


曜日という概念はなく、学園では「五日通って二日休み」を一週間としているらしい。

それを四回繰り返すと、残りの二日間は「月末休暇」と呼ばれる特別な休みになる。

そして、次の月はまた、里奈の世界でいうところの“第一月曜日”から始まる。


「じゃあ、二十七日から三十日は……四連休?」

私が資料を見ながら小さく呟くと、隣の席のアメリアさんが頷いた。


「ええ、そうなりますね。お休みと言っても、お茶会があったり、それこそ社交シーズンは忙しくなるみたいですよ」


(伯爵家の離れにいた時は、あまり気にしなかったけど)

「貴族って……忙しいのね」


「あら、エルリーナさんだって貴族の令嬢でしょう?」

「ふふ、そうでしたね」


私とアメリアさんは、そっと微笑み合った。


「そういえば、エルリーナさんは選択学科、もう決めました?」

アメリアが声をひそめて聞いてくる。


「うん。魔術科と……薬師科にしました」

「薬師科? ちょっと意外です。てっきり社交術科を選ぶのかと思ってました」


私は少し笑ってから、言葉を選ぶように答えた。

「……いろいろあったので、将来のことを考えて選びました」

アメリアさんは「なるほど」と、それ以上は聞かずに優しく頷いた。


「私も社交術は選ばずに、文官科と薬師科にしました。たくさん学んで、将来は家のことを支えたいって思っています」


(アメリアさんも、自分の道を選んでるんだ……)

その言葉に、少し勇気をもらえた気がした。


「選択学科の授業は、来月から始まるみたいですね」

「今月は……あと二週間ありますから、余裕があるうちに学園の雰囲気に慣れておきたいですね」


静かな図書館に、ページをめくる音だけが響く。

春の光が窓辺を包み、机の上の本の文字を柔らかく照らしていた。

――こうして静かに、新しい日常が始まっていく。


♢♢♢


午前授業の週が始まって十日目。


教室での授業も少しずつリズムがつかめてきた。何事もなく過ごしている……とはいえ、イグナリエル伯爵家のことは、やはり周囲のささやきの種になるようで、時折、視線やひそひそ話が耳に入る。


「エルリーナさん、魔力操作、とても上手でしたよね。あとで少し教えてほしいです」

アメリアさんは魔力操作が少し苦手らしい。

「いいですよ。午後にやってみましょう」


そんな中、彼女は普通に接してくれる。

(ありがたいなー)


夜には、セラと報告や相談をするのを習慣にしようと決めた。もちろん、魔力制御も見てもらっている。

(上司と部下みたいだな。でも、いい上司だ。ふふ)


週末、ひとりで図書館に来ていた。

古い歴史書に目を落としていると、ふと影が落ちた。


「エルリーナ、久しぶりだな」


顔を上げると、そこには義兄のルーカス様が立っていた。

「……あ、お、お久しぶりです、ルーカス様」

面と向かって話すのはこれが初めてで、思わず声が少し震える。


ルーカス様は、柔らかく微笑むでもなく、かといって冷たくもなく、静かに私を見つめていた。

「ここには母はいない。普通に話そう……と言っても、無理か」


(……普通に、って言われても。どうしたらいいのか、わからない)

心の中でそうつぶやきながら、私は静かに頭を下げた。


「えっと……ルーカス様、どうしてここに?」

「調べ物があって来た。エルリーナが見えたから……声をかけたんだ」

少し間を置いて、彼は続けた。

「義理とはいえ、兄妹なんだから、“ルーカス様”はやめようか」


そう言うと、ルーカス様はすっと私の隣の席に腰を下ろした。その動作があまりにも自然で、思わず息をのむ。

図書館の静けさが一層濃くなり、鼓動の音がやけに大きく感じられた。


(……兄妹、か。どうしようかな……)


少し考えて、勇気を出して口を開く。

「……じゃあ、兄様って、呼んでもいいですか?」


ルーカス様は一瞬、驚いたように目を見開いた。

けれどすぐに、柔らかく笑って頷く。


「そういえば、選択学科は何を選んだんだ?」

「魔術科と薬師科です」

私は本を閉じ、少し照れながら答える。


「なるほど……魔術と薬師か。エルリーナらしいな。俺は生徒会に入っている。授業でわからないことがあったら、いつでも聞きに来い。昼休みは生徒会室にいるから」


「そ、そうなんですか……ありがとうございます。……そういえば、兄様のデビュタント、どうだったんですか?」

思わず口にしてしまうと、ルーカス兄様は少し肩をすくめた。


「……少し疲れたな。母が張り切りすぎて、大変だった」

その言葉に、私は小さく笑う。セラフィナ様が頑張りすぎるのは想像がつく。


「でも、無事に終わったんですね。おめでとうございます」

「ありがとう……大勢に見てもらうのは悪くなかったけど、やっぱり疲れたな」

ルーカス兄様は小さく笑い、静かに立ち上がった。


「それじゃ、また」

短くそう告げて、本を抱えたまま図書館を出て行く。


残された空気が少しだけ温かく感じて、私は小さく息を吐いた。

(ふー……びっくりした。なんだったんだろう?)


頼るつもりはないけれど……でも、もしもの時には――思い出すかもしれない。


春の日差しの中で、そんなことをぼんやりと思った。


また来週投稿できるように頑張る

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