憧憬のランドセル ~もうひとりの冴子の物語~
今週始めた「~もうひとりの冴子の物語~」の2作目となります。
そのまま寝落ちしてしまったらしい……
気が付くとカレの腕の中に居た。
窓の外はすっかり明るい。
こんなに長い間、腕枕させて悪かったなあ……
私は頭を擡げて、カレの腕に絡まっている髪をズズズと引き抜く。
それらの気配に薄っすら目を開けたカレに口づけして
脱ぎ散らかした物を身に着ける。
「そろそろ行くね」
身を起こしたカレの手を逃れてシャツの袖に腕を通す。
「仕事?」
「うん」
「急ぎ?」
「うん」
「こっち来るときはまた寄ってよ。オレも浄水器買うからさ」
「それはダメ」
「何で?」
「私は枕営業しないから」
「ハハハ じゃあ商売抜きなら?」
「それもダメ」
「何でさ!」
「キミを私みたいな根無し草にしたくないから」
「えっ?! 意味わかんね」
私はちょっとだけそっぽを向いて薄くため息をつき、向き直ってカレの頭に自分のおでこをコツン!とくっつけた。
「私との遊びは今日までして! キミはいいヤツだから。ちゃんとした人を見つけなきゃ!見境ない私に関わっちゃいけない」
「冴チャソはそれでいいのかよ!」
「私?! 私は『新規開拓』って仕事があるから……全国津々浦々行くところはいくらでもある。そう!『寅さん』みたいにね。」
「“寅さん”はエッチしないぜ」
「アハハハ!女寅さんになり損ねた。」
「オレが……冴チャソの為に指輪用意したって言っても?」
「嫌いだよ! そういう女々しいのは! それにね、私の左の薬指は……誰かの背番号みたいに永久欠番にしてあるの」
「ちぇっ!! そんなカビ臭い話をするヤツはオレの方から願い下げだ!」
そう言ってカレは私の髪の毛がくっついたままの枕にボスン!と拳を埋める。
そんなカレに私は最後のキスをして……裸の胸にそっと手を置いた。
「風邪、ひかないでね」
◇◇◇◇◇◇
キャリーバッグを引いてエレベーターから表に出ると赤いランドセルとすれ違った。
一年生?
まだまだランドセルがスキップするような可愛らしい背の高さだ。
思わず目で追うと……ランドセルは閉まって行くドアに隠れてしまった。
「カレ、優しかったな……」
私がこの世に呼び戻したいと切に願うあかり……
優しいカレの種なら……あかりを産めるかもしれない……
私は自分のお腹に……カレにしてあげた様に
そっと手を置いて……
いつもオトコと寝た後にするお願い事を……
心の中で念じた。
おしまい
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