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~Eの場合~
大変な時代に彼は生まれ、育った。大変だったのは彼だけではなかったが、彼には周りが見えてなかった。家のために、彼は身を粉にして働き、家のために、結婚をした。子どもには恵まれたが、愛情はなかった。
彼にとって、家とは常磐会だった。常磐会の繁栄こそが、父の願いであり自身の目標だった。
大変な時代を乗り越え、ようやく、これからようやく、と言った時、彼の病が発覚した。若すぎる死の影に、彼は激怒した。
何に。それはおそらく、残虐性を持った運命に。
そして、彼は気が付く。己から比べれば何の苦労もなく笑う息子に。
健康な身体を持った、若い男の存在に。
自らが集めた医師に、それを問うた。その手術は可能か?と。
その男は「可能だ」と応えた。
だから彼は、医師のためにすべてを準備した。人も、物も。
そしてそれは成された。他の誰かのためではなく、それはまさしく彼がために。