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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【三族山編】高山流水〜図書館長と再会〜

 後日、ランプ市長から連絡が来た。彼の部下が、三族山(さんぞくやま)行きのチケットを手配してくれたようだ。しかも、2人分。と言うことは、やはりアンズを連れて行くことになる。


(……正直、心配だ。アンズを危険な目に遭わせたくない……)


 一方、アンズはやる気満々で、「一緒に行こうね!」と毎日、連絡が来ていた。


 だから、今回は一緒に行く。


 そして迎えた当日――俺たちは【ザダ校前】駅で集合した。以前までは、ここから蒸気機関車のような汽車に乗るのが普通だった。だが、この数年間で公共交通の開発が進み、今では俗に言う電車が走っている。


(開発者名に、オオバコさんの名前があったな……やっぱりすごいわ)


 俺はオオバコさんの実力に感心しつつ、アンズと電車に乗り込む。そして、向かい合わせのテーブル席に座った。

 

「アダム、私ね。買ってきたよ……メロンパン! 一緒に食べようよ?」と言って、アンズは旅行カバンから、2個のメロンパンを取り出した。


「アンズ。これ、作ったの?」

「ちっ、違うよ! パン屋さんで買ったの!」


 アンズはハムスターのように、頬を膨らませている。


「もしかして、私が作ったの食べたくないの?!」

「いや、そういうわけじゃない……」

「ひどい! あのさ、この前の私のハンバーグ、美味しくなかった……?」

「あぁ、あれは美味しかったよ。また作って」

「うん!」


 そんなやりとりをしながら、俺たちがメロンパンを食べようとしたタイミングで、どこからか、クスクスと笑い声が聞こえてきた。


「いやー、まるで夫婦漫才……」


(誰だ! 俺たちのことを夫婦だと言ったのは……)


 思わず顔をしかめると、隣でアンズが「私たち、まだ未成年です!」と謎のフォローをしていた。

 一体どんな人物なのかと顔を上げると、そこにいたのは、またしても知っている人物だった。俺より先に、アンズが驚きの声をあげる。

 

「図書館長さん! どうして、この電車に――?!」

「やぁ。近くの海で釣りをしに来てたといったところです。それより、アダムおぼっちゃまにアンズちゃん。大きくなりましたなぁ!」


 図書館長のおじさんは、俺たちの顔を見て、嬉しそうに目尻を下げていた。


「あっ! ごめんなさい。図書館長さんの分のメロンパンはないの……」

「お構いなくー! 私は駅で弁当を買ったから」

 

 そう言って、図書館長は俺たちの向かい側の座席に座った。各々、食事を楽しんでいたが、ふと図書館長が口を開いた。


「ちょっとお伝えしたいことがあってね。実は、図書館の一部をカフェ併設にしないか、という話が出ていましてなぁ〜」

「へぇ、カフェ併設?」

「そう。アダムおぼっちゃま、どう思われますかな?」

「いいんじゃないですか?」


 俺は即答した。


(俺自身、本を読みながら、コーヒーを飲むのが好きだし……)


「ありがとうございます。だけど、どこのカフェ店と提携するのか、まったく決まっておらんのですよ……」


 どうやら、まだ計画段階で、どこの店と契約するかも決まっていないらしい。


(……あっ!)


 ふと、脳内で点と線が重なり合う――要するに、いいアイデアが浮かんできた!


「そうだ! お店選びに迷われているのなら……アンズが『ハートバックス』っていうコーヒーチェーン店で働いてますよ」

「おぉー! ハートバックスかぁ……それは心強い。今度、その企業さんに話を聞いてみますね」


 俺は隣のアンズに目を向ける。彼女は何やら手助けしたいと思ったようで、身を乗り出して話に加わった。


「せっかくなので、私から副店長に相談してみましょうか?」

「いいのかい?! いやぁ、本当、恩に着るよ」


 図書館長は感謝しながら、ニヤリと笑った。


「ところで、2人はデート中ですか?」

「 「デート?!」 」


 思わず、俺とアンズは声をそろえて叫ぶ。俺はすぐさま、訂正する。

 

「いえいえ、違います!実は、調査をしに行くんです」

「えっ、そうなのかい? どこへ?」

「ランプ市の三族山です」


「へぇ……」と図書館長は軽く頷いたが、その直後、視線を窓の外に向けた。「あっ、そろそろ私の降りる駅ですな。それでは、お元気で――」と言いながら、彼は席を立つ。ちょうどそのタイミングで、電車が急に揺れた。


 ――ガタンッ!


 ブレーキ音が響き、電車が急停止する。


「……え?」


 何が起こったのか分からず、俺たちは顔を見合わせた。

 

「申し訳ございません。線路内に動物が入り込み、電線に支障を来たしたため、本日の電車は運休となります」


(えぇえ……)


 俺とアンズは絶句した。今日中に、三族山に着く予定だったのに……。このアナウンスの感じだと、もう無理そうだ。


 俺たちが絶望している状態を見て、図書館長がポジティブな提案をしてくれた。


「せっかくだし、ここで降りて、久しぶりに図書館へ遊びに来ませんか?」

「 「えっ……?」 」


 俺たちは驚いて顔を見合わせる。まさか、こんな状況で魅力的な誘いが来るとは……でも、悪くない選択肢だ。


「……アンズ、行く?」

「……アダム、行こう!」

「 「行きます!」 」


 2人して、またハモってしまった。

 図書館長のおじさんはそんな俺たちの様子を見て、大爆笑していた。

 

「5歳の時からの幼馴染ってこともあるんだろう。本当に息がぴったりですな。じゃあ、せっかくなので、一緒に行きましょう――大丈夫。あの後、セキュリティは徹底することになりましてね。監視カメラも設置しているので、ご安心を」


 そうだ。俺が図書館長と別れたのは、確か10歳の時。そして、例の誘拐事件が起きたのは、5歳の時。あの時と比べて、図書館長はずいぶん頼もしくなったようだ。それだけじゃない。責任の重みをしっかりと背負っているように思えた。


 この世界に転生し、アダム・クローナルとして生きてきた15年――時間は驚くほど、早く過ぎていたみたいだ。

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