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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【バイトSOS編】事は密を以てなり、語は前世を以て敗る

 俺は信じられない思いで、オオバコさんの言葉を繰り返す。


 シアンさん――彼はこれまで何度か助けてくれた、礼儀正しい男だ。そんな彼が、あの恐ろしい【魔女狩り】を引き起こした前王の血を引いているなんて……。


「シアンさんが……前王の孫だったなんて、考えたこともありませんでした……」


 オオバコさんは険しい表情を浮かべている。


「シアン本人に罪があるわけじゃない。でも、彼の存在自体がいろんな種族にとって複雑なんだよ。特に、この国においてはね……」


 俺の脳内で、1つの疑念が芽生えた。

 シアンさんは本当にただの研究取扱者なのか――それとも、この血筋を背負い、何かを成し遂げようとしているのか。


「彼には気をつけて、アダム。悪魔族の中で『中立派』なんて謳っているけど、彼の内面は恐ろしいよ」


『中立派』――初めて聞く言葉が耳に引っかかる。


「中立派? それって、カレーでいうところの甘口派、中辛派、辛口派みたいなものですか?」


 思わず出た『カレー』というキーワードに、オオバコさんはぽかんとした顔で俺を見た。


「カレーで例えるとは……! ()()本当にニボルさん家で育ったんだな。面白すぎる!」


 彼女は吹き出すように笑っていたが、やがて真剣な表情に戻った。


「実際、悪魔族には『過激派』『中立派』『穏健派』の3つの派閥があるんだよ。今の国王様は『穏健派』だけどね」


(なるほど……政党みたいなものなのだろうか?)


 派閥があるという話は納得できる。だが、それならシアンさんが『中立派』を名乗る理由にも、何かしらの策略があるのではないか――そんな疑念が拭えなかった。


 この話を聞いた以上、彼ら悪魔族に当てはまりそうな動きについて、早速確認することにした。


「へぇ。ちなみに、第9王子や第11王子は『過激派』ですよね?」

「御名答。分かりやすいだろう?」

「ええ、かなり。ですが、『中立派』というと、どちらかといえば無害そうな印象ですが……」

「そうだね。名前だけ見ればそう思うかもしれない。でも、シアンは前王の血を継いでいる。その上、『穏健派』や天使族の革命を、彼は根本的に嫌っている。だから、私みたいな女であり、革命を起こそうとしている天使族なんて特に――彼からすれば目障りな存在さ」


 オオバコさんの顔には、一瞬バツの悪そうな表情が浮かんでいた。


(だけど、シアンさんはオオバコさんのことを嫌っているようには見えなかった。むしろ――何か別の感情を抱いているような……?)


 オオバコさんが語る「彼」と、俺が知るシアンさんとの間に微妙なズレがある。

 もしかして、シアンさんには、俺たちがまだ知らない別の目的が……?


「うーん。そうなんですか? そんな感じには見えませんでしたけど」

「お互い、大人だからね。表面上は誤魔化してるんだよ。でも彼、私がこの世界でバイクや車、電車の開発を進めたことを、心底嫌がってたみたいでね」

「それは……少し研究者らしくない考えですね。変化を恐れるなんて」

「彼はね、自分の目が届かないところで物事が変化することを極端に嫌うんだ。特に、“弱者”――人間や女性、子どもが力を持つことを、心の底から恐れているんだと思うよ」


 オオバコさんは、一瞬だけ視線を落とし、低い声で続けた。


「脅すつもりはないけど……君が“人間”で、しかも元女性研究者の異世界転生者だってことが彼に知られたら――命を狙われる覚悟はしておいた方がいい」


 オオバコさんのその表情には、いつもの軽さは微塵もなく、冷たい現実だけが宿っていた。

 

 けれど――俺だって、この世界でやり遂げたいことがまだある。ここで立ち止まるわけにはいかない。


「肝に銘じておきますよ。まだ死ぬつもりはありませんから」

「そうだよ。君には夢や目標があるんだろう?」

「ええ、研究所の設立と結婚ですかね」


 俺の即答に、オオバコさんは一瞬驚き、それから微笑んだ。


「へえ、君らしい目標だね。でも、結婚か……ずいぶん具体的じゃない?」

「失礼な。俺だって、そのうちそういうイベントが起きるかもしれないですよ」

「ふふ、そうだね。じゃあ、そろそろ戻ろうか。今日話したことは、私と君だけの秘密だよ――永遠にね」

「エターナルってことですね。オオバコさん、なんだか厨二っぽいですけど」


 少し皮肉を込めたつもりだったが――。


「アダム〜! 異世界転生者で頭がいいのは知ってるけど、イジっていいこととダメなことがあるんだからね!」


 そう言いながら、オオバコさんが俺の頬っぺたを引っ張る。その力加減が絶妙で、思わず反射的に返事をする。


「ふぁーい! 痛いですってば!」

「よろしい! じゃあ寝よー!」


 そう言い残し、オオバコさんはなぜか猛ダッシュで俺の家へ戻っていった。


(はぁ……なんだかんだで、彼女には振り回されっぱなしだな〜)


 ふと、10歳の頃のことを思い出す。この倉庫でサラとこっそり秘密を共有したことがあったっけ……。懐かしい記憶に浸りながら、俺も家へ戻ることにした。


 リビングで寝てもらう準備を整えた後、俺は自室に戻った。寝る前に窓を開けると、外には満天の星空が広がっていた。


(本当に綺麗だ……。オオバコさんの言葉や知恵、これからも大切に吸収していかないとな)


 夜風がひんやりと頬を撫でる中、星々の輝きを眺めながら、ここ数日間の出来事を思い返す。オオバコさんとの会話だけでなく、彼女の鋭い洞察力、そして時折見せる茶目っ気のある笑顔――どれも心に深く刻まれていた。


 静かに目を閉じ、心の中で感謝を抱きながら、俺は眠りについた。

次回はアンズちゃん視点回です!

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