【三族山編】大死一番〜幼馴染に告白?〜
俺は、母さんのことでショックを受けていたものの、フォレスト家のシンイさんとルパタ、そして幼馴染のアンズが励ましてくれた。そのおかげで、昨日より気持ちが落ち着き、前を向こうと思えるようになった。
今日は、証拠として集めたこの薬物を、詳細に検査してもらう予定だ。
本来なら、俺・アンズ・シンイさん・ルパタの4人で、三族山内の吸血鬼領へ車で向かうはずだった。
しかし、ルパタは昨日の調査で無理をしたのか、朝から高熱を出してぐったりしていた。
そんなわけで、俺はルパタの部屋へ見舞いに来た。
「ごめんね……アダムくん。僕の体が弱くて……」
「いや、無理しないで。お大事に。俺は、どうしようか……」
正直、俺はルパタのことをかなり信頼していた。
だから、誰と一緒に検査機関へ向かうか、悩んでいた。
すると――俺以外にも、誰かがお見舞いに来たようだ。
「ルパタさん! 昨日はありがとうございました! お大事になさってください!」
「兄ちゃんー! 昨日はよく頑張った! オレが吸血鬼領へ2人を案内するから、ゆっくり休みな!」
アンズと、ルパタの弟・エバスだった。
エバスはとても元気そうだ。
(あれから回復したようで、良かった……って、今、エバスが「案内する」って言ったか?)
「ごめんね……エバス……お願い……してもいい?」
ルパタは、熱で声を出すのもつらそうだ。
「もちろんだぜ! オレに任せなっ!」
「さすが、エバスくん! 頼りになるー!」
「あぁ、オレ、吸血鬼の美人なお姉さんと仲良くなりたいしな!」
(仲が良いのはいいことだけど……この二人と一緒で本当に大丈夫だろうか?)
少し心配になりつつも、俺とアンズ、エバスの3人で、吸血鬼族が所有する検査機関へ向かうことにした。
なお、シンイさんはルパタの看病のため、フォレスト家に残るとのことだ。
今回も、前回と同様にフォレスト家の公用車で出発することに。
車に乗り込むと、アンズが突然、興味深いことを聞いてきた。
「アダム、私から質問! 昨日、変な教祖がさ、『今日、打ち上がる花火は……黄色だと神は言っている!』なんて胡散臭いことを言ってたけど……。あれって、何かの実験だったりする?」
「おぉ……。アンズ、面白いことを聞くな。あれは【炎色反応】って言って、花火玉の中に含まれる金属の種類によって色が変わるんだよ」
「えっ、そうなの?! じゃあ、黄色になったのって、何か特定の金属が入ってたからってこと?」
アンズの着眼点はなかなか鋭い。
あの知的なお父様の影響を受けているのかもしれない。
「そうだ。黄色になるのは、ナトリウム。……アンズの瞳の色と一緒だな」
そう言って、俺はアンズの目を指差して、じっと見つめる。
「えっ……?」
アンズは、なぜか頬を赤くした。
(なんで照れてるんだ?)
俺は表情を変えずに、ただ純粋な疑問として、同じ言葉を発してしまった。
「えっ……?」
すると、そんな俺たちのやり取りを、むず痒く思ったらしいエバスが、すかさず割って入る。
「おいおい、何イチャついてんだよ〜! それに、オレはそういう難しい勉強の話は苦手なんだって! アンズちゃん、この前みたいに歌ってよ〜!」
(こいつ、本当に自己中野郎だな……。せっかく化学の話をしてたのに……)
俺がため息をつこうとしたその時、アンズがハッと何かを思いついたようだった。
「そうだ! アダム、次は相談したいことがあるの!」
「ん?」
「あの薬物依存の人たちを、音楽の力でなんとか助けられないのかな?」
「あぁ……薬物依存って、なかなか抜け出すのは難しいと思う」
俺は、正直にそう答えた。
「そっか……」
アンズは一瞬、落ち込んだように見えた。だが、すぐにギュッと拳を握りしめる。
「でも、私、ショックだった。あの信者の人たちの様子も、自傷行為をしていた同い年くらいの女の子の姿も……全部、胸が痛くて……! こんなの、絶対に許せないよ!」
アンズの瞳が強い意志で輝く。
その姿を見て、エバスも大きくうなずいた。
「わかるよ、オレも悔しい! 兄ちゃんを病ませたあの宗教団体、絶対に許せない! あの謎の儀式の最中に証拠を集めて、思いっきりケチョンケチョンにしてやりてぇ〜!」
「本当に! あの教祖、なんか気持ち悪いし!」
二人は宗教団体への怒りで盛り上がっていた。俺は会話には加わらず、車の中で彼らの言葉を頭の中で整理する。
――変な教祖、花火、黄色、金属、薬物依存、音楽の力、儀式の最中、証拠、ケチョンケチョン。
「うっ、浮かんできた――!」
俺はそう叫び、勢いよく立ち上がろうとして――ゴンッ!
「ぐっ……!」
車内の天井に頭をぶつけ、よろめいた勢いでメガネが足元に転がる。
「えっ?! 何が浮かんだって?!」
「アダム……もしかして、おかしくなったの?!」
二人が驚いて俺を見ている。俺は転がったメガネを拾い、しっかりとかけ直してから口を開いた。
「違う。次回の作戦のアイデアが浮かんだんだ。この作戦は、宗教団体の可哀想な信者たちだけじゃない。俺の母さんを助けるためにも、絶対に成功させなきゃならない」
俺の真剣な眼差しに、二人はごくりと唾を飲む。
その表情を見て、俺は確信した。
――このメンバーなら、覚悟を決めてくれるだろう。
「だから……力を貸してくれ。俺たちの力を合わせれば、きっと道は開ける」
二人は咄嗟に目を合わせたあと、肯定してくれた。
「当たり前だろ!」
「うん! やろう!」
ありがたいことに、力強い返事だった。
「……まずは、この薬物と教祖の正体を明確にする。こんな危険な薬物を使い、花火の炎色反応まで知っているとなると、やつは単なる詐欺師じゃない。研究者か、それに近い知識を持つ人物のはずだ。その特定ができたら、儀式の最中に証拠を突きつけ、信者たちに真実を見せる」
俺は一呼吸置いて、話を続ける。
「ただ、証拠を突きつけるだけじゃダメだ。やつらは盲信している。嘘だと決めつけて、耳を塞ぐだろう。だから——俺が、儀式の場で実験をする。花火の色が科学で説明できることを、目の前で証明してやる」
「うおおお! おもしれー話じゃねーか! ワクワクしてきた!」
エバスは興奮したように叫ぶ。
「そう言ってもらえると助かる」
でも、本当に大切なのはここからだ。
「ただし——信者たちは、薬物依存に近い状態だ。理屈だけじゃ心を動かせない。そこで、必要なのは……盛り上がるパフォーマンスだ」
俺はそう言いながら、アンズの方を見た。
彼女は、俺の顔を見て、緊張したように目を見開いたが……。
「いいよ、アダム。私、覚悟してるから!」
その言葉に、俺は安堵する。
「頼む! 研究者である俺のために、曲を作ってほしい。そして、歌ってくれないか?」
(自分でも無茶なことを言ってるのはわかってる。でも、今の俺には、君の力が必要なんだ)
俺の言葉に、アンズの黄色い瞳が揺れる。
まるで、そこに花火の光が映り込んだように潤んでいたが、優しい笑顔で答えてくれた。
「何を言ってるの? もちろん。貴方のためなら、歌うわ。いつでも……」
そう言ってくれた彼女の瞳は、誰よりも綺麗に輝いていた。