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第十五話 恒星クジラはファミレスへ

 痛ってぇ……。ちょっと手のひら擦りむいてんじゃねぇか。


 報復に手刀を落としてやるが、三度目の正直と言わんばかりにサッと回避された。おいこら、こっちだけ損害を被るのは不公平だろうがっ。


 はぁ、もう仕方がない。

 と思っていると、チョンと手をつつかれた。途端に手のひらに生じていた痛みが消失する。何だコレ、RPGとかでよく見る回復魔法かよ。


 …………詳しい原理は考えない方が良い気がする。精神衛生のために。


 時間は夕方、少し早いが夕食時と言っても良い頃合いだろう。二人して家への帰路を進むが、その途中にあるファミレスが目に入った。


 よし、今日は外食にするとしよう。


「今日の夕食はファミレスにするぞ、構わないよな?」

『お肉を所望』

「へいへい、了解しましたよ、お姫様」


 本当に食い意地が張っている。地球に食の探訪に来たのか、このクジラ。俺で遊ぶために来た、人類をアブダクションするために来た、とかよりは百倍マシだ。そうであってくれ、いや本当に。


「いらっしゃいませ~、何名様でしょうか?」


 指を二本立てて人数を示す。俺達に笑顔を返してくれた店員さんに案内されて、ボックス席へと案内された。向かい合わせになるように、俺とセイは腰を下ろす。


 運ばれてくる水とおしぼり、爽やか笑顔で礼を言う。……爽やかだよな? ニチャァ、みたいな笑みになってないよな? 良い印象になっている事を祈ろう。


 注文の際はテーブルのボタンを、と言って、店員さんは去っていった。


 立てられた大きなメニュー表を机に広げ、セイの方に向けてやる。さぁて、肉を求めている様子だが何を選ぶか。少しばかり興味がある。


 ぱらり、ぱらり、とメニュー表のページが勝手に捲れる。


 周りに人がいない端の席で良かった、自動メニュー表を見られたら大問題だ。まあ、そんな事があってもセイがどうにかするだろうが、赤の他人の頭を弄るのは極力避けたい。倫理的に。


 不可視の手に動かされていたページが止まった。そして矢印が書かれたメモ用紙がペトリとくっついた。


『This』

「なんで英語。ここがファミレスだからか?」


 『family(ファミリー) restaurant(レストラン)』和製英語だけど、英語でも通じるか通じないか微妙な所の単語の並び。それを考えて『これ』じゃなくて『This』にしたとしたら、なんともまあ博識な事で。


 というか、やっぱり英語も大丈夫なんだな、このクジラちゃん。


 で矢印で指された先にあったのは、一番高いステーキのセットだった。英語も良くご存じな少女の頭の中には『遠慮』という日本語はインプットされていなかったようだ。


 良いよ、別に。メニューに書かれているもの全部、とか言ってこないだけ良し。十万円とかかかるのかな? 食えるかどうかは別として、全部頼んでその程度ならファミレスの凄さがよく分かる。


 俺は……ハンバーグのセットでも頼んでおくか。ああそうだ、ドリンクバーも付けておこう、セイの方にも忘れずにな。


 卓上のボタンをポチリ。すぐさま店員さんがやって来て注文を取っていった。


 よし、では飲み物を取りに行くとしよ―――バカな、既にセイの前にジュース入りのコップがっ!?いつの間に……。


 なんて驚く必要も無い、注文した一秒後に店内のドリンクサーバーから転移させたんだろう。便利だな、クジラ式ドリンクバー。俺には真似できないので、大人しく取りに行くとする。


 さてさて、何にするかね。サーバーの前で少しだけ考えていると、他のお客さんが俺が終わるのを待っているのに気付く。おっと、早く終わらせないとな。


 コップを置いて、ボタンを押した。ジャバーっと茶色の液体が注がれていく。無難にウーロン茶を選択したのだ。まあこれからご飯食べるからね、甘いのは食後食後っと。


 席へと戻ると、セイのコップに入っている飲み物の色が変わっていた。俺が行って戻る間に一杯飲み干して、二杯目に移行しているようだ。そんな勢いで飲んだら、人間だったらお腹たぽったぽになるぞ。


 俺はコップにチビチビと口を付けて茶を啜る。まったりと待っていると、料理が運ばれてきた。


にゃーん


 ちょっと前からよく見るようになった、猫型配膳ロボットだ。可愛いよな、コレ。動きが遅かったり、途中で引っ掛かって止まってたり、触るなにゃーんとか言ってたりするが、文句を言っている奴は見た事が無い。


 猫型にしたのはまさに絶妙、凄く()()()()()ロボットである。


 持ってきてくれた料理を受け取り、彼? 彼女? はキッチンへと帰っていった。働き者だねぇ、ネコちゃん。


 で、うちのクジラちゃんは既に食事を始めている。別に俺が食い始めるのを待て、なんて言わないけども、なんとも忙しない事だ。


 さぷっ、さぷっ、とステーキが見えない口に齧り取られていく。更に盛られた大盛りライスも同時に消える。スープもドンドコ減っていく。


 いや本当に早食いだな。俺、まだハンバーグの真ん中にに箸入れた所だぞ?クジラの胃ってどんなだっけ、いやまあ恒星クジラが同じかは分からんけども。


 俺がハンバーグを三分の一食べた所で、セイはステーキセットを食べ終えた。と同時にメニュー表がふわりと宙に浮いて、とあるページが開いてメモ用紙がペトリ。ちょ、見られる見られる! 気を付けろ、この野郎!


 で、指されたのはハンバーグ。

 俺が食ってるのを見て食べたくなったのか? ここで拒否するのは得策ではない。何故なら俺の飯が狙われるからだ。仕方ない、大人しく従うとしよう。


 卓上のボタンを押す。すぐにさっきの店員さんが来るが、一瞬だけ驚いた表情を見せた。


 そりゃそうだ、この短時間で追加注文。しかも俺じゃなくて小さい女の子の方が食べ終わっているのだから。だが更なる驚きを提供しなければならない事が心苦しい。


 ハンバーグを注文すると『え、本気?』みたいな表情が見えた気がした。


 再びやってきた猫ロボットと料理。テーブルに置かれた途端に食べ始めるセイ。


 結局、俺が食べ終わると同時に、彼女は料理を食べ終えた。食べ終わったのはハンバーグじゃない、チキンステーキだぞ? 二人で入って四人分払う事になるとはな……。


 はなはだ想定外だ、クジラはなんとも無情なものである。

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