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Day6, Sep. Taten sagen mehr als Worte.

「公子サマって癖毛ですよね」


 ただいまお昼の休憩中。裏で食べれば良かったと少し後悔もしているけど、寄港の後の一、二日は各々で持ち帰った食べ物を各々の部屋で食べるから食堂に人があまりいない。

 しかし、公子サマはしっかり食堂にいた。遅刻したくせにしっかり食料を買い込んでいたら更なるお叱りを船長から受けるだろうから、食堂にいる方が自然だ。問題なのは、私がうっかり昼食のスープを公子サマがいる席のそばに置いてしまったことだ。

「クリスちゃん」の呼び方――同僚とかの親しい間柄の人にしか許していない――が知られてしまっていることを一度知ってしまうと、なんとなく公子サマへの態度が変わっているような気がして、でも私から隣に座った形になっている以上話しかけないといけない気もして、そんな中での第一声がこれだ。

完全に会話の出だしを間違えた。


「唐突だね。確かにそうかもしれない」


 いつもだったら、「クリスティーナッッッッ!」くらい言っていてもおかしくない公子サマがこういう返しをするってことは、出だしを本当に間違えた。


「ほら、ここの後ろの髪とか全部同じように曲がってるじゃないですか」


「それは昨日窓枠に頭を付けて寝たからだね」


「何してるんですか」


「クレメンスとトランプをした時の罰ゲームだ。だけど夜通し遊んだから結局二人とも窓枠に寄りかかって寝たね」


「本当に何してるんですか」


 大き目のベッド二つを一切使わずに窓際で寝る男子生徒二人。絵面がシュールすぎる。


「ヨハン、嘘を言うな。その癖毛は生まれつきだろう」


 ここで遅れて部屋から来たと思われるクレメンスさんがやって来た。まあ、冗談だよね。それだけで癖が付くとは思えないし。


「昨日私は早々に眠ってしまったから二人で同じ体勢で寝たというのも嘘だ。トランプをしたことだけは間違いではないのだがな」


 トランプの話を昨日したことを思い出した。ワイルドカードがどうのこうのみたいな話だったはずだ。


「結局ワイルドカードってどういう意味なんですか?」


「ワイルドカードというのは、簡単に言えば万能のカードを意味する。私の知る限りのゲームではジョーカーがその役割を持っていることが多い。昨日ヨハンは『万能な――』のようなことを言いたかったのだろう」


 昨日はポーカーをしていたらしいが、そのワイルドカード、つまりジョーカーはどのカードとしても扱って良いということを教えてくれた。詳しいルールを知らなくても分かりやすく強い。たいていのジョーカーのカードはふざけたピエロが描かれていることが多いけど、ワイルドカードにされるならもう少し強そうな絵柄にしてもいいと思う。

 そろそろすぐ近くにいるおふざけ者にも話を振ってあげようと思って、顔を向ける。


「公子サマは少々落ち着きましたね」


「なんでそうなるの? 話しかけて来たことといい、オレのこと実は気になっちゃってる?」


 おどけて公子サマが聞いてくる。私は質問の前半にだけ答えようと口を開く。


「だって私のこと、『クリス』ってあだ名で呼ばないじゃないですか」


 すると、公子サマはさも当然なことのように言う。


「愛称を使わない時だってあったじゃないか。君が殴ってくるからオレはそう呼んでいないだけ」


「別にそれだけで殴りませんよ、私が殴るのは、忙しい時に執拗に絡んでくるからだとか、度を越えた失礼な態度を取るからです」


 クレメンスさんが焦って聞いてくる。


「具体的には何をしたんだ?」


「チーズを口に加えて私の顔の前に突き出してきたんです」


「何をやっているんだ......」


 すごい呆れた感じだ。


「だから、癖毛が綺麗に曲がっているって指摘したら、手元にある藁ストローか何か細い物を髪に巻き付け出すかなと考えていたのですが」


 卓上にあるストローを一本取って、公子サマの髪のうねり一つ一つにあててみる。見込んだ通り、ストローを巻き付けて矯正したんじゃないか、っていうくらい後ろ髪のカールにフィットする。


「まだ飲み途中のコップに刺さっているストローでそんなことはしない」


「あら常識的」


############################################


「癖毛を気にしているなら髪が乾いている時に手櫛をしない方がいい。髪が痛む」


「気にしていないから大丈夫」


「加えて、これは重要な話なのだが、ヨハン、お前はあのウェイトレスに気があるのか?」


「気が無いわけではないけど」


「一応は自分の立場を理解しているようで何よりだ。3か月前といい、彼女が語った私と合流する前の態度といい、少しお前のお熱は上がり過ぎているようにも感じてな」


「オレが将来どんな人と結婚するかはほぼ決まっているようなものだろ? エスターラント皇家の誰かに父上は決めなさるだろう」


「だが、お前はそれに抗うつもりだと言っていたはずだが?」



「もちろんそのつもりではある、エスターラント皇家なんぞお断りだ」



############################################


 ここは、例のあの男の部屋。いつものように会話を盗み聞きした7日目の夜、旅もいよいよ中盤といった所で、彼は窓枠に頭を乗せていた。


「この体勢で寝れば、もしかしたら髪がカールするかもしれないよな」


 翌日。


「普通に寝違えた――」



今回は少し短めです。もう少し三人の会話を膨らませようとしたのですが、話題が貧弱でした。

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