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【三族山編】自由闊達〜第5王女と再会〜

 アンズの家を出て、再び電車に乗った俺たち。お互い疲れが抜けきれていないのか、電車内で爆睡していた。だけど、とうとう終点である【王宮ターミナル】駅に到着した。ここから先は、三族山行きのバスに乗り換える予定()()()……。

 

 なぜ、過去形になっているのか。

 それは、例の宗教団体が三族山の入り口を封鎖してしまい、バス自体が運休になったからだ……。

 困った俺は、ランプ市長に何の交通手段を使えば良いのか電話で相談することに。すると、「王族の公用車で迎えに行くから、駅で待っておるのじゃ」とのことだった。


「アンズ。ここで待とう。どうやら、王族の公用車で迎えが来るらしい」

「そうなんだ! 王族ってことは、フォレスト家なのかな? もしかして……」


 アンズは、思い当たる人物がいるようだ。

 すると、突然、アンズの背後から、「ヒャッホー!」と元気いっぱいの声が響き渡る。


「きゃあ! って、シンイさん! 驚かせないでください〜!」

「ワタシって、よくわかったねー?」


 シンイさんはアンズのバイト先の副店長であり、この国の第5王女様だ。俺やアンズと比べて小柄だが、勢いがある。それに、朗らかで明るい性格はアンズと通じるものがある。まるで、もう1つの太陽のような存在だ。


「あー! キミは、天才サイエンティストのアダム・クローナルくん!」


 シンイさんの透き通るような声が駅に響き渡り、一斉に周囲の視線が俺たちに集まる。


(……正直、目立つのは好きじゃないんだけどな〜)


 それに、王族が迎えに来ると言っていたから、この彼女が担当なのだろう。


「シンイさん……えっと、これから、公用車で案内してくれる感じですか?」

「そうだよっ! 運転は執事がするから、ご安心を。ワタシとお話ししながら、行こうね〜?」

「はーい!」


 シンイさんは相変わらずフレンドリーだ。アンズはバイトの先輩だからか、しっかりと返事をする。こうして、俺たちはフォレスト家の公用車に乗り込んだ。


「そういえば、聞いたよ? ランプ市長のおじちゃんが、たまたまザダ校に来て、二人に声を掛けたんでしょー?」

「そうです」

「なんか調査とかに付き合わせることになって……ごめんね? 本来はエルフ族の問題なのに、キミたちにも手伝ってもらうなんてさ……」


 どうやら、シンイさんは俺たちを巻き込んでしまったことを申し訳なく思っているらしい。

 

「大丈夫ですよ、俺自身、その宗教団体をやっつけたいぐらいの気持ちでいますから」

「えっ、本気(マジ)でっ?!」


 思いのほか、やる気を見せる俺にシンイさんは驚愕していた。そんな俺たちを見て、アンズがフォローを入れてくれた。


「シンイさん、安心して! アダムは、学校で第9王子をやっつけたこともありますので!」

「あぁ〜。あのヤバい王子でしょ? うちの弟たちも『ヤバすぎ!』って、警戒してたんだよね〜。アダムくん、超優良株じゃん? アンズちゃん、いい? 逃しちゃダメだよ!」

「シンイさん、何言ってるんですかー?!」

「仕事ができる男ほど、早く結婚しちゃうのだから〜」

「えっ、結婚だなんて……?! いきなりすぎますよー!」


 アンズは、シンイさんの暴走を止めようと必死になっている。

 一方、俺は少し騒がしくなってきた車内から逃げるように、運転席にいる執事の方へと声を掛けた。


「すみません、俺たちはこれからどこへ向かうんですか?」

「フォレスト家です」

「つまり、三族山のあるランプ市と同じ市ですか?」

「いいえ。フォレスト家はランプ市の隣――ソア市にあります」

「えっ?」


(あれ? ランプ市長の話だと、三族山ですぐさま調査してくれって感じだったけど……)


「アダムくん。キミ、混乱してるね?」とシンイさんがいつの間にか、俺の顔を覗き込んでいた。


「三族山はね、宗教団体に乗っ取られていて、普段は入口が閉鎖されてるの。誰でも入れるのは、日曜日と祝日だけなんだよ……」

「あちゃー、そこまで勢力が強いとは……。そりゃあ、市としてもお手上げですよね?」


「でもね、ワタシたちは諦めないよ! 今週の日曜日、調査へ行こうね?」とシンイさんが誘ったところで、ちょうどフォレスト家に辿り着いたようだ。標高が高く、森に囲まれた自然豊かな場所だ。思わず、アンズと一緒に背伸びをする。


「気持ちいいね――! アダム」

「そうだな、アンズ」

「二人とも! 今日は水曜日だから、しばらく我が家に泊まっていって? それぞれの部屋を案内するね〜」


 そう言って、シンイさんは俺とアンズの部屋を案内してくれた。そのとき、ふとあることが頭をよぎった。


(ゲッ……。それなら、こんなに急いで来る必要なかったんじゃ……)


 そんな俺の胸懐をどうやらシンイさんは読めていたのか、見逃さなかった。


「アダムくん、せっかくだからリフレッシュするといいよ? この前、お店で会った時より、なんか元気なさそうに見えるもん」

「?!」


(これは驚いた……。俺自身、感情が顔に出ないタイプだが、シンイさん、俺の心情を見抜いているのか?)


 実のところ、今日の朝、父親と会ってしまったこともあり、気分は良くなかった。


「んー。そうだね、ワタシも気分を変えたい時があるんだよ。弟を見てるとねぇ……」


 一瞬、シンイさんの顔が曇る。だが、すぐに本来の調子を取り戻す。


「あっ、めんご! つい愚痴っちゃったね〜。せっかくだから、ゆっくりしていって!」

「わかりました」

「シンイさん、ありがとうございます!」


 俺たちはシンイさんの言葉に甘え、昼過ぎからそれぞれの部屋で休むことにした。

 

 そして、時刻は夕方。俺とアンズは、シンイさんが差し入れで用意してくれたステーキ弁当を持ち、外のバルコニーで食べることにした。


「おいしいね! アダム」

「うん、美味しい。体力がつきそうだ」

「このお肉、ジューシー過ぎるよ……!」

「あぁ、アンズ。アミノ酸が詰まっている感じがする」

「あっ! また、研究者みたいなことを言ってるー!」


 二人で自然の景色を眺めながら、感想を言い合う。


(こういう、のんびりした時間も悪くないな……)


 そう思いながら、呑気に過ごしていた。だけど、そんな穏やかなひとときを、突然、ドンドンドン! という拳で扉を叩くような音が引き裂いた。


「えっ、何? 今の音?!」

「わからないけど、何か良くないことが起きてそうだな。行ってみよう」


 俺たちは顔を見合わせて、音のする方向へ駆け出した。


 すると、そこには、DIYで作られた個室サウナの中で閉じ込められたエルフの少年が、必死に助けを求めていた――。

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