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碧天の雨  作者: 鴻上ヒロ
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6.姉さんと高校生

 姉さんたちと出会ってから、数ヶ月が経った春。姉さんが、高校生になった。入学式の日に僕は姉さんと会うことになっていたから、いつもの公園に向かうと、そこには制服姿の姉さんの姿があった。いつもより、可愛く、綺麗に見えた。


「ヒロくーん! どうよ?」


 僕に気がつくと、立ち上がってくるっと回る。


「かわいい」

「お? 惚れた?」

「いや本当にかわいい」

「おお……私がドキッとしそう」


 僕はというと、小学3年生になった。学年がひとつ上がっただけで、特に何の感慨もなかったし、周囲の変化もなかった。


 しかし、姉さんは中学生から高校生になったのだ。それがとても、凄いことのように思えて、姉さんがとても大きく見えた。高身長であるとか巨乳であるとか、そういうことではなく、存在が大きく感じた。


「はー高校生かあ」

「高校どう?」

「まだ入学式よ? なんもわからんて」

「鈴ちゃん達は今日は?」

「ん? 今日は私だけ」


 聞くと、みんなそれぞれ友達と遊びに行ったらしい。姉さんは「友達がおるんはええことよねー」と言って、笑っていた。僕はなんだか、胸がキュッとなってしまった。姉さんは、ずっと友達ができなかったから。そればかりか、実の両親と離れて暮らしているということをからかう人までいたそうだから。


 それが、僕にはなんだか、我慢ならなかった。


「高校では友達できるといいね」

「お、言うね~」

「だってなんか悔しいけん」

「私が君に優しいのは、君やからやけんね~」


 姉さんは、こういう心臓に悪いことをさらりと言ってのける。今の僕なら、梅酒かよとツッコんでいることだろう。日に照らされた彼女の笑顔が、まぶたの裏に張り付いて、それがなんだか少し切ないことのように思えた。


「ヒロくんはさ、友達いっぱいおるやん?」

「んー、うん、まあ」

「友達と私たち、どっちが好き?」

「え、姉さんたち」

「そういうことよ」

「ん? んー?」


 小学3年生の僕には、その問答は難しく、姉さんの伝えたいことがよくわからなかった。今になって、思う。彼女はあくまでも僕たちのことを一番だと、思ってくれていたのだと。友達が出来ることや、学校で嫌なことを言われることよりも、僕たちのほうが大事なのだと。


 そのことに、もっと早くに気がついていればよかったと、ふいに思う。

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