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【補習編】女の髪の毛には研究者も繋がる

【※注意】今話から夏休みに入ります……!

 どうやら、この異世界にも『夏休み』が存在するらしい。

 どこかの国と違って、ここでは猛暑になることがなく、最高気温はせいぜい25度。汗だくにならないから、快適である。

 

 さて、俺の名前はアダム・クローナル。15歳、学生。


 定期テストはなんとか赤点を免れたけど、70点未満の科目については、補習対象らしい。惜しくも魔法家庭学が69点だったこともあり、ギリギリ補習を受けるハメになったって訳だ。俺と同じく、補習対象になったのは、幼馴染のアンズと、第4王女のケイ。


 俺たち3人は、静まり返った教室で授業を受けていたが、ちょうど、その授業が終わったところだ。

 嬉しいことに、今日は最終日。つまり、明日から待ちに待った夏休みだ!


 机に突っ伏したまま、ケイが突然、ポロリと愚痴をこぼす。


「はぁ〜! 夏休み前に補習とか、マジで最悪だったわー。でも、いいこと思いついた! アタシ、息抜きがてら、この学校のプールで泳いでこようかしら?」


(いきなりプール?!)


 隣で聞いていたアンズも、ぽかんと目を丸くする。

 どうやら、ケイの発想力と行動力に舌を巻いているらしい。けれど、すぐに笑い出す。


「いいかも! 私も泳ぐの好きだよ!」


(……やはり2人とも若いな。授業が終わってすぐにプールとは〜)

 

 そんなことを思っていたら、この補習授業の講師であるキハダ理事長が話を聞いていたようで、こちらに視線を向けて、呟く。


「プールを使用するのはいいが、今年は一度も使っていないから、掃除しないといけないな……」

「 「やります!」 」


 2人は同時に返事をしていた。一方、俺はプールとか夏のイベントに、一切興味がないし、その時間を使って部室で新しい研究テーマでも探そう――そう考えていたのだが。


「アダムも一緒に、プールに行かない?」


 アンズが無邪気に誘ってくる。

 だが、俺は泳ぐのが好きでもないし、そもそもプール自体に興味がない。


「誘ってくれてありがとう、アンズ。でも、水の中だと本が読めないし、研究もできないから、今回はパスしよ……」

「それでいいのか――アダム!」


 ……なぜかキハダ理事長が、俺の言葉を遮って、話に割り込んできた。

 

「プール掃除した後に、水質検査をしないといけないんだが……やらないか?」


()()()()! もしかして、この学校の残留塩素を()()測れるのか――やりたい!)


 俺の中で、興味のやる気スイッチが一気に入る。


「理事長……男に二言はありません! 俺にやらせてください!」


 シーンと静まり返る。だけど――。


「ぶはっ! あはは――!」


 3人が大爆笑し始めた。

 キハダ理事長なんて、お腹を抱えて笑っている。


(えっ、理事長ってそんな風に笑うこともできるのか……?)


「アダム――! 君はまるで、オウレンみたいなことを言うじゃあないか! 『二言はありません』だなんて!」


 よく分からんけど、とても楽しそうだ。

 ケイとアンズも顔を見合わせて、クスクス笑っていた。


「最初はパスって言ってたのに、検査とかそういうキーワードに影響されちゃうの、めっちゃアンタっぽい! 行くわよー!」


 そう言って、ケイは一目散にプールの方へ向かって行った。

 

「ケイちゃんったら。いつも行動が早い! 一方、アダムは単純ね〜! じゃあ、私たちも行こう?」


 アンズが楽しそうに笑いながら言う。


「そうだな……アンズ! 俺は水質検査の試験キットを準備してから行くから、向こうで待ち合わせしよう」

「絶対来てね?」

「もちろん」


 アンズが移動するのを見送ってから、俺は部室へと向かった。必要な試験道具を手際よく揃え、最後に白衣を羽織る。


(よし、準備完了)


 そうして俺は、次の目的地であるプールへ移動する。

 

 さて、プールサイドに足を踏み入れると、アンズとケイがベンチに座り、楽しそうに雑談を交わしていた。どうやら、すでに掃除が終わったようだ。ふと視線を向けると、ベンチの後ろには先ほどのキハダ理事長の姿だけでなく、保健室のオウレン先生もいる。


(なぜだろうか……?)


 オウレン先生は、こちらに気づくなり、ゆったりとした足取りで、俺の方へ歩み寄る。

 

「アダムくん、お疲れ様。これから水質検査をするのでしょう? 私も一緒にお手伝いするわ」


 なるほど……手伝ってくれるらしい。こういう善意はありがたいので、一緒に作業を進めることにした。

 

「わかりました。まずは、気温と水温を測ります」


 そう言いながら、俺は温度計を取り出し、水面にそっと沈めた。透明な水がわずかに揺れ、波紋が広がる。


「気温は25度、水温は24度――ちょうどいいですね。それに、プールの水も透明で、変色していない。キレイと言う判断で……」


 俺の結果を聞いて、オウレン先生が頷きながら、手元の記録用紙にスラスラと書き込んでいたところ――。


「じゃあ入っていいー?! アタシ、泳ぎたいわ〜!」


 ケイが目を輝かせながら、水面を覗き込む。今にも飛び込みそうな勢いだ。


「ダメだ。まだ検査が終わっていない。準備体操でもして待って」


 俺がそう言うと、ケイは「えぇ〜」と大げさに肩を落とす。足をバタつかせながら、その場で軽くジャンプしてみせるあたり、本気で泳ぐ気満々だ。


 ……と、そこでふと気づいたことがある。


(……待てよ? そういえば、まだ誰も水着に着替えていないよな……)


 俺が疑問に思っていると、理事長先生が突然タブレットを開き、アンズたちにこう提案した。


「いいことを考えた――! アダムとオウレンが検査をしている間に、私たちは水着を選ぼう!」

「えっ?! 選んだらすぐに水着が出てくるんですか?」


 アンズが驚いた声を上げる。


「あぁ。私は吸血鬼族だからね。この『吸血鬼オンライン』っていう通販サイト、知ってる?」

「えっ? 初めて聞きました……」

「吸血鬼は血を吸うから、服が汚れやすいんだ。だから、すぐ着替えられるように、即時提供型のファッション通販があるのさ。選んだらすぐ衣装替えできるから、とっても便利でな。安心したまえ、君たちの分も用意できる!」

「……もしかして、アタシたちの血を吸うつもり?」


 キハダ理事長は自ら『吸血鬼族』だと名乗った――それはさておき、ケイは遠慮なくストレートな質問をぶつける。

 

「吸わないさ。女吸血鬼は基本、男の血を吸うものだからね。……あっ、アダム。君には興味ないから安心しろ」

「いや、そもそも吸われたくないんですけど……」


 俺が軽くツッコミを入れると、理事長はクスッと笑って話を変えた。


「オウレン、終わったら君も泳ごう?」

「いや……私は遠慮しておきます。それより、先にアンズちゃんとケイちゃんの水着を選んであげてください。私はアダムくんと仕事をするので」


 オウレン先生はやんわりと断りながら、俺の方を向いたため、気を取り直して、検査を再開することにした。

【※予告】次回、水着回予定です。

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