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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【バイトSOS編】やらない善よりやる良善 ※アンズ視点

【※注意】主人公(アダム)ではなく、アンズちゃん視点です。

 私は、副店長のシンイさんと2人で、この数日間――短時間営業でなんとか乗り切ろうと奮闘していた。

 今日は日曜日。今日も無事にバイトが終わったけど、疲労が溜まっていた。シンイさんも、私以上に消耗しているみたいだ。


「はぁ……やっぱり短時間営業だと売上がガクッと落ちちゃうよね〜。何か明るく元気になれる方法、ないかなぁ……?」


 シンイさんが、椅子に背中を預けながら、ポツリと愚痴をこぼす。その声には、疲れと焦りがにじんでいた。


(確かに……このままじゃお客さんも満足できないし、お店だって持たない。もっと回転率を上げる工夫をしなくちゃ……)


 ふと、いいアイデアが浮かんだ!


「シンイさん! 私、ちょっといいアイデアがあります!」


 勢いで提案したアイデアに、シンイさんは目を輝かせた。


「それって最高じゃない?! やってみよー!」


 シンイさんの嬉しそうな反応に、私もテンションが上がってきた。


「じゃあ、早速準備を始めます!」


 そうして決まったイベントの準備。バイトが終わった後、私は軽音部の部室に戻って練習を重ねたり、企画を詰めたりと忙しい日々を送っていた。


(大変だけど、私は多くの人を笑顔にしたいの。そのためなら、思いっきり頑張れる――!)


 そう自分に言い聞かせながら、私は目の前の作業に没頭した。


 しかし、その情熱が空回りしていたのかもしれない。

 週の真ん中、水曜日の朝。目が覚めた瞬間、全身がだるくて動けない――。


「……熱、出てる?」


 額に手を当てたら、体温が異常に熱くなっていることに気づいた……過労で体が悲鳴を上げていたのだ。


(どうしよう?! でも、授業を受けて、バイトには行かないと!)


 無理やり気を奮い立たせて、急いで着替えようとした。


 しかし、ベッドから立ち上がった瞬間――体がぐらりと揺れた。


(だめだ……。フラフラする……転んでしまいそう――)


 視界がぼやけ、力が抜けていくのを感じた。


「あっ……!」


 床に倒れると思ったその瞬間――後ろからしっかりとケイちゃんが支えてくれた。


「アンズ、大丈夫!?」


 同室のケイちゃんの声が、私の耳に飛び込んでくる。


「ケイちゃん……ごめん、私……」


 声がかすれる。迷惑を掛けたという申し訳なさで、胸が締め付けられる。


「いいから気にしないで! あなた、顔が真っ赤よ? 絶対に熱が出てるわ!」


 ケイちゃんは慌てた様子で、私を支えながらそう言った。


「とりあえず、保健室医のオウレン先生に診てもらいましょう。歩ける?」

「……うん、ありがとう……」


 どうしても足元がふらついてしまう私を、ケイちゃんはしっかりと支えてくれた。二人でゆっくり、保健室へ向かう道中、ケイちゃんの温かい手が、なんだかとても心強かった。


「失礼しまーす! オウレン先生、すみません。アンズが高熱を出しちゃって……!」


 ケイちゃんは私を支えたまま、保健室の扉を押し開けた。


「あら、本当に顔が真っ赤ね。辛いでしょう? 解熱剤があるけど、飲む?」


 オウレン先生の優しい声に、少しホッとする。


「はい、飲みます。でも、その後は授業に出て……バイトにも行きます!」


 言葉に力を込める私を見て、オウレン先生とケイちゃんは驚いたように顔を見合わせた。


(私が行かないと、シンイさんが一人になっちゃう! それだけは避けたい……)


 私の必死な気持ちに、ケイちゃんが静かに口を開いた。


「アンズ。あなたは『自分が行かなきゃ』って思っているかもしれない。でもね、バイト先の人員はなんとかなるわ。お店は大丈夫よ」


 優しく、だけどどこか厳しさも込めた声が私の心に響く。


「だけど、アンズ。あなた自身はたった一人しかいないの。自分を大切にしなかったら――本当に守るべきものすら、守れなくなってしまうわ」


 ケイちゃんの言葉に、何かが崩れ落ちた。


「うぅ……」


 気づけば、目にじわりと涙が溜まっていた。私は焦っていた。自分一人で全部抱え込んで、『なんとかしなきゃ』って思い込んでたんだ……。そんな私に、ケイちゃんがそっと手を置いた。


「アンズ、みんなで支え合えばいいのよ? 私だって、助けてあげたいんだから!」


 私は堪えきれず、涙が一粒こぼれた。その様子を見て、オウレン先生も静かに口を開く。


「頑張りすぎちゃったのね……アンズちゃん。でも、ケイちゃんの言う通りよ。今週は無理せず、しっかり休むことが大事だわ」

「そうよ〜! それに、今度の休日には、カフェでコンサートがあるんでしょ? だったら、なおさら今は体力を温存しなきゃ!」


 ケイちゃんは得意げに私を指さし、力強く言い切ると、さらに続けた。


「わかったわね? アタシに任せて! あとはなんとかするから!」


 そう宣言すると、突然胸を張り、声を張り上げる。


「私は第4王女、ケイ・クマリーよ! 人員確保くらいお手の物なんだから!」


 その堂々とした宣言を最後に、ケイちゃんは勢いよく保健室を飛び出していった。その背中はまるで猪のように一直線だった。


(……ケイちゃん、本当にすごいなぁ)

 

 ――保健室に静けさが戻る。


「良い友達ね、アンズちゃん。今は無理せず甘えてもいいのよ?」


 オウレン先生は穏やかな笑顔を浮かべながら、私の看病を続けてくれることになった。

 申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになる。


「先生、私、自分の部屋に戻れます……」


 弱々しくそう告げると、オウレン先生は首を横に振って微笑んだ。


「いいのよ。ケイちゃんが戻るまで、ここでゆっくりしていなさい。バイトのことは忘れて、身体を休めることが一番大切よ。おやすみなさい――」


 先生はそっと私の額に手を置き、その後、布団越しに優しく、背中をトントンしてくれた。

 その優しいリズムに安心感が広がる。体だけでなく、心もほどけていくような感覚に包まれて、気づけば私は、深い眠りへと誘われていた。

 

「すみません……オウレン先生」

「大丈夫よ。サラちゃんも小さい頃は、よく熱を出してうなされていたのよ……。そういうときは、遠慮せず大人に甘えていいの」


 オウレン先生の優しい声と手のぬくもりに包まれて、私はそのまま眠りに落ちてしまった。


 その日は保健室でしっかり休んだあと、自室に戻ってさらに身体を休めた。

 けれど、翌朝になっても熱は下がらず、学校とバイトを休むことに……。


 それでも、放課後になる頃にはようやく熱が引いてきた。

 私は借りていた氷枕を返すため、保健室へ向かう。


「オウレン先生、放課後にすみません。氷枕を返しに来ました……」


 扉を開けてそう声をかけると――。


「アンズちゃん! 元気になったの? オーちゃんは今、理事長先生のところに行ってるよ〜」


 そこにいたのは、なんとサラだった!

 

(そういえば昨日、ケイちゃんが言ってた! サラもカフェのお手伝いに行ってくれたけど……シンイさんの弟さんに女の子だと思われて、初対面でいきなり告白されちゃったって――!)


「サラ! 昨日はお手伝いに行ってくれてありがとう。ケイちゃんから聞いたよ」

「大丈夫だよー。楽しんでやらせてもらったし、全然平気!」


 サラは笑顔でそう答えたあと、軽やかに続ける。


「今日はね、ケイちゃんとクラスメイトの双子が手伝いに行ってくれてるんだよ!」

「へぇ、双子? 部活が一緒なんだっけ?」

「うん! バイトやってみたいって言ってたから、すごく喜んでたよ!」


 つい話が盛り上がってしまったけれど、ふと気になることがあった。

 

(そもそも、なぜサラが保健室にいるんだろう?)


 私は軽く首をかしげながら、問いかけた。


「それにしても……どうしてサラがここにいるの?」

 

 キョトンとした顔をしたサラが、小声で口を開いた。


「ぼく……その、実は……生理前って体調が悪くて……」


 彼女は恥ずかしそうに正直すぎる理由を話してくれた。頬がうっすら桃色に染まっている。その言葉に、私は思わず納得してしまった。確かに、男装している彼女にとって男子寮では言いにくい相談かもしれない。


「そっか……キツイよね。サラ、大丈夫?」


 私が気遣いながらそう言うと、彼女は少し戸惑ったように目を伏せた。


「……うん。でも、男性陣にはこんなこと相談できないし……」


 その言葉に、私は笑顔を浮かべて応えた。


「サラ、遠慮しないで。もし辛いことがあったら、私に相談してね? 医療のことは詳しくないけど、気持ちの問題とかならちゃんと聞くから!」


 その言葉に、サラが目を見開いて顔を上げた。


「本当に……? いいの……?」

「もちろん。だって友達でしょう?」


 サラの目がみるみるうちに輝きを帯びていく。そして、少しだけ泣きそうな声で言った。


「……ありがとう、アンズちゃん」


 感動しているのが伝わる。そんな彼女の姿に、私はつい『かわいいなぁ』って思ってしまった。


「ところでアンズちゃん! 今週土曜日にカフェでコンサートやるんでしょう? アダムさんを誘わないの? アンズちゃんの歌声を聴きたいって言ってたよ?」


 サラがいたずらっぽい笑みを浮かべながら言った瞬間、胸がドキッとした。


(えっ……アダム、そんなこと言ってたの?)


 どうしよう――今度は私のほっぺたがピンクになっちゃった。サラの視線に気づき、私は思わず顔を背けた。


「えへへ……悩んでて……恥ずかしいから」


 小さな声で答える私に、サラが優しく微笑む。


「大丈夫だよ。アダムさんって、ちょっと鈍感なところがあるから……誘ってみてもいいと思うよ。絶対、喜ぶはず!」

「本当に……?」

「うん!」


 サラが力強く頷くのを見て、私は少しだけ勇気が湧いてきた。確かに恥ずかしいけど……私は彼と約束をしていた。


 あの時、10歳の私に向けられた優しい言葉――。


『また会おう――あとその時に歌声を聴かせてくれるか?』って。


 私はサラに深くお礼を言った。


「ありがとう! この後、アダムに電話してみるね!」

「この氷枕は、ぼくの方からオーちゃんに渡しておくよ!」

「えっ? いいの?」

「善は急げっていうし! やらない善よりやる良善だよー!」


(……()善? それって偽善のことだよね!?)


 思わずツッコミたくなったけど、今はそんな余裕もない。


「わかった! じゃあ、行くね!」

「うん! 頑張れー!」


 まるでサラが背中を押してくれてるみたい――でも彼女と話して、体が軽くなった私は一目散に自室へ向かった。


(よし、決めた! 部屋に戻ったら、絶対アダムに電話しよう!)

サラ(お願い、神様! アンズちゃんとアダムさんの恋愛がうまくいきますように......!)

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