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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【三族山編】傾蓋知己〜第7王子と初会〜

 朝日が昇るころ、俺は一人で散歩をしていて、偶然、薬用植物園を見つけた。


(ソア市はランプ市の隣だけど、こんなところに薬草園があったなんて!)


 興味をひかれた俺は、入り口の前で立ち止まり、中に入れるか確かめてみることにした。


「すみませーん! 誰かいませんかー?」


 思ったよりも大きな声を出してしまった。それだけ、どんな薬草があるのか気になったのだ。

 しかし、しばらく待っても、誰も出てくる気配はない。


「うーん、どうしたものか……」


 悩んだ末、俺は自分なりのルールを決めた。


(扉に鍵が掛かっていたら入らない。鍵が開いていたら、中に入る!)


 そう決めて、試しに取っ手を握る。


 ギィ――。


 俺の念が通じたのか、それともただの偶然か。扉には鍵が掛かっていなかった。


(ならば――遠慮なく、お邪魔させてもらおう!)


 すぐさま薬草園に入ったところ、目の前に広がっていたのは、漢方薬にも使えそうな薬草の数々。しかも、どれも丁寧に管理されている。


 今は8月――真っ先に、目に入ったのは、大葉子(おおばこ)の全草だった。


(オオバコさんと同じ名前の大葉子(おおばこ)か! お茶にすると甘くておいしいんだよなー)


 そんなことを思いつつも、さすがに勝手に摘み取るわけにはいかない。大葉子以外の薬草もじっくり観察しながら、暇を持て余した俺は、アンズのお父さんから借りていた本の続きを読むことにした。


 ふと、本に挟まっていた例の写真が目に留まる。(しおり)代わりのように差し込まれた()()を取り出し、改めてじっくりと見つめる。


 やはり――最初に目を引くのは、女神様にそっくりな女性。


「……やっぱり、間違いじゃないよな?」


 淡い紫色の髪、澄んだ青い瞳――記憶に焼き付いた女神様の面影と、目の前の写真がぴたりと重なる。

 だが、それと同時に疑問が生じる。


「女神様って、この世界では、何をしてたんだろう?」


 もし彼女がこの世界に生きていたのなら、なぜ俺が会った時には銀髪になっていた?

 そもそも、なぜ()()になったのか――。


「……もしかして、彼女はこの世界の未来を改変するために、女神になったのか?」


 そして、もうひとつ気になることがある。それは、キハダ理事長の過去。


『仲良くしている王族なんて一人もいない!』


 彼女はそう言っていた。なのに、写真の中の彼女は、アンズのお父さんと親しげに笑い合っている。


「理事長は……何を隠してるんだ?」


 過去に何があったのか? なぜ今は王族と距離を置いているのか?

 それに、アンズの父さんもまた、王族と深い関わりがあったのなら――。


「……この写真が意味することを、もっと知る必要があるな」


 写真に写る三人。それぞれが抱える過去と秘密。

 これを追えば、もしかすると、俺の知らない“この世界の真実”に近づけるかもしれない……。

 そう思いながら、写真を凝視していた俺は、まったく気づいていなかった。


 いつの間にか、隣にエルフ族の長髪の男性が立っていたことに。

 しかも――彼は号泣していた。


「あぁ……レンゲ様だ……」

「……あっ!」


 しまった――! この写真を他の人物に、まじまじと見られるわけにはいかない。そう判断して、反射的に写真を隠そうとしたけど、彼は優しい口調で声をかける。


「お願いだ。大切なお方と、久しぶりに出会えたんだ。もっと見せてくれないか?」


 その言葉に、つい立ち往生する。


(そう言われてしまっては……)


 迷った末、写真を見せることにした。それに、彼の言葉を聞いて、俺は思い出してしまった。


()()()――女神様は、自分のことをそう名乗っていた……!)


 さらに、「レンゲ()」と敬称で呼ばれているのなら、間違いなく高貴な身分なのだろう。


(一体、どういう関係なんだ……?)


 気になった俺は、思い切って聞いてみる。


「……あの、貴方はレンゲ様とお知り合いなのですか?」


 エルフの男性は、弱々しい笑みを浮かべながら、静かに口を開いた。


「そうだね……。知り合いというよりは、彼女は亡き王妃様だ。とても偉大なお方だよ」

「!?」


(えっ? 女神様が、()()王妃様だって……!?)


 理解が追いつかないし、突然の事実に頭を抱える。

 

 そんな俺の動揺を察したのか、彼は丁寧に話を補ってくれた。


「君は若いから、知らないかもしれないね。レンゲ様は……15年前に亡くなったんだ」


 15年前――それは、俺がこの世界に転生して、赤ん坊だった頃だ。


「不慮の事故が原因だって言われてるけど、違う。君は……三族山の宗教団体のことを知ってる?」

「……あっ、知ってます。俺は今週の日曜日、調査に行く予定です」

「そうか……! もしかして……アダム・クローナルくん?!」


 俺の名前を口にした途端、彼はぴたりと泣き止む。


(えっ!? 俺の名前を言っただけで、いきなり涙が止まるのか!? しかも、言い方がシンイさんっぽい……)


 まるで偶然に導かれているようだ。一応、自分からも名乗ることにした。


「えっと……貴方のおっしゃる通り、アダム・クローナルです」


 すると、彼はコクリとうなずき、自己紹介をしてくれた。


「名乗るのが遅くなってごめんね……。僕は、ルパタ・フォレスト。第7王子だよ」


(第7王子……!? フォレストってことは、シンイさんの弟だ)

 

 驚きを隠しきれない俺をよそに、彼は静かに手を差し伸べてきた。その仕草は威圧的でなく、むしろ親しみやすさを感じさせるものだった。握手を交わしながら、彼の言葉を待つ。


「……話を戻して、単刀直入に言うね」


 第7王子のルパタさんは表情を引き締め、話を続けた。


「レンゲ様の死因は、その宗教団体だとウワサが出ているんだ……」

「えっ……」


 思わず息をのんだ。

 女神様――いや、亡き王妃様が、あの宗教団体に……?


「あくまでも、ウワサだよ」と言葉を強めながら、その瞳に怒りを溜めていた。


「だけど、ウワサであっても、僕はあの団体のことが許せない。彼らは、ランプ市……いや、エルフ族そのものを絶滅に追い込もうとしているんじゃないかって。詳しい事情はわからないけど、三族山の支配を通じて、他の種族まで支配下に置こうとしている気がするんだ」


 まるで自分の中の何かと闘っているようだ。それほどまでに、この問題を深刻に捉えているのが分かる。


(こんなに誠実で正義感の強い王子を追い詰めるなんて……一体、どれほどの脅威なんだ。あの宗教団体は?)


 俺は決意を固めた。


「わかりました。原因が明確でないのなら、やはり日曜日に団体の様子を見るのが、一番ですね」


 その言葉に、彼の表情がこわばる。


「……本当に、行くのかい……?」

「はい」


 迷いはない。アンズの言葉が、今の俺の心に響いている。


『与えられた環境の中で、乗り越えていくしかないんだよ』


 だからこそ――俺は、母さんと向き合う必要がある。

 この世界に転生した意味を、自分なりに見つけなければならない。


 俺の覚悟を感じ取ったのか、彼も賛同してくれた。


「……僕も参加するよ」

「え?」

「姉さんから聞いてるかもしれないけど、僕は……弱い男なんだ。でも……」


 そう言いながら、彼は自身の手をぎゅっと握りしめた。


「この試練は乗り越えたい。だから、僕も行く!」


 彼の瞳に宿った光は、脆弱ではなかった。むしろ、揺るぎない信念を貫く力を持っていた。


 

 さて、そんな誠実な彼と、かなり話が通じることもあり、つい長話をしてしまった。せっかくだし、気になっていたことを聞いてみよう。


「そういえば……ここの大葉子、少し収穫してもいいですか?」


 すると、彼は意外な答えを口にした。


「ここは僕の所有地ではないんだ。元々は、レンゲ様が作った薬草園なんだよ。だから、自由に取っていっていいよ?」


(そっか……。確かに、初めて女神様に会った時、彼女は庭園にいた。植物が好きなんだろうな、きっと)


 彼を通じて、そのことを知った俺は、()()()お礼を言うことにした。


(ルパタさん、そして女神様――)


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……」


 そう言って、大葉子を摘み取る。手のひらに広がる葉の感触を楽しみながら、ふと、この前アンズが歌っていた曲を鼻歌で口ずさんでみた。


 すると、彼も俺のリズムに合わせて、自然と首を縦に振っている。


(本当に善人だ……)


 ほんわかしながらも、いいことを思いついた。


「そうだ。今度、一緒にこの大葉子茶を飲みませんか?」

「えっ?」

「今日は、別の漢方茶を用意しているので、そちらを準備しますよ」

「……もしかして……?」

「ランプ市長から、貴方のことを聞きました。俺は漢方や生薬が好きなので、ぜひお任せください」


 俺がそう言うと、彼の表情が和らぐ。


「ありがとう、アダムくん」

「どういたしまして、ルパタさん」


 そう呼ぶと、彼は少し首を傾け、何か考え込むような仕草を見せた後、こう提案してくれた。


「あの、ルパタと呼んでくれないか?」

「えっ!? でも、貴方は俺より年上では……?」

「関係ないよ。君がその写真を見せてくれたおかげで、元気が出た。ぜひ、僕と友達になってくれないかな?」


 そんなことを言われたら、もう呼び捨てにするしかない――。


「……わかりました、ルパタ」


 口に出してみると、なんだか不思議な感覚だった。でも、ルパタは嬉しそうだ。


「じゃあ、この漢方茶でも飲みますか? 高級なニンジンが入っているので、体にいいですよ」と言って、俺は()()へお茶を差し出した。

〜とある庭園にて〜

彼女の歌声が、庭園に優しく響く。


「私の声と貴方の理論が絡み合って 思い出された女神反応〜」


そして歌い終わると、彼女は花に水を注ぎながら、ふと耳を澄ませた。


『女神様――ありがとうございます。では、お言葉に甘えて……』


「アダムくん、今は薬草園かしら? あの場所は、とても素敵よね……。娘と、そして体の弱かった彼も、一度連れて行きたかったわ」


<余談>第7王子の名前の由来

・ルパタ→アレルギー治療薬【ルパタジン】から。

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