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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【三族山編】不撓不屈〜歌姫と会話〜

 母さんと和解(仲直り)してから、数日が経過した。

 その間、母さんは約束通り、ニカさんのところで、きちんと薬物検査を受けてくれた。

 

 そして今日、その検査結果について、ニカさんから連絡が入った。

 

「アダムくん。君のお母さんの検査結果――すべて【()()】だったよ。本当に、薬物には関わっていなかったようだね」

「ニカさん、本当にありがとうございました。母のこと、いろいろ調べていただいて……。ちなみに、母は今もニカさんの家に?」

「うん。うちのリュウコちゃんと話が盛り上がってるみたいだね。お互い、境遇が似ているから……だと思うよ」

「わかりました」

「ところで、アダムくん……」


 そのとき、電話越しで“何かを噛む音”が聞こえた。


(あっ……ニカさん、またペロペロキャンディ噛んだ?!)


「ごめん。つい、キャンディ噛んじゃった。でも、話を続けるね! パフォーマンス、()()()()()?」


 俺は、呆気にとられてしまった。

「頑張ってね」ではなく、「楽しんでね」と言われるとは……思ってもみなかったから。


「だってさ、信者の人たちも、嬉しいことや楽しいことがあれば、それが一番だと思うから〜」

「ありがとうございます、ニカさん」

「どういたしまして〜。あ、明日ね、もしかしたら僕以外の研究取扱者が観に来るかも? そんときはよろしく〜」


 そう言い残して、ニカさんは電話を切った。


(物好きな研究者がいるものだな……。まぁ、誰であろうと、俺は俺で、着実に準備するだけだ)


「さて……とうとう明日が、パフォーマンスの日か……」


 白衣を着ていた俺は、ちょうど、ある実験を終えたところだった。

 

 パタンッ!


 ドアが勢いよく開く音とともに、誰かが俺の部屋にやって来た。


「アダム! 曲が、できたぁあああ!」


 声を聞いて、すぐにわかった――アンズだ。


「アンズ。お疲れ様」

「アダム! ありがと! ……って、なぁにそれぇ?」


 彼女の視線が、俺の手の中にある“棒”に、釘付けになる。


「ああ、これか?」


 そう言って、俺はその棒を両手で軽く折り曲げる。

 パキン、と折れた音とともに、棒が明るく光りはじめた。

 

「わぁ! 黄色に光ったわ!」

「あぁ。これは、化学反応による発光だ。この棒の中に、2種類の溶液が入っている」

「へぇー! でも、どうしてこれを?」


 アンズは不思議そうに首をかしげながら、俺の持っている棒――ケミカルライトをじっと見つめた。


「観客たちに、オタ芸をしてもらう」

()()()?」


 俺がニヤリと笑うと、アンズは目を丸くしつつも、その“オタ芸”とやらに興味津々といった様子だった。


「そうだな。じゃあ……今ここでやってみようか」

「えっ?」

「アンズ、さっそくだけど、“黄色”が出てくる箇所を歌ってくれないか?」

「えぇー!?」


 突然の無茶振りに、アンズは驚きつつも――。

 

「やるわ! じゃあ、その該当箇所を歌うから、ちゃんと見せてよ? アダムのオタ芸!」

「もちろん」

「いくよー!」


 アンズは「あー」と発声してから、歌い始めた。

 その歌声に合わせて、俺は合いの手を入れる。


『私の瞳は黄色』

「イエローッ!」

『勇気をくれるあなたは』

「ナトリウムッ!」


 アンズの歌声を邪魔しないよう、タイミングを見計らって掛け声を入れ、ケミカルライトを思いっきり振り回す俺――。


『私たちの出会いはき……ブッ!』


 アンズが、吹き出した。

 

 理由はただひとつ。

 勢い余って、ケミカルライトが手からすっぽ抜けて、部屋のどこかへビュンと飛んでしまった。


(俺の運動神経の悪さ、ここに極まれり)


「大丈夫ー?! アダム!」

「ごめん。せっかくいい歌だったのに……あぁ……」


 俺はため息を漏らしながら、肩を落とす。

 一方、アンズはニコニコと笑っていた。


「いいのいいの! 明日のお楽しみってことで、ね! それより、光る棒を探そう?」


()()()()、かぁ〜。いい響きだ)


 その笑顔に癒された俺はアンズと二手に分かれて、飛んでいったケミカルライトを探すことにした。

 

 数分後――。


「アダムー! 見つけたよ! あれ、なんか、ちょっと漏れてるっぽい! どうしよう?!」

「触らないで! 俺が処理する!」


 一目散にアンズのもとへ駆け寄り、保護マスクと手袋を装着して、こぼれた液体を慎重に回収する。


「え、それって……危ないものだったの?」

「そうだな。中の液体は刺激性があるから、目に入ったり、誤って口にしたりすると、激しい痛みや炎症を引き起こす可能性がある」

「えっ! 明日のパフォーマンスに使って、大丈夫なの?」

「うん、俺みたいにテンションを上げすぎなければな。つまり、ちゃんと安全に振れば問題ない。“凡事徹底”ってやつさ」

「えっ? ぼーぼぼ?」


 思わず口にした四字熟語だったが、アンズはすぐに反応した。

 しかも、“意味をちゃんと知りたい”とやる気に満ちた表情をしていたので、俺から説明することにした。


「“ぼんじてってい”。当たり前のことを、徹底してやるって意味だ」


 説明を聞いたアンズは、「なるほど〜」と呟きながら、ポケットから本を取り出し、パラパラとページをめくり始めた。


「えーっと、ぼん〜! ぼん……」

「うーん。もうちょい、後ろのページじゃないか?」


 俺も一緒に探そうと身を乗り出したその時――不意に、アンズの手に触れてしまった。


「きゃっ!」

「ご、ごめん!」


 慌てて、自分の手を引っ込める。

 けれど、その瞬間、どうしても気になってしまったことが……。

 

(あれ……。アンズの手、俺よりもずっと小さい。あの誘拐事件の時は、確か同じくらいの大きさだったのに……)


 ふとよみがえる記憶。

 あれから10年。成長の差が、こんなに出るとは……。


 じっとアンズの手を見つめていると、どうやら、アンズは俺が四字熟語に興味を示していると思ったようだ。


「この本、気になる? 四字熟語の本なんだよー、あっ!」


 “凡事徹底”の説明が載っているページを見つけたらしく、アンズは顔を輝かせる。


「ほら! これ!」

「おぉー」

「すごいでしょ! お父さん、昔、四字熟語にハマってたんだって!」

「おぉー……」


(さすが、アンズのお父様……。俺は四字熟語にハマったことはなかったけど、日本のお受験でめっちゃ覚えさせられたわ……。懐かしい……)


 そんな前世の記憶に、ふっと思い出し笑いしていたら、アンズも嬉しそうにしていた。


「えへへ、よかったね! あの日、お母さんと仲直りできて……。それに、薬物に手を出していないって、分かって……」

「アンズ……。本当にありがとう。だからこそ、明日と明後日は、必ず成功させよう。俺たちで、ケチョンケチョンにしような」

「うん! 明日、よろしくね! アダム!」

「あぁ」


 そうだ。

 化学兵器なんて、そんなおぞましいものに、手出しさせるものか。


(待ってろよ――エセ教祖どもめ!)

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