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Day5, Sep. Blödes Herz buhlt keine schöne Frau.

「聞きたいことがあるんだけど」


 「またか」と思いつつも結局話を聞いてしまうところが私の性だ。


「そっちはどういうルーティンで過ごしてるの? この船ってそう何回も同じ場所を往復してるわけじゃないでしょ?」


「それを知ってどうするんですか?」


「ちょっと気になっただけ」


「教えたくないって言ったら?」


「オレが聞いたら他の子はぽろっと言っちゃうかも」


 公子という立場を存分に生かそうとしている公子サマを久しぶりに見たかもしれない。


「もういいですよ、隠す理由もないですし」


 そう言うと公子サマは満足げな表情をしたと思えば、ドリンクを頼んで聞く準備は万端といった感じだ。ウェイトレスを正面に立たせて別のウェイトレスを呼ぶ様は周りには異様に映ったかもしれないが、これこそが公子サマなのである。


「まず、各々の連絡船は各国の公用語に対応していることはご存じだと思います。例えば、この船は帝冠領エスターラントとチステード連邦帝国の公用語であるチステード語しか船員は基本的に話しません」


「ああ。それとワイルドカードな世界語だよね?」


「ワイルドカードの意味は存じ上げませんが、世界語の船が一番多いことは事実です」


「今度トランプ一緒にやらない?」


「やりませんよ。話を元に戻しますと、この船はチステードでもエスターラントでもないフレンケレンから出航しましたけれども、基本こういうことはしません。世界の港を回るのは世界語の船の役目です」


「この船はその両国からの生徒を輸送するための船っていうことだな。ちなみに今回はなんで?」


「こういうことは稀に行いますが、おそらく今回は公子サマのためだと思います」


「オレったら権力者~」


 話はできるけどもやっぱりこういう所が残念なんだよね。


「つまり私はチステード北部の港か、エスターラント南部の港と世界各地の学園区を行ったり来たりしているわけです」


「次はどこにいくのさ?」


 そう言われて初めて、私は今後のスケジュールを把握していないことに気づいた。正直どこに行くのかを知らなくても、給仕さえしていれば文句は言われないから蔑ろにしていたけど、前回中途半端な知識しかなかったせいで行きたかったオペラを逃してしまった。逃すも何も最初から劇場はなかったわけなのだが。シキリエンヌとか言う割かし新しいジャンルの音楽を使っていたらしく、気になっていたばかりに残念だった。


「えーっと、どこでしたっけ?」


「ちょっとクリスティーナ、そういうのは覚えとかないと駄目でしょう?」


 振り向けば、腰の上あたりまで伸びた長い金髪に高い鼻。スタイル抜群の高身長に加えて、作り物のガラス細工のような碧眼。チステード人女性の理想形みたいな先輩がそこに立っていた。


「コーヒーありがとね。クリスティーナちゃんの知り合いとは知らなんだ。名前聞いてもいい?」


 先輩は注文されたコーヒーを出すと、いつもより上機嫌な感じで喋り始めた。普段から公子サマと喋っている人(私以外にはクレメンスさんしか知らないけど)はもっとげんなりするのだけども。いずれ先輩もそうなるってことなのかな。


「ヨハン・フォン・ザクス=エルンスト公子殿下、わたくしは彼女と同じく当船の給仕を務めておりますマティルデでございます。彼女への質問を代わりに解答させていただきますと、わたくしたちは東区に到達した後はそのまま滞在し、学園の長期休暇に合わせて帝冠都市トリエストへと向けて出港しますわ」


 先輩ってこんなお嬢様っぽい話し方したっけという疑問はさておき、私達使用人が泊る部屋は貴族出身の学生が住むようなところからは離れていたはずだから、流石に公子サマが来ることはないと思いたい。それにしても次はトリエストか。レギオンとは違って、トリエストは帝冠領のある意味では中心と言われていたはず。何があるか東区に到着してから調べてみようかな。


「そのトリエスト行きの船は東区のカンディア島には寄港する?」


 結構脈絡のない感じで聞いてきた。そこに何か面白いものでもあるのだろうか。そっちも調べてみたくなった。


「おそらくそうですわね。今回も寄港する予定ですわよ」


「ありがとう」


 微笑みながら答える公子サマは文字通り貴公子のように見えた。他人と会話している公子サマをこんなにじっくりと見たのは初めてかもしれない。


「クリスティーナ、そんな不機嫌そうな顔をしてどうしたの?」


「いえ、そんな顔はしていません」


##################################


「そういえば今回クレメンス?さんいなかったな」


 ズズッ


「例のウェイトレス......クリスちゃんでもいっか。今回も殴らなかったな」


 ズズッ


「取り留めのないことばかりが浮かんでは消えていく。たまにはこういう時間をすごしたいよな」


 ズズッ


「でもやっぱり一人でブツブツ喋ってるとモテねぇかなぁ?」


 ズズッ




 ズズッ――


「ちょっとあなた、あまり音を立てないでください」


「す、すみません」


 独り言に触れられたら恥ずかしかったのだが、助かった。聞いてなかったみたいだ。考え事をしながらコーヒーを飲むとつい音を立ててしまう。悪癖は直しとかないとなぁ。


「それとあのウェイトレス、っていうかクリスね、あれ。さっきからあなたの事を睨んでるけど、何かしたの?」


 一度コーヒーの液面から目を離してみると、休憩に入ったのか、客席で水を飲んでいるクリスちゃんが見えた。もしかして独り言聞かれてたのか?

 ――クリスちゃんって呼ぶのは止めとこう。


一応の登場人物の整理を。

クリスティーナ・・・主人公。

ヨハン・・・ザクス=エルンスト公国の公位継承者。学生。

クレメンス・・・公子の友人。学生。


マティルデ・・・先輩ウェイトレス。前話で出て来たのはこの人。

(名無し)・・・同期のウェイトレス。Day2でイヤリングを持ってきたのはこの人。


(名無しの二人組)・・・各話の最後の方に出てくる人たち。学生。今回いない一人は現在別の船で猛追中。次の次の寄港地で出てくる予定。

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