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第三話 恒星クジラは叱られる

 というわけで、お説教タイム開始。


 正座させた少女に対して、色々と言いたい事を言っていく。今度はこちらのターンだ、って奴である。へそを曲げられたら、あっという間に強制ターンエンドさせられるだろうがな!


「いいか、こういう事は今後しないように! オーケー?」

『わかた』

「これ、分かってないだろ……。もう一回やるつもりだろ」

『てへぺろ』

「壮大な宇宙ロマンの塊みたいな奴がてへぺろとか言うな。いや、書くな」


 テレビではいまだに特集番組が流れている。どの局でも同じ映像だ、まあ地球全体にかかわる話だから仕方ないよな。多分、世界中のテレビ局で同じ事放送してるはずだ。


 あ、日本のある一局だけは今もアニメやってるな、偶然にも宇宙飛行士のアニメ一挙放送してたとか奇跡じゃないか。


 正座しているクジラの少女は、全くの無表情で俺を見上げている。メモ用紙に印字される内容とこの顔が全く違うので、なんとも違和感。じぃっと、決して俺から目を逸らさない。気まずい恥ずかしいというより、その目に吸い込まれるような感覚だ。


 ああ、駄目だ。これは少女のペースに吞まれているぞ。ぶるぶると顔を横に振る。


「で、何がしたいんだ? 今の所、おにぎり食って麦茶飲んで、風呂場で……ああいやリビングで水遊びしただけだよな?」

『暇つぶし』

「暇つぶしぃ!?」


 他人の飯を勝手に食って、好き放題したのは少女の暇つぶし。行動理由に対して、俺の被害が大きすぎないか?ぐぬぬ、と思わず口から声が出た。


 それにしてもこの子、表情が変わらない。というよりも、そう作られている、という感じに思える。人の手で作られた人形がそうであるように。


 …………まあそうか。宇宙を旅するクジラが地球に来て、地上を見るか何かの為に現れた少女だ。文字通りに()()()()存在なんだろう。と考えると、あの恒星クジラの性格はコレと言う事になる。


 え、ナニソレ怖すぎない?


 暇つぶしで他人の家を滅茶苦茶にする奴だぞ? 暇つぶしに地球を吹き飛ばしてもおかしくはない。人類だけ滅亡させたり、するかもしれない。


 …………まさか、俺が人類代表で見極められてるのか? 存在価値無し、と判断したら人類消滅させる、的な。責任重大すぎるぞ、そんなの。


 い、いやいや。まだそうであるとは限らない。本人…………本クジラの口からそれが出ない限りは大丈夫だ。あ、口じゃなくて印字だったな、ってそんな事はどうでもいい。


「あのー……もしかして、人類と地球を見極めに来た、とか言いませんよね? 俺を例にして人類の存在価値を計って、存在価値無しと判断したら人類消す、とかしないですよね……?」


 恐る恐る、とりあえず丁寧な言葉で呼びかけてみた。


 少女は正座、こっちは腕を組んでふんぞり返っているが力関係は逆転している。タラタラと額からひんやりとした汗が流れてくるのが分かった。冷や汗ってこんな量でるんだね、知らなかった。


 キャパオーバーの危難に直面すると妙に冷静になる、人間の防御反応なのかもしれない。足下にある彼女を見る目は瞬きを行えずに、瞳が乾燥して痛みが生じる。


 すぅっ、とメモ用紙が二つの視線の真ん中に滑り込んできた。そしてそれに、一瞬のうちに文字が描かれる。


『そうして欲しい……?』


 疑問形。つまりはクジラは今現在、それを行うという意思が無いという事だ。だがしかし、俺の質問でそれをしてくれると言う。なんとなんと、親切な少女だろうか。


「いやいやいやっ!!!! しなくていい、しなくていい、しないで下さいお願いします絶対やらないで、ごめん聞いた俺が馬鹿だったから止めて下さいぃぃぃ…………」


 大焦りで早口全開&ジャンピング土下座。どうやら俺のターンは自分でエンドさせてしまったようだ。平伏する俺の頭の上に、はらりと紙切れが載った。恐る恐るそれを手にして、頭を下げたまま確認する。


『分かった、しない』


 腹に力が入り、肺にあった全ての空気を吐き出す勢いで安堵のため息を吐く。ただの凡人である俺が生じさせようとした、人類滅亡の危機は人知れず回避されたようだ。


 めちゃくちゃ汚い話だが、さっき食べたカルボナーラが口から出そうになった。もっと言ってしまえば、消化された朝か昼のご飯がもう一つの開口部から噴き出す可能性もあった。


 それほどの緊張と安堵が一気に来たのだ。


 よろよろフラフラと立ち上がる、一瞬でぜいぜいと息が切れた。正座でジッとしている少女は何もしていない、俺が自分で地雷を踏んでそれを解体処理しただけだ。


 安心したら目が霞んできた。


 そりゃそうだ、もう二十四時超えてんだもん! 明日が休日なのは幸いだな……こんな異常事態の翌日に仕事なんて、何にも手に付かない。


「そろそろ寝るか……」


 少女を立たせて、呟く。が、またもや問題発生に気付いた。


 この子、どこで寝かせる?


 俺の部屋……はい、ダメでーす。ベッド一つしかないし、予備の布団とかも無いからね。同じベッドで寝るとか案件待ったなし!


 となるとリビングか。一応ちょっと大きめのソファがあるから寝かせる事は出来る。あ、俺のベッドを渡す気はないぞ。だからこの子をソファに寝かす。


 季節的にちょっと合ってないが、毛布はあるからそれを出そう。掛け布団は少女に、毛布は俺に、だ。


 それを彼女に伝える。特に文句も無い様子で、少女はコロンとソファに寝ころんだ。自室から持ってきた掛け布団を彼女に掛けてやる。


「おやすみなさい」

『( ˘ω˘)スヤァ』

「え、そんなのも知ってるの……?」


 突然の顔文字に驚愕。

 この子、いわゆる宇宙人だよな? なんでそんなの知ってるんだ、というかどこまで知ってるんだ? 日本語以外の世界中の言語も知っているのかもしれない。


 まあいい。いや何も良くはないし、異常事態継続中だが今日はもう良い。仕事でヘロヘロになった後に、脳みそキャパオーバー事件が発生した事で限界突破がはなはだしい。


 寝ころんだ少女は、初めて目を瞑る。


 ああ、いま違和感の正体に気付いた。この子は今の今まで一度たりとも、()()()()()()()()。だからこそ、人間らしさが感じられなかったんだろう。追加で言うならば、布団を掛けるために近づいているのに息遣いも聞こえないし、胸が上下する感じも無い。


 人間として当然の無意識的行動を何一つしていないのだ。


 そんな気付きを明日の自分へと放り投げて、俺は自室のベッドへと向かった。

 作り物のクジラの少女をリビングに残して。

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