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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【定期テスト編】千日の魔法家庭学より一時の名匠

<今話の登場人物>実験部4名【アダム・アンズ・ケイ・サラ】とキハダ理事長です。

 俺はザダ校に入学し、アンズの歌声を聴く――その約束を果たした。


 次なる目標は、王位戦エントリーに向けた準備だ。そのために必要な書類として、成績表がある。

 さて、2週間後には定期テストが控えている。ここで60点未満を取ると赤点となり、王位戦へのエントリー資格を失ってしまう。


 自分で言うのもなんだが、転生前の俺は国家試験に合格した経験がある。だから理論的な科目なら問題なくこなせる自信がある。

 だが――魔法家庭学だけは別だ。あの科目は実技寄りで、どうしても苦手意識が抜けない。唯一、赤点のリスクがある教科だ。


(……やるしかないよなぁ)


 そう覚悟を決めて、部室で魔法家庭学の勉強をしていたはずなのに、いつの間にか実験を始めていた。

 

(そもそも、なんで俺が魔法家庭学なんか勉強しなきゃならないんだ? 料理できなくても、生きていけるし……)


 そんな屁理屈をこねながら、結局何も勉強せずに過ごしてしまった。

 しかし、翌日の授業で――。


「アダム! 考えすぎて手が止まってるぞ? 実技試験では、実際に手を動かすことが大事だ。要注意だな〜」


 キハダ理事長の鋭い指摘に、思わず肩をすくめる。そのまま理事長はアンズとケイのところへ向かい、彼女たちの様子を見て、ポツリとつぶやいた。


「2人とも、勘に頼りすぎて、失敗しているのかもしれないな……」


 自分と彼女たちの状況を見て、「はぁ……」と俺は思わず、溜め息が漏れる。その声を聞いたサラが、軽く俺の肩を叩きながら笑う。


「理事長先生の言う通り、考えるよりやってみた方が早いよ!」


(そうは言っても……)


 俺はサラを横目で見ながら、内心ぼやく。

 彼女……普段はいきなり剣術部や実験部に顔を出したり、突然ウサギのグッズを買いに行ったりと、ノリで生きているけど――学業の実力は本物だ。さらに、実技の才能まであると。持っている素質が違うんだよな……。


 そんなことを考えていたら、ますます勉強する気が失せてきた。

 この状況がまずいのは分かっている。でも、現実逃避に実験でもしてみるか〜。


 だが、終礼の鐘が鳴ってすぐ――アンズが勢いよく俺とサラの席の間に割り込んできた。


「サラ〜! これじゃあ、私とアダム、それにケイちゃんの3人、赤点になっちゃうかも。助けて〜!」


 そう言って、アンズはサラの手をギュッと握る。

 すると、サラの目がキラリと光った。何か、いい考えが浮かんだようだ。

 

「じゃあ、みんなで魔法家庭学の勉強会をしよう!」


 サラの提案で、俺たち3人は、彼女から実技指導を受けることになった。



 放課後――部室にて。


「実技試験では、ハンバーグを作るのが課題になっているけど、どうやって作るか想像できそう?」


 キハダ理事長と違って、サラの質問の仕方は柔らかく、とても優しい。だけど、ケイは考えるよりも先に答えようとしていた。


「なんとなくわかるわ。それに、どうにかなるっしょ! だって、アタシは――」とそこで、アンズが勢いよく遮る。

 

「サラ! 私、レシピの暗記は苦手なんだけど、バイトでカフェラテを作れるから、実技を積めば、なんとかできそう!」


 彼女たちは、ワイワイ盛り上がりながら、さっそく実技の練習に取りかかっていた。


 その間――俺はハンバーグについて、科学的根拠を求めていた。


(そもそもハンバーグって、低温調理だと食中毒のリスクが上がるよな。でも、弱火で焼く……。その時、フライパンに蓋をするけど、あれって内部まで火を通すためだろうなぁ〜)


「アダム、話聞いてるー? って、あれ……また考え事してるね?」

「本当だね……こういう時のアダムさんは、自分の世界に入り込んじゃうから、戻れないんだよ!」

「あなたたち、気を遣い過ぎよ……。アダム、そこまで深く考えなくていいわ!」


 そう言うなり、ケイが俺の背中をバシン! と叩いた。思わず前のめりになってしまい、現実に引き戻される。


「痛いんだが……。それに俺は今、ハンバーグについて、科学的に解明していたから」

「それでさっき、キハダ理事長に注意されてたじゃない?」

「いや、行動する前に、頭の中で考えることが必要だ。知らないのか?」

「違うわ! まずは行動でしょう?! って、論点がズレてるじゃない!」


 ――しまった。

 また、ケイと言い争いになりそうな雰囲気だったが、その時、講師ポジションのサラが的確な指示を出してくれた。


「アダムさん、いいアイデアがあるんだ!」


 サラがパッと顔を輝かせた。


「ハンバーグの作り方をフローチャートにできない?」


(フローチャートか!)


 確かに、それなら視覚的に分かりやすいし、一目で手順が頭に入る。

 しかも、研究活動で何度も作った経験がある俺にとって、作成すること自体、お茶の子さいさいだ。


「できる」


 即答すると、サラが満足そうに喜ぶ。


「了解! それが完成したら、アダムさんの知りたい科学的根拠も横に書いてみたら?」

「わかった、やってみる」


(なるほど……科学的に考えれば、魔法家庭学も攻略できるって発想か……)


 彼女の名案により、俺はさっそくレシピを書き殴ることにした。


 一方、アンズとケイには、「2人とも慣れれば絶対できるよ! まずは体で覚えちゃおう!」と声をかけ、楽しみながら魔法家庭学の実技を指導していた。


 後片付けのときには、「料理とか試験って、苦手って思うと取っ付きにくいんだよね。でも、好きなことに置き換えて考えたら、案外楽しくなるよ!」とポジティブな言葉で締めくくり、皆のやる気を引き出していた。

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