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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【定期テスト編】能ある元王族は爪を隠す ※アンズ視点

 私はアダムと一緒に、理事長室へ入る。すると、理事長先生は、私が試験中に魔法で出したハート型のハンバーグを、ラップに包んで大事そうに保管してくれたみたい。


(どうして、私のハンバーグが……!?)


 彼女は引き締まった表情をしながら、声をかけてくれた。


「あぁ、2人ともお疲れ様。アダム、これは先ほどアンズさんが作ったハンバーグだ。持って帰って、食べなさい」

「えっ、分かりました。それで、俺から話したいことが……」

「いや、アダム。私はこちらの彼女とお話ししたいんだ。申し訳ないけど、先に帰ってくれ」

「……分かりました。俺は、このハンバーグを受け取るだけって認識でいいですか?」

「あぁ。よろしく頼むよ」


 アダムは、ハンバーグの皿を手に持ったまま、一瞬固まった。眉間に皺を寄せ、何か言いたげに口を開きかける――が、結局何も言わずに、ゆっくりと理事長室を出て行った。


(そうだよね……。至急呼ばれて、私のハンバーグを渡されただけなんて!)


 私は理事長先生と2人になってしまう。

 理事長先生は何も言わず、ジーッと私を見つめている。なんだか、すごく気まずい……。だけど、先生はフッと微笑んでくれた。


「アンズさん。アダムとは幼馴染、それで合ってるかい? 彼、天然パーマだし、ちょっと鈍感そうだけど」

「えっ」


 唐突な天パ発言に思わず戸惑う。


(『天然パーマに悪い男はいない!』って、お父さんが豪語してたけど……)


 理事長先生の意図が読めず、私は首を傾げる。すると――。


「ふむ、分かった。まだ()()ではないってことだね?」

「えっ、そ、そんなぁ!」


 自分でも驚くくらい、声が裏返った。


(やばいっ! 今の私、タコみたいに顔が真っ赤っかかも!)

 

 『恋人』だなんて……。素敵な響きだけど、今のところ、私とアダムは、ただの()()()。……たぶん。


 慌ててそう伝えると、理事長先生は意味深な発言をする――。


「応援してるよ、私は。君のお父様は、かつてアダムと同じく()()だっただろう。でも、彼は魔法や法律の研究したいと望み、一族の反対を押し切って、降格した。君の家族の姿が見えなかったから、気になっていたんだ」

「あっ……。私だけじゃなくて、お父さんとお母さんも……今の生活に満足しています! 」


 思わず強めに言い切ってしまった。

 理事長先生は……私の家庭の事情について、知っていたんだ。確かに、彼女の言っていることは合っている。

 

 ――そう、私のお父さんは元王子様だった。

 でも、王族でいることも、貴族でいることも、自ら辞めた。あの閉鎖的な環境が嫌だったんだと思う。

 今は魔法学者として自由に研究をしながら、どこかの会社で働いている。共働きだから、家に両親がいないことも多かったけれど……。


 ふと、小さい頃の記憶がよみがえる。


『王族だったら、もっと自由にしてあげられたのかな……。ごめん、アンズ』


 仕事で忙しいお父さんが、私の頭を撫でながら、申し訳なさそうに呟いたことがあった。


(……そんなの、気にしてないのに)


 私はこの学校が楽しい。自由な生活も、家族のことも、大好きだ。

 だから、それでいいんだ――!

 そう思って、何も言わずに前を向いた。だけど、きっと私の表情がすべてを物語っている。


(――満足している、って)


 すると、理事長先生はふっと笑みをこぼし、ゆっくりと頷いた。


「そうかい。それは良かった」


 そして、瞳の奥底で、何かを思い出すように、静かに語り始めた。


「アダムのことは心配しなくていい。彼のおかげで、この学校にいい風が吹いているよ。面白い男だ。王子なのに、威張ることもなくてね。普通なら、王族の権力を使って王様になりたいとか、王女と結婚したいとか言うものだろう? でも彼は、ただ研究者として夢を叶えたいと言った。……いい男だよ」


(えっ……まさか!)


 理事長先生の口調が、なんだか温かい。もしかして――アダムのこと、めちゃくちゃ気に入ってる!?


 私は思わず理事長先生を見つめた。


(……あれ? もしかして、私、悲しい顔してる?)


 胸の奥がチクリとする。アダムのことを褒められるのは嬉しいはずなのに、なんだかモヤモヤして……。

 

「安心してくれ、私はアダムに興味はないよ。私には、別に気になる人物がいるからね。それと、アダムのことだけど……彼はアンズさんの試験前にテストを受けていたわけだから、赤点という判断にはならないよ。だから、安心しなさい」

「えっ、本当ですか?」

「本当さ。だから――彼のことを大切にしなさい」


 私は息をのむ。何気ない一言だったけど、理事長先生の言葉が嬉しかった。


「じゃあ、呼び出してすまなかったね。解散!」


 そう言って、理事長先生は軽く手を振り、私は理事長室を後にした。


(……理事長先生、意外と優しい先生でよかった〜!)


 正直、呼び出されたときは何を言われるのかとドキドキしていたけど、これなら大丈夫そうだ。


 でも、それ以上に驚いたのは、私の家庭事情を把握していたこと。


 父の代までは王族だった。

 でも家族からは「絶対に言わないほうがいい」と言われていて、ずっと隠してきた。

 それだけじゃない――従兄が特別科にいることも、私はまだ誰にも話していない。


(でも……今はまだ、そのタイミングじゃないよね?)


 いつか、実験部のみんなにはちゃんと話すつもり。だけど、それは「今」じゃない。


 自分の中で結論を出してから、アダムのいる部室へ戻ることにした。一応、理事長先生がどういう判断を下したのか、アダムにも伝えておく。


 アダムは「もうテストは終わったから、あとは採点を待つだけだしな……なんとかなれー」と言いながら、フラスコを手に取って実験を始めていた。


 ――そして、試験から数日が経過した。終礼前、担任でもある理事長先生が大きく告げる。


「テスト結果が出たから、一人ずつ成績表を配る――! まず、アダム!」


 アダムが呼ばれた。次は私の番だから、お互いの結果がわかるのは、席についてからになる。


 震える手で、自分の成績表を開いた――60点台ばかりだけど、赤点はなかった。魔法家庭学は61点!


(よかった……! 勉強は好きじゃないけど、頑張ったかも!)


 あとは――アダムの結果はどうだろう?

 

 アダムの方を振り向く。すると、彼は成績表を私に見せながら、落ち着いた声で言った。


「アンズ、大丈夫だ。問題ない」


 視線を落とすと――魔法家庭学、69点!


「アダム、良かった!」


 思わず、後ろにいるアダムの手をぎゅっと握ってしまった。


「えっ!」


 アダムは予想外だったのか、横を向いて照れくさそうにしている。その様子を、両隣の2人に見られていたらしい。


「アダムさん、アンズちゃん。2人とも良かったんだね!」


 サラがニコニコしながら、私たちを見つめる。


「サラの言う通りね。ふふっ、いいわね〜!」


 ケイちゃんはニヤニヤした笑みを浮かべている。


「ケイさん! 早く取りに来なさい――」と理事長先生の声が響き、ケイちゃんは「はーい!」と慌てて成績表を取りに行く。


「やったわ! アタシもアンズと同じで、魔法家庭学のテスト、61点だったわ! 実験部のみんなのおかげね!」

「良かった〜!」


 魔法家庭学で赤点のリスクが高かった私、アダム、ケイちゃんの3人だったけど、みんな無事に回避できて良かった……。


 ちなみに――サラとニコくんは高得点。特にサラの成績表に至っては、90点台後半から100点まで。1人だけ別次元の成績だった。


 定期テストが終わったので、来週からはいよいよ長期休み!

 私はバイトをしながら、音楽活動に励むつもりだったけど――その計画は見事に崩れ去った。


「以上で、全員に成績表を配った! ちなみに、70点未満の科目がある者は来週から10日間、その科目の補習があるぞ! 私もいる。是非、声をかけてくれ!」


「 「 「えぇ〜?!」 」 」


 私、アダム、ケイちゃんの3人で思わずハモってしまった。


(来週から補習だなんて……)


 せっかくの長期休みが補習で潰れるのはショックだけど、仲のいいお友達に大好きな人も一緒なら――それはそれで楽しもう! そうポジティブに、思うことにした。

<余談>アンズちゃんの作ったハンバーグは、アダムさんが完食しました★

次回から、新編になります!

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