【三族山編】“王女”と“普通の私”、そして好きな人の…… ※アンズ視点
【※注意】主人公ではなく、アンズちゃん視点です。
「えっと、アンズちゃんだっけ?! 花火は用意しとくから、歌詞作り、頑張ってな」
「花火師さん、ありがとうございます!」
「おうよっ!」
アダムが電話を切ったあと、花火の色に関する情報共有も終わり、私とシンイさんは図書館を出ることにした。
(ちゃんと、私の瞳の色である黄色も入れた……! 楽しみ!)
そんなことを思っていた、まさにその時――仕事帰りのお父さんとばったり出会った!
「お父さん!」
「アンズ……! 元気だったか?」
お父さんは、私の顔を見るなり、すぐに駆け寄ってくれた。
「うん、元気だよ!」
「良かった……。それで、そちらの方は?」
「バイト先の上司だよ! 副店長のシンイさん」
私はにこやかに、シンイさんを紹介する。
本当はもっとゆっくり話したいけれど、またフォレスト家に戻って、歌詞づくりに専念しなければならない――。
そんな私の切羽詰まった様子に気づいたのか、お父さんが一冊の本を差し出してきた。
「アンズ。これ、お父さんの愛読書だ。持っていきなさい」
「えっ?」
パラパラとページをめくると――そこにはたくさんの四字熟語が並んでいた。
「実はな……お父さん、アンズぐらいの年齢のときに、四字熟語にハマってたんだ」
「へぇ……」
突然の告白に、私はポカンとしてしまう。
お父さんは真顔のままだったけど、シンイさんは肩を揺らして笑っていた。
「読むと、気が楽になるかもしれないよ? シンイさん、娘をよろしくお願いします」
そう言ってお父さんは会釈し、家のほうへ歩き出す。
私はその背中を見送ってから、フォレスト家の公用車に乗り込んだ。
「いや〜、アンズちゃんのお父さん、アダムくんとはまた違うジャンルのおもしろさだね!」
「そうですか?」
「うん。でもね……アンズちゃんのお父さん、なんか誰かに似てる気がするんだよねぇ……」
ぎくっ!
(そっか……シンイさんは王族で、お父さんの親戚は王家だから、接点があってもおかしくない。でも、私は王族の子じゃないし……あんまり触れられたくない話題……)
そう思った私は、「え〜?! わからないかもです」と、お茶を濁してみた。
すると、シンイさんはすぐに話題を切り替えてくれた。
「その四字熟語さ、歌詞に導入してみたら面白そうじゃん?!」
「――!」
やっぱりシンイさんはぶっ飛んでる。バイト中も、私が想像もしないことをいつも言ってくれる。
危なっかしいなって思うこともあるけど……今は、それがすごく心強い。
「シンイさん、ありがとうございます。参考にしてみますね?」
「どうも! それより、まだお昼だし、ご飯食べに行かない?」
「いいかもです!」
そんなわけで、私とシンイさんは2人でパスタ屋さんへ向かった。
席に着くなり、すぐに注文する。
「ランチAセット、私はトマトパスタとホットコーヒーで!」
「私はクリームパスタとカフェラテで!」
私たちは、こうと決めたら行動が早いタイプだ。
料理が来るまでの待ち時間――なぜか、シンイさんと恋バナをすることになった。
「アンズちゃん! アダムくんとは、幼馴染なんだよね?」
「はい」
「アダムくんって、感情を表に出さないタイプだけど……アンズちゃん、彼のこと好きなんだよね?」
「えっ……!」
(どうしよう……『違います』って言えない。だって、好きなのは事実だから……)
多分、顔が紅潮しているであろう私を見て、シンイさんはニコニコ笑っていた。
「いいじゃん。二人とも楽しそうに話してたし、いいことだよー。ワタシもいい人いないかなー? ……いや、でも今はいいや〜」
「えー! シンイさん、今、好きな人いないんですか?」
私ばかり質問されるのもなんなので、思いきって聞き返してみた。
「いないよー。正直、今はルパタの体調が心配だし、エバスは全然落ち着きないし……家族のことが気になって、なかなか恋愛まで気が回らないって感じかなー」
「あっ……」
「ワタシは“第5王女”って言っても、王女は5位までしかいないから、一番下っ端なのよ〜。お嫁にしたいって言ってくれる王子なんていないし。それに比べて、男の子の方が、人口が多くて、王子は13位までいるんだよ。ルパタとエバスは、7位と8位の“ひとケタ台”。あの二人は、これからの未来を担う大切な存在だから、ワタシがしっかり送り出してあげないといけないの」
そうだった。
シンイさんは王女。そして、ルパタさんとエバスくんはこの国の王子様。
恋愛にしても、人生にしても、すべて「王族」というレールの上を歩んでいくしかないんだ……。
(お父さんが、王族を辞めた理由がなんとなくだけど、分かった気がする……)
「アンズちゃん、暗い話してごめんね。でも、安心して! ワタシさ、正直、仕事が楽しくてしょうがないの。自分で働いて、自分の経験値が上がる――変人だと思われるかもだけど、この社会人生活、けっこう気に入ってるんだ〜」
「すごいですね……」
社会人の鑑かも。
働くのが好きって、なんだかかっこいい。
そう思っていたら、いつの間にかパスタとドリンクが運ばれてきていた。
私たちは「いただきます」と言って、食べ始める。
そして食べ終えて、これから買い物でも――と思っていた矢先、シンイさんのスマホが鳴った。
「ごめんね、アンズちゃん。ちょっと、ルパタから……。また熱でも出たのかな?」
そう言って、シンイさんはスマホを耳に当てる。
「ルパタ、どうしたの? ……え?! な、なんてことが……! 今、そこにアダムくんはいるの!?」
(珍しい……バイト中ですら焦らないシンイさんが、こんなに動揺してるなんて。それに、アダムの名前も……どうして?)
嫌な予感がする――シンイさんの眉を顰める姿は、“何か悪いことが起きている”という証のように思えた。
私が五里霧中の状態で思考の迷路を彷徨っているうちに、シンイさんはルパタさんとの通話を終えたようだ。
「ごめん、アンズちゃん。買い物は、また今度にしよう。今すぐ、フォレスト家に戻るよ!」
「……シンイさん?」
「正直に話すね。今、フォレスト家の前に……アダムくんのお母様がいるみたい」
「そんな……?!」
なんで?
どうして、今になって……?
何が目的なの?
もしかして――助けを求めに?
私は、その状況に疑問を抱いた。
(でも、今は考えている場合じゃない――動かなくちゃ!)
私は急いでシンイさんと車に乗り込み、猛スピードでフォレスト家へ向かってもらった。
(お願い、神様――アダムとアダムのお母さんが、仲直りできますように! それと……アダムのお母さんが薬物に手を出していませんように!)
とある女神様の伝言「アダムくん、頑張って。お母様と仲直りができたら、夢に一歩、近づくはずよ。私は、ここから見守ることしかできない。大丈夫。私以外にも味方はいっぱいいるじゃない。応援してるわ――」




