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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【三族山編】アダム、私があなたを守る ※アンズ視点

【※注意】今回もアンズちゃん視点です。

 フォレスト家に到着すると、門の前に立ち尽くす一人の女性の姿が見えた。

 小柄な体格に上品なジャケットを羽織っているが、その体は大きく震えている。


「あっ……! アダムのお母さんだ!」


 そう叫んだところ、シンイさんが運転手さんに合図を送り、車をすぐに止めてくれた。

 私は慌てて飛び出し、真っ先にアダムのお母さんのところへ駆け寄る。


()()()って、聞こえたわ……。私の息子は、いるの?」


 まるで迷える子羊のように、消え入りそうな声で、私に尋ねてきた。


「はい。でも、あの……どうして、ここへ?」

「……」


 彼女は、しばらく沈黙していたけど、突然、本音を語り始めた。


「私……ずっと、間違っていたのかもしれない。でも……あの宗教に入ったのは、ただ……子どもが欲しかったから。それだけなの」

「……()()()?」


 思わず聞き返してしまった。


(だって、アダムがいるのに……なんで?)

 

「ええ。不妊治療を何度繰り返しても、ダメだった。だけど、ある日、『この宗教に入れば、奇跡が起きる』と聞いて……(わら)にもすがる思いだったのよ。『子どもを授かれる!』って、信じていた。あの大人しくて、何を考えているのかよくわからない息子だけど、一度、寝言で言ってたから……。『妹に会いたい』と――それが、どうしても私の中で引っかかったの」


 アダムのお母さんは、うっすらと涙を浮かべていた。

 けれど、その瞳は薬物に(むしば)まれた信者たちのモノとは、まったく違っていた。

 

(真っ直ぐで、澄んだ瞳……もしかして?)


 そんな私の予想は、()()()()()した。


「私、薬物には手を出していないわ。あの組織では、薬草や鉱物資源を調査していたの。子どものことを、どうしても諦めきれなくて……薬物だけは拒否した。まあ、信じた結果がこれよ。一人では生きていけない、弱い女だったから……信じることしかできなかったの」

「その“信じる気持ち”()、悪いことじゃないです。でも……アダムは、あなたのせいで、10歳の時に一人で生きていくことになったんですよ? だから、アダムに謝って! それに、どうして今になって、改心しようと思ったんですか?!」


 私は、感情の赴くままに問いかけていた。

 アダムのことになると、どうしても冷静でいられない。


 けれど彼女は怒ることなく、ポケットから端末を取り出した。


「……動きがあったの。教祖が、テロを起こす準備を始めているわ」

()()!?」

「……教祖は、三族山で必要な資源をすべて回収した。だから、もう“奇跡”も、“宗教団体”である必要もない。次の段階に移ろうとしているの」

「どういうこと……?」


 私が問い返すと、彼女は端末の画面をこちらに差し出した。そこには、物資の搬入記録や施設の構造図、そして、アダムであれば理解できるであろう化学式が並んでいた。


「これは……まさか……!」

「ええ。化学兵器よ。教祖は、すべての信者を“消し去る”つもり。それしか考えていないの」


 いつの間にか、私の隣に来ていたシンイさんは、その情報に愕然(がくぜん)としていた。


「嘘でしょ?! まさか……そこまで堕ちていたなんて……!」

「そんなの、信仰じゃない! ただの……狂気です!」


 私も我慢できず、思わず声を荒らげてしまった。


「わかってる。だから私は、逃げてきたの! 中にいる人たちを、どうしても救いたい。でも、一人じゃ無理……だから、助けを借りたくて」


 彼女の目が、再び潤んでいた。だけど、やっぱり……どこかで見たことのある瞳。

 

(そうだ! アダムと、同じだ)


 優しくて、それでいて決して自分を曲げない、強さを秘めた目――。


「信じてほしい。私は、あの子を捨てたつもりなんてなかった。ただ……信仰に、未来を預けてしまった。それで、あの子を傷つけてしまった。だから今度は、ちゃんと向き合いたい。会って、謝って……償いたいの」


 私は、黙って彼女の言葉を聞いた。


 アダム――今、あなたにしかできないことがある。

 お母さんの過去を(ゆる)すかどうかは、あなたが決めること。

 でも、彼女は変わろうとしてるし、誰かを守ろうともしている。


 だから、私も信じたいと思った。


「……わかりました。アダムに会わせます。その代わり、情報提供と、私たちへの協力をお願いします。必ず、教祖の暴走を止めましょう」

「ええ。命に代えても。……じゃあ、そうね。まずは……教祖に関する話をしましょうか」


 アダムのお母さんは、顔を曇らせながらも、話を続ける。


「“教祖の声”……あなたたち、聞いたことある?」

「え……? はい。録音もありますし、確か……かなり独特な声だったような」

「その“声”、実は……教祖本人のものじゃないの」

「……え?」

「教祖は、もう自分の耳がほとんど聞こえないの。数年前、薬物の禁断症状に襲われたとき、自害しようとして、自らの頭に銃を向けた。でも……誤って撃ったのは“耳”だった。片耳は完全に失聴。もう片方も、機能していない」

「じゃあ……あの“教祖の声”は……」

「別人よ。用意された“台本”を読み上げる“代弁者”がいるの。その人物が、今の宗教団体の実権を握っているのかもしれないわ。私は、誰なのかまでは掴めなかった。でもね……“言葉”の力で人の心を操る者が、教祖を操り、本物の“神”になろうとしているのよ」


(背筋が寒くなる話だわ……)

 

 教祖は、ただの象徴に過ぎない。

 その背後に、もっと危険な人物がいる――教祖の名を騙り、人の信仰をも支配しようとする、影の支配者。


「じゃあ、テロを仕掛けてるのは……」

「たぶん、“その声の人”よ。信仰の力を利用して、信者全員を殺すつもりなのでしょうね」

「そんな――!」


(うそ……そんな、そんなの、許されるはずがないのに……!)


 シンイさんも「これは、思っていたよりもずっと……大変なことが起きてしまったね」と項垂れる。


(こういう時、ルパタさんがいてくれたら……! でも、体調がまだ治っていない。それにさ、アダムに、いきなりお母さんと会わせるなんて……。そんなの、無理だよ……!)


 私も頭が回らなくなった。

 

 だけど、そんな時に限って、いつも私を助けてくれる王子様が現れるの……。


 私が尊敬してやまない、素敵な研究者――アダム・クローナル。


「なんでいるんだ……母さん……!」


(あぁあああ……出会ってしまった……!)


 後悔しても、もう遅い……決めた!

 

 アダム。

 私は、あなたの味方よ。

 

 どんな過去があっても、どんな現実が襲ってこようと、私があなたを守ってみせるから――!

次回は、主人公視点に戻ります!

お母さんとどう向き合っていくのか、お楽しみに。

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