Day7, Sep. Neidhard ist gestorben, hat aber viele Kinder hinterlassen.
ラストを書き直しました。
ファッションとはそれすなわち流行を意味する。そして、流行は人の興味関心が作り出すもので、その流れをせき止めるには、気の多い私達は力不足らしい。
だけども、私は持てる限りの力で、その風潮に抗ってみようと思う。というのも、公子サマは今日、こう言っていたのだ。
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「その制服、誰が決めたの?」
公子サマが持ちかけてくる話題はいつも予想不可能だったけども、今日は特にそうだった。
近くに公子サマが目に入ったので、一応の伝達事項を知らせなければと思い近づくと、こんな風に話しかけられた。
学園に雇ってもらった時には何も疑問を持たなかったけど、このひらひらのエプロンドレスは誰の趣味なんだろう。言われてみれば不思議だ。
「私の故郷の幼馴染がよくそういうものを着ていた。非常に懐かしい」
クレメンスさんの出身はバルバリアンと言っていたはず。そういった南出身の人たちを和ませようっていう算段でこの服が制服になったのか。まあ、そういう事情を抜きにしても――
「動きやすいなら、誰がどういうつもりで何を着せようと関係ないですよ。作業着なんですから」
すると、公子サマが突然声を上げた。
「クリスティーナちゃん、それは良くない。実に良くない」
「何ですか、服には一家言あるといったご様子ですね」
予想外の答えが返ってきた。ここは公子サマを一番よく知っていそうな人に頼るしかない。すかさずそれっぽいハンドサインを送る。
(これ、口ではこう言っちゃいましたけど、どういう感じで話に付き合えばいいんですか?)
(私もヨハンが服の趣味をどうこう言うタイプだとは思っていなかった。そちらに任せるから、いつものようにあしらってくれ)
――こんな感じの会話をエアでできたような気がする。いや、しないかも。これじゃクレメンスさんがただの冷淡な人にしか見えないじゃないか。
「どうにかして助け舟の一隻や二隻は出してくれるんですよね?」といった感じで目配せしてみると......クレメンスさんが明後日の方向を向いた。会話の予想、当たっていそう。
「服はとにかく大事なんだよ。着る服は誰と、いつ、どんな所に行くのかで簡単に変わってしまう」
その話を聞いて、クレメンスさんが眉を少し上げて反応を示したと思うと、語り始めた。表情の変化に乏しいと思っていたけど、ちゃんと表面に出ているみたいだ。
「学園の平民の女子を狙ってディナーパーティーに行って失敗したことであるか?」
「公子サマらしい行動ですね。ちなみにどういう失敗を?」
「情報を取り違えたのか、女子は放課後すぐに懇談会をするだけで済ませていたことを知らないで男子のみが集まるディナーパーティーにヨハンが乱入してきたのだ」
なんだか学園での公子サマの立ち位置が分かったような気がする。変人だけど、なまじっか地位があるせいで扱いに困るタイプの感じだ。だから必然的に周囲に人は寄ってこなくなる。これ以上はやめておこう。
「ディナーパーティーと言っても平民組が開くものなのだからたかが知れているものだった。皆が金を持っているわけではないから、制服は当然制服である。そんな所にヨハンが舞踏会用の衣装を着てやってくるものだから、場の雰囲気は相当白けたものだ」
「それ、本当に私に言ってよかったんですか? 私だったらそんなことすぐにでも忘れ去りたいですけど」
「こんな風に話題作りのために自ら晒しているのだから問題はない」
過去のやらかしをすっかり暴かれた公子サマが、不服といった感じで話し始める。
「まあ、それもそうなんだけども......うん、これはクレメンスと会う前の話ってことになるかな――」
公子サマがやけに言い直したり、濁したりする箇所が多かったので要約すると、女子に休日に会えないかと言われたので、制服を着ていったら相手がおしゃれをしていて気まずい雰囲気になり、そのままご縁が流れてしまったという話だった。
「なんかこう、両極端ですね。制服を着ない方が良い時に着て、着るべき時に着ない。学習能力があるんだかないんだか」
「オレにもちょっとは羞恥心があるんだから、そんなに手厳しく言わなくてもいいのよ?」
でも、これまでの会話で一つ気づいたことがある。
「結局、公子サマの言いたかったことは、『服は大事』っていうよりかは『制服を着るタイミングは難しい』ってことじゃないですか? なら私がどんな見た目の制服を着てたって問題ないじゃないですか。仕事場で真っ当に着てるだけなんですから」
公子サマはすかさず反論する。
「いや、もっと広義で解釈してほしいというか、その、確かにそうかもしれないけど――」
もはや反論にもなっていない。公子サマの煮え切らない返事を聞いているうちに、いつの間にかお客さんも増えてきている。一組に構っている余裕がそろそろ無い。
「もう私戻ります。せいぜい他人に変に突っかかって孤立しないように気を付けてくださいね」
最後の一言が余計だとも思ったけど、正直、今の私は苛立っていた。だから、思わず毒を吐いてしまった。
クレメンスさんが私に対してムッとした顔をする。正確に言えばただ眉が内側に曲がっていただけなのだが、それだけでももう、十分だった。
「あの、すみません――」
気づけば、公子様も鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。私は何かマズイことを言ってしまったみたいだ。普段の軽口の言い合いと違う何かが......
――「公爵」「デューク」。嫌でもこの単語が思い浮かぶ。その一方で、3か月前のことも思い浮かぶ。だけど、私が公子様のことをどう思おうと、ただそこにある差。私は、その差を意識しながら謝っている。
でも結局、私が疑っていたような話ではないことは、続くクレメンスさんの話を聞けばすぐに分かった。
「謝るほどのことではない。ただ一つ言っておきたいことがあるだけなのだ。
ヨハンは突飛な行動を起こすこともあるが、ただでは転ばない。ディナーパーティーでも一瞬空気を悪くはしたが、上手く笑いを取って場を収めてしまった。私はこんなヨハンの姿に惹かれたから、友人になりたいと思ったのだ。ヨハンの周りには私と同じような理由で集まった者たちがそれなりにいる。
だから、貴女にとってヨハンは不快な行動を取るだけの人間なのかもしれないが、こういう事実もあるということも覚えていてほしい。これだけだ」
「クレメンス、お前オレのことそんな風に思ってたのか」
「感動に水を差すようですまないが、突飛な行動を容認しているわけではないことを努々忘れるな」
呑気に心の底から驚いている公子サマを見ていると、なぜだか毒気が抜けてしまう。
どう言われようと鬱陶しい人であることには変わりないけど、もう少しちゃんと公子サマを見てみてもいいかな、なんて。
「結局――」
私がしみじみしている間に公子サマが語りだした。
「制服っていうのは無難でいい、ってことじゃないか? オレはそういう変わらないものも大事にしたいと思うんだ」
「ちょっと良い雰囲気出てたのに......どうしたんですか?」
「着ていたのが制服だからこそあの子に門前払いされずに済んだとも考えられるわけだし」
「まだ引きずってたんですね」
「だからあの子の明日の態度に何もおかしい所なんてなかったはずなんだよ」
「何が『だから』なのかよく分かりません」
その後今日の仕事を終えたクリスティーナは、自室(もちろん個人部屋ではない)でくつろぎながら今日起こったことを回顧しているうちに、くだらない話から何とか教訓めいたものをひねり出そうとした。
それこそくだらない行為だと、自嘲気な思考を重ねているうちに、不意に今日公子に話しかけた本来の目的を思い出し、周囲にも聞こえるような声でこう言ったという。
「そうだ明日寄港だった!」
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「いくら舞踏会用の衣装だからって言って、俺の肩叩いて『シャルウィダンス?』はないよなぁ。俺があの時笑ってなかったらどう収集つけるつもりだったのか聞きたいけど」
「はぁ......」
「明日寄港だけど、まだ一人か......」
青いコートの上にウェストベルト、それに加えて白の膝丈まであるストッキングを――
万が一のために用意している学園の男子制服の設定です。