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【定期テスト編】「みんなありがとう」「フン」「女神に感謝」「くっ。ルシャトリエに負けた…」「順当な試験ですね」

【※注意】今話のタイトルは『ボ⚫︎ボーボ・⚫︎ーボボ』が元ネタです。(⚫︎は同じ文字)

 とうとう定期テスト期間がやってきた。

 一夜漬けと怒涛の集中力で、魔法家庭学以外の科目は……全て乗り切った。

 体感的には、赤点はなさそうだ。だが、これだけははっきり言える。


(ただし魔法家庭学、テメーはダメだ)


 しかし、異世界転生したところで現実は無情。ついに、その時が来てしまった。


 魔法家庭学の試験は、実技形式で行われる。そして、転生前と変わらず五十音順。つまり――俺が最初だ。

 キハダ理事長に名前を呼ばれ、5人ずつ試験室に入る。アンズも同じ組だった。


「では、アダム。早速披露を」

「……わかりました」


 俺は、ここ2週間、部室で覚えた知識を昇華させるつもりで魔法を唱えた。メガネの両端をつまみ、イメージを膨らませる。


「女神様、ハンバーグを――!」


 唱えた瞬間――ふわりと光り、大根おろしとしそ、さらにトマトも添えられた和風ハンバーグが現れた。


(まさか本番で、ニボルさんが作ってくれたあのハンバーグを再現できるとは……)


「おぉ……これは面白い! 偉大なる先生――ニボルさんの知恵を取り入れたのだな!」とキハダ理事長が目を輝かせている。なんでニボルさんのハンバーグだと分かったのかは謎だが、うまくできたから良しとしよう。


「次……アンズさん」

「はい!」


 アンズは緊張しているのか、両手をぎこちなく前に出しながら、先生の前へ進む。そして、意を決して、魔法の言葉を唱えた。


「ハンバーグ・プロジェクト!」


 俺は、嫌な予感がした。その勘は当たり、目の前に現れたのは、まさかの()()()だった。


「えぇ!? どうしてぇ!」


 アンズは混乱してしまい、慌ててフライパンを覗き込む。キハダ理事長も、そんな彼女の様子が気になったのか、優しく声をかけた。


「アンズさん、あと2回チャンスがあるから、リラックスしてごらんなさい」

「わ、わかりました! ハンバーグ・プロジェクト……!」


 再び唱えてみたものの、次に現れたのは――中心部がまだ赤い、生焼けのハンバーグだった。これは……食べられなさそうだ。

 

「アンズさん、『計量』と『手順』でミスしているみたいだ。冷静に」とキハダ理事長が落ち着いた声で助言を送る。だが――肝心のアンズは、すでに冷静さを失っていた。


「どうしよう……あと1回しかないよ! ダメだ……私。せっかくこの学校に入学できたのに……」


(まずい……!)


 アンズの目が、まるでコマ(ベイブ⚫︎ード)のようにぐるぐると回っている。顔色も悪いし、このままではパニックに陥りかねない。それに、彼女の言葉が気になった。『この学校に、入学できたのに』か……。


(そうだ。俺がこの学校に入ったのは、アンズが誘ってくれたからだ)


 思い出す。5歳の時、魔法の存在すらも知らなかった俺に、彼女は一生懸命、魔法の基礎を教えてくれた。俺にとって、アンズは原点に近い存在――だからこそ、今度は俺が彼女を助ける番だ。


 試験中だから、下手に声を出せばカンニングと見なされ、赤点扱いになるかもしれない。でも、そんなことはどうでもいい。


(今、ここでアンズを救えるのは、俺だけなのだから)


「アンズ! 最初、俺に魔法を教えてくれた時のことを思い出せ!」


 思わず叫んだ。


「魔法を知らない俺に、どうすればいいのか、その杖で教えてくれただろう。アンズのおかげで、俺はこの学校に入れたんだ! だから――諦めるな!」


 息を整える間もなく、俺は彼女に話し続ける。


「それに……試験が終わったら、俺はアンズのハンバーグが食べたい! だから、頑張れ――!」


(しまった……。思いっきり気持ちをぶつけてしまった。試験中なのに……)


 だけど、アンズは俺の声を聞いて、目つきが変わった。さっきまでの不安げな表情はどこへやら。まるで、この前のコンサートで歌った時のように、瞳がキラキラと輝いている。


「アダム、ありがとう! キハダ理事長、アドバイスありがとうございます! 次は成功させます!」


 力強く宣言し、アンズは大きく深呼吸をした。


「ハンバーグ・プロジェクト――!」


 彼女は、歌うように、想いを込めて、杖をゆっくりと下に振ると――ハート型のハンバーグが現れた。


 熱々で、湯気が立ち上り、香ばしい匂いが広がる。見るからに美味しそうな、それは間違いなく、アンズが作りたかったハンバーグだった。

 

「アンズさん。よくやった」


 キハダ理事長が、落ち着いた声で彼女を褒める。

 試験を終えた俺たちは、他の3人の実技が終わるのを待ち、試験部屋を後にする。こうして、俺たち2人はなんとか試験を終えた……。いや、俺は試験中、アンズに声をかけてしまった。


(赤点になるかどうかは、キハダ理事長の判断次第か……)


 少し不安がよぎる。理事長は、あまり人の気持ちを察するタイプには見えないし……。


(これ、大丈夫か……?)


 そう考えた途端、俺はガックリと項垂れた。王位戦にエントリーして夢を叶えたいのに、ここでつまずくかもしれない。でも――不思議と、後悔はしていなかった。


 そんな俺の様子を見て、アンズがそっと近づいてくる。驚いたことに、彼女の頬には涙が伝っていた。


「アダム、ごめんなさい……!」


 震える声でそう言うと、アンズは悲しい顔をしながら、ぐっと自身の手を握る。


「私がミスを連発しちゃったから……本当にごめんなさい」

「いいよ。アンズがうまくできて、安心したから」


 俺がそう言うと、アンズはさらに泣き出してしまった。


(なんでだ……? 俺、慰めたつもりだったんだけど……)

 

「うわあーん! どうしよう……だって、アダムは王位戦に出たいっていう目標があるのに……。私のせいで!」


 アンズの涙が止まらない。周囲の学生たちも、そんな俺たちの様子をじっと見ている。


(これ、勘違いされそうだな……)


 そう思い、俺はアンズの手をそっと握った。すると、彼女もぎゅっと握り返してくれた。


(……ちょっと汗ばんでる。やっぱり試験の緊張もあったんだな)


「アンズ、とりあえず部室に行こう」


 彼女を落ち着かせるため、そっと促す。そして、部室に入ってすぐ、俺はアンズにぴったりな漢方茶を用意した。選んだのは『ケツメイシ茶』。目の充血にも効く、優しいお茶だ。


「できた。アンズ、これ飲んで。目にもいいし、落ち着くよ」


 アンズは涙を拭いながら、カップを受け取る。


「……うぅ。ありがとう。あっ、これ美味しいね」

「良かった。元気出して」


 穏やかな時間が流れる。しばらくすると、アンズがふっと顔を上げ、笑顔になった。


「でもね、定期テスト、全部終わったから、達成感でいっぱいかも! 私、勉強苦手だけど、今回は実験部のみんなに助けてもらえて良かった! 私は幸せ者だー!」


 その表情を見て、俺はホッとする。


(良かった……。泣き止んで……)


 安心していたのも束の間――突然、校内放送が鳴り響く。


『生徒のお呼び出しです。1-A組のアダム・クローナルさん及びアンズさん。至急、理事長室に来てください。繰り返します――至急、お呼び出しです』


 まさかの理事長からの直々のお呼び出し。でも、これはもしかして……こちらからお願いを聞いてもらうチャンスでは?


 俺はふと、前世の記憶を思い出す。大学で働いていた頃、学生から「留年危機なんです。点数を上げてください!」とか「この問題は廃問にしてくれませんか?」とか、都合のいい取引を持ちかけられたものだ。当時は「そんな虫のいい話があるか」と思っていたけど……今ならその気持ちが死ぬほどわかる。


(あっ、そういえば1回死んでるんだったわ。俺は女神様と契約して、異世界転生したから、2度目の人生を謳歌しているんですわ〜)


 そんなことを考えながら、俺は理事長にどう取引を持ちかけようかとワクワクしつつ、アンズと共に理事長室へ向かう。そんな俺の表情を見たアンズは、不安そうに首をかしげながら、こう言った。


「……アダム、情緒不安定になってない?」


 まかせろ。俺は情緒不安定どころか、冷静で平衡(へいこう)な研究者だ……。


(だって俺たちは一緒に移動している。まさに、平衡移動の法則! なんちゃって……)


 らしくないジョークを思い浮かべた時点で、俺も多少は動揺しているのかもしれない。でも、試験監督はキハダ理事長だったのだから……彼女を信じて、杞憂だと思うことにした――。

次回はアンズちゃん視点予定です!


<余談:ある日>

ニボルさん「アダムくん、ハジケリストなんだね?!」

アダム「違いますよ。めけめけめけめけめけめけめけ」

ニボルさん「うー……まじで!??うー……まじで!??」

アダム「嘘うそ嘘うそ嘘うそ嘘、ほんとはね?ほんとはね?」

オウレン先生(ダメだわ2人とも……。早くなんとかしないと……)

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