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【三族山編】助手関白〜研究取扱者の妻兼助手と初会〜

「皆様、着きましたよ」


 フォレスト家へ向かった時にもお世話になった運転手が、俺たちを三族山内吸血鬼領の検査機関へ送り届けてくれた。エバスは車を降りてすぐ、運転手に向かって手を振る。


「運転手さん! ありがとな! 迎えが必要な時に、また連絡するぜ!」

「分かりました。いつでもお待ちしております。では!」


 そう言うや否や、運転手は勢いよくアクセルを踏む。

 エンジン音が唸りを上げ、タイヤが砂利を跳ね飛ばしたかと思うと、瞬く間に車が走り去ってしまった。


(さっき、エバスが「この辺なら温泉が最高だぜ!」って熱く語っていたし……ひょっとして、今から直行する気か?)


 そんなことを想像しながら、ふと目の前の建物に注意を向けたところ――。


「え……ここ、研究施設なのか……?」


 俺は困惑した。

 何故なら、そこは一見すると、普通の一軒家だった。

 白い壁に、こじんまりとした木の扉。門構えもなく、どこからどう見ても「誰かの家」でしかない。

 看板もなく、ラボ特有の無機質な雰囲気もなし……。


「普通のお家だね? 本当に、ここなのー?!」とアンズが不安げな様子で、俺の方を向く。

 一方のエバスは、「大丈夫だって! きっとすげー研究者がいるんだよ!」とポジティブな物言いをする。


「……まあ、入ってみれば分かるか……」


 そう言いながら、俺は玄関のチャイムを押した。


 すると、扉がゆっくり開き、俺たちの前に現れたのは、白衣をまとった長身の女性。

 髪はきっちりと後ろで束ね、三つ編みにしている。

 それにキリッとした顔立ちで、知的な雰囲気が出ていた。


(この人、いかにも研究者っぽい感じだな〜)


 そう思ったのも束の間、彼女は何も言わず、ただ俺たちを観察するように、じっくりと視線を這わせてくる。


(……え? なんだ……?)


「えっと、初めまして。アダム・クローナル、研究取扱者です。こちらは、第8王子のエバス・フォレスト。そして、幼馴染のアンズです」


 こちらから名乗ってみたものの、彼女は無反応だった。


(え、なんか違った? てか、本当にここ検査機関なのか……?)


 やけに生活感のある家。

 何の看板もない玄関。

 そして、この沈黙。


(俺たち、場所を間違えた……?)


 さすがに不安がよぎったその時、彼女の方から口を開いた。


「あぁ……そうでした。第5王女のシンイさんから、話を聞きましたよ。私は主人の助手をしているリュウコと申します。主人をお呼びしますから、お待ちくださいね」


 そう言うと、リュウコさんはくるりと踵を返し、家の奥へ向かっていった。


 そして、次の瞬間。

 それまでの冷静な雰囲気が、一瞬にして吹き飛ぶ。


「あなたー! お客さん来てるわよ! ペロペロキャンディは口から出しなさーい!」

「 「 「???!!!」 」 」


 俺、エバス、アンズの3人は、目を見開いて固まる。


(さっきとキャラ違いすぎない、この人……?)


「ふっふっふ〜! わかったよ〜ん」とのんきな声が、奥の部屋から返ってきた。


 しかし、その直後――。


「……あっ、嘘ついてるわね! 隠したでしょ?! まだ口の中に入れているのはわかってるんだからね!」

「ち、ちがうよぉ……おおぐぅうぇぇぇえ! んぐぅ! げふっ! qwertyuiop!」


 何かを飲み込もうとして、見事に失敗したようだ。

 もごもご言いながら、苦しそうな声が聞こえてくる。


「……詰まったよね? 今、確実に詰まったよね?」


 シーン……。


(嘘だろ……!)

 

 俺が律儀にツッコミを入れたのに、誰も反応してくれなかった……。

 なので、ちらりとエバスとアンズを見たところ、二人とも口をあんぐりさせていた。


「あっ! ごめん、アダム! ついご夫婦の勢いに乗せられちゃった。なんか、旦那さんが奥さんのお尻に敷かれるって、こういうことだと……初めてわかった!」

「オレもだよ、アンズちゃん! ……ところで、アダム。研究者って、もっとこう……真面目そうなイメージだったんだけど?」

「……まぁ、俺を含めて、研究者って変人しかいないから」


 俺の返しに、二人は納得したような、納得していないような複雑な表情を浮かべた。


 こうして俺たちは、カオスな家主の登場を待つことにした。


 だが、この時の俺は、まだ気づいていなかった。

 この家主と 「以前、会ったことがある」 ということに……。

【リュウコさんの名前の由来】

生薬名:竜骨リュウコツ

主成分:炭酸カルシウム


※次回のヒント:旦那さんの名前の由来はカルシウム拮抗薬です。

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