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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【三族山編】真相究明〜研究取扱者と会話〜

 写真を見て、「この少年、俺のクラスメイトに似てる……」とつぶやいたところ、ニカさんが目を丸くする。


「えぇ〜?!」

「はい。ニコって名前なんですけど。彼にそっくりです」

「嘘! ニコのことを知ってるの? まさか、そんな奇跡が……!」


 ニカさんは驚きを隠せない表情をしていた。それでも、自分の人差し指でほっぺたを上に持ち上げながら、ニコニコと笑う。


「実はね、ニコって名前は僕が名付けたんだよ〜」

「へぇ……。ニコは孤児だったんですね。知らなかった。まあ、そこまで詳しく聞いたこともなかったので」

「そうなんだね。この子は、ある日突然、僕たちの家にやってきたんだよ……」


 そう言いながら、ニカさんは写真をじっと見つめる。その表情は、どこか悲しげだった。


「どうしたのかと聞いたら、『三族山周辺で、周りの子供たちが薬や注射で次々と殺されているのを見たから、走って逃げた』って……。あの時、すぐに彼を保護したんだ」

「……」


(あいつ……そんな大変な目に遭っていたのか? 知らなかった。決して弱音を吐かないタイプだし……)


「その子供たちが、何の実験台に使われたのか、ニコや僕たちは分からない。そして、その案件に宗教団体が関与しているのかどうかもね……。でも、ニコ自身が魔力の強い子だったことを考えると、何かしら特定の魔力を持つ子供を狙っていたのかもしれないね」


 “子供を狙っていた”――その言葉で、幼少期のある出来事が脳裏に浮かぶ。


「子供といえば……。俺、小さい頃に誘拐されかけたことがあるんです」

「えっ?! アダムくん、それ本当……?」

「はい。でも、俺というより、一緒にいたアンズが攫われそうになったんです。その誘拐犯は“国王の娘”を探していました。第一王女様のことを指していたのかなとも思ったんですが……。いや、ニコはれっきとした男だし……」


 話しながら、なぜ自分がこの話を思い出したのか、はっきりとは分からなかった。

 だが、ニカさんは俺のまとまりのない話を聞くや否や、即座に反応する。


「アダムくん……君、賢いね。二人とも王族の子供じゃないか。やっぱり、()()と何かしら関連してる可能性が高い……。その誘拐事件、ニコの脱走、そして今回の宗教団体……」

「そうですね……。俺の家、順位はかなり低いですが、一応王族です。となると、母さんは……もしかすると、元から狙われていたのかもしれません」


 王族の関与は、それだけじゃない。

 フェーリーシという教祖は、シアンさんの師匠。そのシアンさんは第5王子……。


(俺の直感が言ってる――これは偶然でも奇跡でもない。誰かが、何かを企んで、意図的に……?)


 ただの宗教団体にしては、あまりにも緻密な計画。

 この後、どう動くべきか、考えを巡らせる。

 果たして、俺は母さんを説得できるのか? いや――このままじゃダメだ。


 そんな俺の様子を見て、ニカさんはふっとため息をもらしながら、ある事情を暴露した。


「……アダムくん。ここだけの話だ。僕は貴族だから、王族とは無関係。だけど……リュウコちゃんも、その宗教団体に入信しようとしていたんだ」

「っ……?!」


(あの己の意志を強く持っているリュウコさんが、入信しそうになった――?)


「あっ、もちろん僕が止めたけどね。僕たち研究者からすれば、『奇跡の力で家族が救われる』なんて、どう考えても胡散臭い。でも……心に余裕がなければ、すがりたくもなる。あの頃の僕たちは、まだ諦めきれていなかったから。子供のことを……」

「……そうでしたか……()()止められなかった……」


(俺があの時、もっとちゃんとした言葉をかけていれば……ニカさんのように防げた……?)


 自問自答しかけたその瞬間――ニカさんのデコピンが、俺の額を弾いた。


「痛っ!」

「ごめん、つい……。アダムくん、変えられない過去のことを深く考えすぎちゃダメだよ? 絶望したくなる気持ちは分かる。でも、これからの未来を変えていくことの方が、ずっと大事だから。君、今すごく難しい顔をしてるよ。心配になる……」

「ニカさん……」


(結構、ニカさんには素の自分を出してるつもりだったんだけどな……)


 俺は呼吸を整えて、話を切り替えることにした。


「じゃあ、ニカさん。もしニカさんだったら、この後、宗教団体を潰すために何から始めますか? 残念ながら、今の俺は頭が全然回らなくて……」

「アダムくん、色々あったからね。僕だったら、その宗教団体の『薬物供給ルート』や『人の出入り』を調べるかな」

「なるほど……確かに。それ、いいですね。取り入れてもいいですか?」

「もちろんだよ。でも、絶対に無理はしないで。……それから、ニコのことも頼むね?」


 そう言って、ニカさんは空になったコップを片付ける。

 その時、ふと、こんな相談を持ちかけられた。


「あの……ニコって、お友達、ちゃんといるのかな? 一匹狼みたいなところがあるから……。本人は平気だって言ってたけど、王子になってから会うこともなくなって……やっぱり心配でね」


 ニカさんは、ニコのことを案じていた。

 なので、俺は10歳くらいの時に撮った写真を取り出すことにした。


「ニカさん、ご安心を。ニコは俺の顔馴染みと仲がいいですよ。この子とは親友です」


 ニカさんは写真をじっくり覗き込む。

 そこに写っていたのは、研究取扱者の資格証を持つ俺と、剣術検定1級の資格証を持つサラ。

 俺はサラの顔を指さした。


「うわぁ、いい写真だね〜。ニコ、こんな可愛い子と一緒にいるのかぁ……。なら、大丈夫だね!」


 ニカさんは、安堵しながら、にっこり笑っていた。


「はい。まぁ、ニコなら大丈夫ですよ」

「アダムくん、ありがとう。いや〜、君が研究取扱者試験に合格して、もう5年経ったんだね〜」

「そうですよ。あの時も、ニカさん、ペロペロキャンディ食べてましたね」

「そりゃあ、僕のアイデンティティだからね。食べる?」

「いや、大丈夫です。それより、宗教団体の話は置いといて、趣味の研究の話でもしませんか?」

「いいね〜!」


 こうして俺は、ニカさんと夜更かししながら雑談を交えることにした。


 なお、宗教団体の『薬物供給ルート』や『人の出入り』については、明日以降調査するつもりだったのだが……。


 思いもよらない出来事によって、その全貌が明らかになった――。

<余談:ニコくんの設定について>

第6王子ニコくんの名前は、とあるお薬の名前が由来。

そのお薬には、①硝酸薬(NO供与体)としての作用と②ATP感受性カリウム(K⁺)チャネル開口作用の2つの作用機序があります。


① 一酸化窒素(NO)は分子量30。

ニコくんにとって、鍵となる王子王女の数字を掛け算すると、30になります。

(第10王子×第⚫︎王子×第⚫︎王女=30)


② ATP感受性K⁺チャネル開口作用。

→K⁺チャネルが開くことで、細胞内からK⁺が流出し、細胞膜の過分極が起こる。

→カルシウムチャネル(Ca²⁺チャネル)の活動が抑制され、細胞内Ca²⁺濃度が低下する。

(ちなみに、ニカさんの名前は、とあるカルシウム拮抗薬が由来です。そのため、ニカさんとニコくんに接点があるという設定になっております!)


<予告>

次回はアンズちゃん視点回予定です。

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