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第二十七話 恒星クジラは山に登る

 重量級の朝食TakeⅡ(テイクツー)を食し、俺は道路へと車を戻す。


 ちなみに、俺の分のパンと卵もセイの腹の中に入っている。別に俺は食いたいとは思わなかったが、欠片の遠慮も無く俺の分を食い始めやがったんだよな、この食いしん坊。


 ちょっとばかり釈然としない思いを胸に秘めながら、俺はハンドルを握る。幹線道路から一本外れ、目的地の駐車場へと到達した。


 市街地の横に存在する突起物。町の中と言ってもいい場所に、ポツンと一つだけ山があった。今回の目的地はこの山である。


 麓の駐車場に車を停めて、俺達は山を見た。


 日本アルプスなどの高峰と比べればずっとずっと低い、五百メートルも無いだろう。だが俺達人間にしてみれば十分に大きな山だ。


 木々に溢れ、麓から山頂まではロープウェイで繋がっている。それに乗ってしまえば、見上げる先のいただきまであっという間に到着する。


 だがしかし、今回はそれを使わない。つまり、登山である!


 とはいえ、登山装備など持ち合わせていない。なので気軽な服装でも問題の無い初心者コースに挑戦だ。セイにブーツを履くように指示したのは、流石にパンプスやサンダルでは良くないと思ったからである。


 まずは準備運動。屈伸して、アキレス腱も伸ばす。いきなり山を登り始めるのは、低山とはいえ足への負担が怖いからな。何事も準備が九割、始めてから出来る事など多くは無いのだ。


 大きく伸びをした時にセイに脇腹をドスッと突かれて変な声が出たが、大した問題ではない。そんな事を問題と考えていては、あっという間に胃に穴が空いてしまう。


 転倒時に危険もある、一応手袋を装備だ。時期的に虫も寄ってきそうだな、虫よけスプレーも掛けておこう。


 一通りの準備を終えた俺達は、看板に従って進んで登山道へと足を踏み入れた。


 初心者向けで整備がされている、とはいえ舗装されていたりするわけではない。足下は土に石に木の根っこ。階段状になっている部分も一段一段が一定の高さではない。


 色んな場所に行き、デスクワークでありながら比較的運動をしている俺。この程度でどうにかなるような身体ではない。足を挫いたり、バランスを崩して斜面に転がり落ちたりしないようにだけ注意をする。


 セイは黙々と俺の後をついてきている。歩幅は俺よりも狭く、階段を上る時も俺よりは大変だろう。周囲に山頂への同行者達がいる事から、滝に行ったの時の様に浮いて進む事は出来ないのだ。


 途中で看板を見付けた。高難易度ルートとの分岐地点である。


 間違っても俺達の様な格好でそのルートに進んではいけない。五百メートルも無い低山とはいえ、決して侮って良い山では無いのだ。


 という訳で、初心者ルートへと進む。


 うん、これは整備されている山だ。危険な場所にはロープや手すりもあるし、道迷いするような場所もほぼ無いと言って良い。家族連れで登ったとしてもまあ大丈夫だろう、と考えられる登山道である。


 看板を見付ける、もう半分以上登ってきた事が分かる表示がされていた。この調子なら問題もなにも無く登頂完了だな。セイの方も特に興味なさげな感じ、少し歯ごたえが無かったかな?


 と思っていたのはここまでだった。


 石で出来た階段は急になり、岩場が出現。ほぼ岩を歩いているような状態で進む事になった。うん、これは下手な靴で登るのは危険すぎるな。事前に情報収集をしておいてよかった。


 あくまで『登山初心者』でも大丈夫なのであって、決して『何の準備もしてない人』でも問題無しという事ではないわけだ。


 可愛らしい感じの服装をセイにさせていたら、絶対に目立つ。親切な方から注意されてしまうかもしれない。これはちゃんと記事に落とし込んでおくべきだな、うん。


 頂上まであと少し。更に急になった石階段を進む。流石にセイの歩幅では辛そうなので、その手を引いて支援してやった。別に必要のないサポートだったかもしれんが、大人しくしていたという事は『ご苦労』とでも思われていたのだろう。


 そして、遂に山頂へと到達した。


 うーん、結構運動になったな、いい汗かいた! セイにはこの感覚は無いだろう、なんと勿体の無い事か。ふっふっふ、これに関しては俺の勝ちだな!


 …………何で張り合ってんだ、俺は。


 山頂には城が建っている。鉄筋コンクリート造、大筒の砲撃を食らっても落城しないであろう堅牢な城塞だ。うーん、実に近代的。


 少額の入場料を払って入る。目当ては山頂の更に上から見える町の景色だ。


 更に階段を上り、天守閣へと到着。景色が見える場所へと至り、セイと並んでその風景を見た。


 広い平野部には建物が並ぶ。町の中心である駅周辺、高い建物が並ぶエリア、古い住宅が多い場所、新しく造成された住宅街。


 別の方角には自然が広がる。街の中を流れる一級河川、緑に身を染めた山々、そして遥か彼方に見える周囲とは一線を画す高峰。


 人が作ったものと元々存在する地球の姿。その両方がこの場所から見る事が出来るのだ。決して都会ではない、だがだからこそ知る事が出来る。


 そんな景色が、セイのライトグリーンの瞳に映っている。登山の苦労は感じていないかもしれないが、時間をかけてここに至った事は感じているはず。そしてこの風景を見て、何かを想う事もあるはずだ。


 有って欲しいと、俺は思う。


 折角宇宙の果てからやって来たんだ、人も自然も何もかも楽しんでもらわなければ。クジラのガス抜きは、あくまで俺の取材の副産物だがな。


 欄干に手を置いて、セイはジッと人の街と地球の自然を見つめていた。

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