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【バイトSOS編】異世界引退?〜楽しい仲間が舟中敵国〜

【※注意】一部、残酷な描写及び旬ネタ描写あり

 俺は珍しく、動揺していた。

 どう返事をすればいいのか、全く見当がつかない。


(こういう『バレちゃいけない』ことを突かれたとき、前世の世界なら即謝罪会見か引退発表だったよな……)


 そんな妙な考えに囚われた俺は、咄嗟にジョークで切り抜けることにした。


「……あの、これから謝罪会見でもやりますか? 『私、アダム・クローナルは本日をもって研究活動を引退いたします』――なんて」


 オオバコさんの反応を伺いながら、内心で冷や汗をかいている。


(今ので、変な空気にならないといいけど……)


 彼女は一瞬目を丸くした。そして、次の瞬間には声をあげて大笑いし始めた。


「君、やっぱりぶっ飛んでるわー! 本気でそんなこと考えてたの?!」


 その明るい笑い声が、不思議と俺の緊張を和らげてくれる。

 彼女の笑顔を見ていると、こちらまでつられて笑いたくなるほどだった。


「いや、さすがに冗談ですよ。でも、本当に……どうしてわかったんですか? 俺が異世界転生者だってことを――」


 オオバコさんは一転、妖艶な笑みを浮かべ、低い声で静かに答えた。


「ふふふ……。実はね、()()()()異世界転生者であるニボルさんから、『絶対に見たらダメだよ』って釘を刺されてたんだけど……私、君のバイクを直してる時に、つい見ちゃった。資格証の束をね。その証明書には、君の名前がばっちり載ってたわけ」

「……なるほど。つまり、ニボルさんに忠告されてたのに、見ちゃったわけですね……」


 俺は溜息をつきながらも、少し肩の力を抜いた。どうやら隠し事をしているのは俺だけじゃなかったらしい。


(でも、オオバコさん……俺とニボルさんが異世界転生者だって最初から知ってたのか。だからあの時、『この世界』なんて言葉をわざわざ使い分けてたのか……。腑に落ちるな)


「それにしても、君、どうやってこの世界に来たわけ? 流れ星を見て、願い事でもしたの?」


 オオバコさんが茶化すように言う。確かに、普通はそういうロマンチックな方法を想像するだろう。でも俺の場合は違う――全然違う。


 オオバコさんがこの話を信じるかどうかは分からない。だけど、嘘をつく必要もないだろう。


「いえ……流れ星じゃありません。正直、もっと理不尽な形でした」


 俺は静かに答えた。彼女の表情が一転、真剣になる。


「……異世界転生専門の女神様と契約したんですよ」

「へぇ。その女神様とはどういうやりとりを?」


 彼女は驚く訳でもなく、興味深そうに問いかけてきた。その姿を見ていると、不思議と話しやすく感じられる。


 あれは今から15年前……だったか? たった一度きりの出会い。あの時の彼女の声や表情は、もうぼんやりとしか覚えていない。でも、記憶の奥底にしまい込まれたその瞬間が、頭の中でゆっくりと再生されていく。

 

 目の前に現れた女神様は、穏やかな笑みを浮かべていたような気がする。


『新しい世界で、あなたの夢や目標を貫き通してほしい――』


 そんな言葉を……確か、彼女はそう言った。


「えっと……そうだ! 『新しい世界で()()()()()として生き、あなたの夢や目標を貫き通してほしい』って言われました」


 言葉にした瞬間、当時の記憶が鮮明に蘇る。自分でも驚くほど、細かいところまで思い出せた。


「面白い女神様だね!」


 オオバコさんは目を輝かせ、楽しそうに笑った。そして一呼吸置いてから、少し真剣な表情を浮かべた。


「そっか、君――前の世界では女性だったんでしょう?」

「ええ、そうです」


 その答えに、彼女は小さく頷くと、少し考え込むような仕草を見せた。


「まるで、その女神様はこの世界が女性には生きづらいって知ってたみたいだね。だから、君を男性にさせたのかもしれない」

「……なるほど」


 その仮説は面白い。確かに、女神様はこの世界でかつて生きていたみたいだし、何より詳しそうだった……。


「ちなみにニボルさんとアダムがいた世界の種族って、人間しかいないの?」


(すごい……この人、どこまで理解してるんだ? 頭が良すぎるだろう……!)


「よく分かりましたね。はい、人間しかいないです。あっ、そういえば今回の食中毒案件も、非発症者の父親を含めて全員人間でしたね……。この世界でも人間って、多い方なのでは?」


 少しごまかすように答えると、オオバコさんは楽しそうに笑みを浮かべていた。


「そうだね。一番多いのは悪魔族だけどね。『人間は弱い種族だ』って、主に悪魔族がそう思い込んでるみたいだけど、私は人間が好きだよ」


 そう言いながら、彼女はふと目を細めた。その視線の先には、まるで何か懐かしい風景が浮かんでいるかのようだった。


「だって。バイクだけじゃなくて、車や電車も、人間が開発してきたでしょう? あんなにも複雑かつ便利なものを作れるなんて、本当に素晴らしい――!」


 彼女の声には、心からの賛美が込められていた。

 

「特にニボルさんみたいな人……。料理もできて、手先も器用でさ。すごい才能を持ってるのに、謙虚なんだよね。正直、宝の持ち腐れだと思うくらい。だからこそ、私は、もっと人間の良さをこの世界で広めたいって思ってるんだ」


 彼女の語る『人間讃歌(の良さ)』に圧倒されつつ、ふと話題が切り替わった。


「ところでアダム。君、この国の正式名称、分かる?」


 突然の質問に少し戸惑ったが、心当たりがあった。そういえば、アンズと初めて図書館に行ったとき、どこかで見た気がする。


「なんでしたっけ……。幼少期に図書館で読んだのですが、ド忘れしてしまいました」


 正直に答えると、オオバコさんは肩をすくめて笑った。


「君って、本当に研究以外には興味がないんだね。『新生ナイテイ王国』っていうんだよ」

新生(しんせい)……」


 その言葉に思わず反応すると、オオバコさんは目を輝かせた。


「さすが、いい着眼点だね。元々はただの『ナイテイ王国』だったんだ。でも、そのナイテイ王国時代の終末期に、【魔女狩り】っていう悲惨な事件があったんだよ」


 きた、魔女狩り。この世界で欠かせないキーワード――。


「あぁ。魔女狩りですか。それ、俺のかつて生きていた世界線でも聞いたことがあります。弱者は狩られる、そういう出来事として……」


 そう言うと、オオバコさんは少し険しい表情を浮かべながら答えた。


「キーワードは同じかもしれないけど、この国での魔女狩りは少し事情が違うんだ。これは前王が行った奇策のことを指しているんだよ。彼はね、研究者だった。そして――」


 オオバコさんの声が一瞬低くなる。


「女性の生殖機能を対象に実験を繰り返していたんだ。子孫を反映させるために、より優れた女性を手に入れたい……。まさに悪魔族らしい考え方だよ。反吐が出そうだ」


(確かに強烈なエピソードだ。オウレン先生が男性嫌いになるのも無理はない……。だけど、これって悪魔族だけの話じゃなかったのか?)


 疑問に思ったことをそのまま口にする。


「前王が悪魔族の王ということなら、それは悪魔族だけの問題ですよね? 他の種族には関係なかったのでは?」


 すると、オオバコさんは首を横に振った。


「いや、関係なくはなかったんだ。彼らが最終的に目指していたのは、天使族の繁栄だったのさ。天使族の子孫を増やすためにね。でも天使族は元々母数が少ない。それで、天使族以外の種族――人間やエルフも含めて――女性を大量に集め、人体実験を始めたんだよ」

「……人体実験ですか?」

「そう。繁殖機能が高い母体については、天使族の回復魔法で無理やり体力を戻して、何度も何度も実験を繰り返した……。恐ろしい話だよ。そういった経緯もあって、研究取扱者という資格が作られたんだよ。倫理的なルールを守るためにね」


 なかなかエグい話だ。耳を傾けながら、ふと新たな疑問が湧いた。


「じゃあ、その前王様はそんな大罪を犯したのなら、処刑されたんですよね? その人の思想を継ぎそうな人たちは?」

「そうだね。前王とその息子は処刑されたよ。でも孫は生きている。そして、今回私は君に話しておこうと思う。彼について――」

「えっ。もしかして、そのお孫さんって……俺たちの知っている人物なんですか?」

「もちろん。彼は研究取扱者の資格を持っている――第5王子、シアン・デーモン。あの前王の血を継ぐ悪魔族の男だ」


 その名前を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。


(マジか……。あのシアンさんのおじいさんが、元凶だなんて……)

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