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【三族山編】新時代の幕開け? ※第三者視点

【※注意1】この物語はフィクションです。実在の団体・人物・思想・宗教等とは一切関係ありません。

【※注意2】第三者視点回になります。

 とうとう、日曜日がやって来た。

 日曜日は、休みの日。しかも、明日の月曜日も、祝日。

 つまり、みんなの大好きな()()だ。


 だが、今回ばかりは、そんな浮かれ気分ではいられない。


 今日と明日で、決着をつけなければならない。

 

 “どこかの世界”で、幕が開いたようだ――。


(さて、勝利の女神は誰の味方につく……?)


 △▲△△▲△


 日曜日 午後8時10分――三族山の教会にて。

 明日が【三族山の日】で祝日ということもあり、今回の儀式では、なんと信者全員が出席していた。

 前回と同様に、白い布で覆われた教祖が現れると、信者たちは一斉に息を呑み、教会内は凍りついたように静まり返った。


『皆様、お集まりいただきありがとうございます。あぁ、こんなに集まってもらったのに、残念だが……神は言っている。今日以降、花火を中止する、と』

 

「えぇーっ!」

「楽しみにしてたのに!」


 信者たちは、歓声を上げるどころか、むしろ落胆していた。

 まるで、『儀式の中で、花火が一番好きなイベントなのに』とでも、言いたげな表情だ。


 それでも、教祖は微動だにしない。


『おぉ、喜びたまえ。()()()()()()()だと言っている――』


 いつも通りの胡散臭い演説。

 だけど、明らかにこれまでとは違う発言の趣旨だ。


『はぁ……残念。どうやら神は失望したらしい。花火の中止を知った途端、君たちが落胆した姿を見て……。だが、安心したまえ。そんなみっともない姿を、神に見せるわけにはいかない。心機一転、空気の入れ替えでもしようか――』


 そう言いながら、ゆっくり、右手を挙げようとしていた。

 なぜ、そのような動きを見せたのか――教祖は、すでに決意を固めていたからだ。

 

化学兵器(毒ガス)を教会の入り口から流し、信者全員に吸い込ませる)

 

 これまで、信者たちの協力により、三族山内エルフ領にて蓄積されていた資源を根こそぎ回収できたのは事実。

 だが、資源が枯渇した今――この宗教団体の存在価値はなくなった。


 だからこそ、今日明日に、毒ガスで、彼らもろとも“すべて”を消し去る。

 それが、今回の儀式に隠された真の目的である。


 なお、教祖自身は、教会の入り口から最も離れた教壇前に立っていた。

 当然、自分がその毒ガスを吸い込むわけにはいかないからだ。

 時機を見て、『神のお誘いで、私だけは抜けなければならない』と告げて、この場から逃げ出す腹づもりだ。


 つまり、信者たちとは、今日でお別れ(さようなら)。せめて、手を挙げる前に、最後ぐらい、信者たちに情けを掛けようか。

 そんな気まぐれな慈悲心から、教祖はいつもより優しい声で、話を締めくくることにした。


『今まで、本当にありがとう。気持ちよく、あの世界にお逝――』

「デストロイ・プロジェクト――!」


 教祖の言葉は、誰かが放った魔法によって、遮られた。

 その魔法は、教祖の背後から放たれたようで、教壇は原型を留めていないほど損壊している。

 なんて、甚だしい破壊力だ。その衝撃で、濛々と立ち込める煙――誰の仕業なのか、目視できない。

 

 教祖は、たちまちパニックに陥る。


 かつて薬物依存による禁断症状で自殺未遂を起こした際、聴覚を失ったため、耳が聞こえない。

 さらに、今は視界すら奪われ、何が起きているのか判断できなかった。


 その時、フードを被った一人の信者が、教祖のそばに駆け寄る。

 フードの隙間から見えたのは、尖った耳と緑色の髪――エルフ族の少年だ。

 

 その少年は、タイミングを見計らって、魔法陣を発動させた。

 次の瞬間、教祖は雁字搦めに手足を縛られた状態になる。

 

「よっしゃあ! これで仕留めたぁあああ! あとは、頼んだぞ! 二人とも!」

 

 その大声を合図に、煙の中から姿を現す。


「うわぁ……。魔法、効きすぎちゃったかな?」

「いや、問題ない。よくやった、アンズ」


 現れたのは、2人。


 1人は、淡紅色のストレートヘアに黄色い瞳、ノースリーブの黒いロングワンピースを着ている少女。

 年齢は、15歳前後に見える。


 もう1人は、天然パーマの黒髪に黒い瞳、眼鏡をかけた少年。

 少女と同じくらいの年齢だが、白衣をまとい、マイクを手に語り始める――。


「さて、皆さん。お集まりいただきありがとうございます。神が失望したと、この教祖様は言っていましたが、果たして本当なのでしょうか? これから、ある神様にお願いしてみますね」


 一呼吸おいてから、魔法を唱える。


「女神様、7種類のステンレス製金網と試薬、そしてガスバーナーを!」


 唱えると同時に、道具一式がズラリと並んで現れた。

 白衣の少年は、実験に慣れているようで、手際よくガスバーナーを手に取る。

 

「アダムくん! ガスの元栓なら、ここにあるよ!」


 一人の男性が声をかけると、アダムはすぐに反応する。


「ありがとう、ルパタ」と言って、ガスバーナーのゴム管をルパタに手渡したが……その名前を聞いた瞬間、教会内にざわめきが広がる。


()()()? エルフ族の王子様じゃないか?!」

「えっ、なんでフォレスト家の王族が――!」


 信者たちの動揺に、すかさずフードを被った少年が釘を刺す。


「おい! これから、パフォーマンスだ! ちゃんと見とけよ!」


 その声に、教会内が静まり返る。

 

「エバス、助かった。おかげで、準備完了だ」


 アダムはそう言って、金網を試薬(水溶液)に浸す。

 そして、その金網をガスバーナーの外炎に入れた。


「この試薬には、リチウムが入っている。炎に当てると……ほら、赤色になるんだ」


 外炎が、赤色に変わる。

 

 その後も、アダムは残りの6種類を順々に実験していく。

 深紅、青緑、黄緑、紫、オレンジ、そして黄色……。

 

 信者たちは、その色とりどりに変化する炎の美しさに見惚れていた。


 だけど、静まり返った教会の隅で、一人の信者が本音を漏らした。


「……花火が、見たいな」


 神が「花火を中止する」と告げたため、誰もがその願いを諦めていた。

 

 だが、その声は――どうやら、どこかの神様に届いたらしい。

 

 とある女神が、研究者と歌姫の背中を押したようだ。

 

「偽りのない、本当の“奇跡”を。思いっきり、楽しんで」と――。

次回は、アダム視点回予定です。

お楽しみに。

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