5.姉さんとギター
「じゃーん! 見て! エレキギター!」
「え、かっけえ!」
姉さんたちの家に行ったら、姉さんがギターを自慢してきた。僕は目を輝かせていたと思う。黒く艶のあるギターを持った姉さんの姿が、とてもとてもかっこよかったから。その頃の姉さんは、ロックにハマッていた。
「ふっふっふ、練習したけんね!」
そう言って、姉さんがコードをいくつか弾いてくれた。
「天才やん」
「へへへ、もっと褒めて」
「かっこいい!」
「気分ええわあ」
振り返ってみれば、なんてことはない。初心者でも簡単に覚えられるコードを適当に組み合わせて、それっぽくしていただけだとわかる。それでも、当時の僕からしたら自分がよくわからないことをサラッとやってのけた姉さんは、天才に見えた。
「いつかバンド組む!」
「メンバーは?」
「まだおらん!」
「楽しみにしとるね!」
姉さんは学校に友達がいないらしく、そのいつかはとても遠い未来であるかのように思えた。それでも本気で楽しみだったし、姉さんがバンドをやったら絶対にかっこいいバンドになるという確信があった。なぜなら、彼女はロックな人だったから。
「というか買ってもらったと?」
「俺のお古ったい」
「え、ギターやってたん!?」
「そうそう、ちょい貸してみ」
養父さんが姉さんからギターを受け取ると、なんだかよくわからない速弾きをしてくれた。凄くうまいということだけは、僕にもわかった。
「はあ、うますぎて凹むわ」
「はっはっは! 春菜ならすぐ追い越せるばい」
「くぅ~、もっと練習するけんね!」
そう言って、姉さんはギターをひったくってジャカジャカと弾いた。僕を隣に座らせて、たまに僕を構いながら。僕はひたすら、真剣そうな顔で弦を鳴らす彼女の顔を見ていた。
この人がバンドをするとき、僕も何かの形で役に立てたらいいな。
そんなことを、朧げに考えていた。