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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【バイトSOS編】新担任の調理エンターテインメント! 1-A組の魔法家庭学

【※注意】飯テロ回です!

 あの審議会が終わり、俺は無罪だと正式に証明された。

 一方、第9王子と第11王子の担任は、3か月間の謹慎処分を受けることになったらしい。


(3か月って……意外と軽い気もするけど、これで平和な日常が戻るなら、まあいいかぁ)


 そう心の中で呟きながら、学生の身である俺は、今日もいつも通り寮を出て学校へ向かった。


 しかし、担任が謹慎処分になったということは――これから誰が俺たちのクラスを受け持つのだろうか?


 この話題は、うちのクラスで瞬く間に広まり、まるで火がついたようにざわついていた。


「次の担任って誰なんだろうな?」

「やっぱり代役っていえば、あのオウレン先生じゃない?」

「いやいや、学校医は忙しいんじゃないか……」


 周囲の会話を聞きながら、俺は心の中で少しだけ不安を覚えていた。新しい担任がどんな人物かによって、これからの学生生活も大きく変わるかもしれない。


(平凡な日々が戻るどころか、波乱の予感しかしないんだけど……)


 ガヤガヤと騒がしい教室の空気を切り裂くように、教室の扉が勢いよく開いた。

 入ってきたのは――キハダ理事長だった。


「みんな、おはよう!」


 教室中の視線が一斉に彼女へ向けられる。おそらく誰も、理事長自らが現れるなんて想像していなかったのだろう。


「ホルム先生は悪いことをしたから、今日から私が代わりに担任をすることになったッ!」


 なんという馬鹿正直な物言いだろうか。理事長の言葉に教室が一瞬静まり返るも、すぐにざわめきが再開する。


(理事長が担任……? そんなことってアリなのか?)


 そんな生徒たちの戸惑いをよそに、キハダ理事長は大きな声で続けた。


「みんなよろしくなッ! さて、早速だが、私の得意科目は魔法家庭学だ。全員、調理室に移動するぞー!」


 彼女の明るく響き渡る声は、教室の天井まで弾けるようだった。その勢いに圧倒され、生徒たちはしぶしぶ荷物をまとめ、調理室へと向かう準備を始めた。


 調理室に移動すると、キハダ理事長は勢いよく振り返り、両手を広げて宣言した。


「さて、諸君! 突然の告白ですまないが、実は私はカレー作りが大好きだ! そこで今日は、君たちにも魔法でカレーを作ってもらう!」


 その瞬間、調理室全体がざわついた。


「カレー……?」

「魔法で作るってどういうこと?」


 理事長のエネルギッシュな言葉が調理室にも響き渡る中、俺は内心で深くため息をついた。


(魔法家庭学でカレー作り……よりによって料理か。俺の苦手な分野だな)


 理由は簡単だ。俺は昔から料理がどうにも苦手だったのだ。包丁を持つときも、食材を扱うときも、どうしても不器用さが目立ってしまう。

 

 だが、理事長は朝から元気よく発言を続ける。


「カレーはな、魔法で調理技術を学ぶにはうってつけの料理だ! 材料選びや味付け次第で、作る人の個性が色濃く出るからな! 自由に作ってみたまえ!」


(朝っぱらからテンション高すぎるだろ……)


 そんな理事長のハイテンションに呆れながらも、生徒たちは仕方なく、それぞれ魔法を使って調理を始めていった。


 調理――サラは得意そうだけど、他の実験部メンバーはどうだろうか。そんなことを考えながら、俺は自分の作業に取り掛かったが、少しだけ、彼女らの動きに興味が湧いてしまう。


 アンズは早速サラにスパイスの使い方を尋ねていた。丁寧に教えてもらった後、「ありがとう!」と満面の笑みを浮かべ、「スパイスをいっぱい入れたほうがおいしくなるよねー! カレー・プロジェクト!」と勢いよく魔法を唱えた。


 しかし、次の瞬間――。


「えっ……なんでこんなに黒いの? 魔法ミスったかも?!」


 目の前には、暗黒物質(ダークマター)――いや違う。どす黒く焦げたカレーが現れていた。


(いや、魔法を唱える前にスパイスを山ほどぶち込んでたのが原因だと思う……)


 一方、ケイはというと、豪快な性格が如実に現れていた。水分を大量に加えたせいで、鍋の中のカレーはシャバシャバのスープになっている。


「スープみたいなカレーもありでしょ! カレーは飲み物って言うし!」


 開き直ったように言い訳を炸裂(さくれつ)させるケイ。彼女らしいと言えば彼女らしい。


 サラはいつの間にか魔法を唱えていたようだ。ウサギの形をしたご飯の上に、カレーをかわいらしく盛り付けている。まるで絵本の中の一皿のような仕上がりだ。その光景を見て、近くにいた双子の男子生徒が、「すごーい!」「見てー! 女子力高い!」と興奮気味に声を上げる。


 しかし、サラ本人はといえば、「ぼくは自由に作ってみたんだよ!」とまったく意に介さず、自然体な様子でさらりと返していた。その素直な態度が逆に彼女らしい。


 一方、ニコは俺と同じく、普段あまり料理をするようには見えなかったが――意外な光景が目に入った。魔法で切られた野菜は、まるでプロの飲食店が準備したかのように均一で美しい。その手際の良さには思わず感心してしまう。

 

 実際に、彼が仕上げたのは、余計な装飾のないシンプルな野菜カレー。盛り付けも飾り気はないが、その潔さがかえってニコらしさを感じさせる。


()るのは面倒だから……これくらいで十分だろ?」と、彼は独り言のように呟きながら淡々(たんたん)と仕上げていた。


 周りが次々と魔法を披露する中、俺も遅れまいと魔法を唱えることにした。


(えっと……カレーって確かニボルさんが作ってくれたのを食べたことがあるはずだ。牛肉と玉ねぎ、それからチーズさえあればいけるだろう!)


「女神様、カレーを!」


 しっかり唱えた――そのはずだった。なのに、目の前に現れたのは……チーズ牛丼。しかも、なぜか丁寧に温玉(おんたま)まで載っている完璧な仕上がり。


「アダム、何その料理?! 初めて見るんだけど!」と、アンズが目を丸くして突っ込んでくる。


(しまった……。ここ異世界なのに、チー(ぎゅう)を作っちゃうなんて……!)


 一瞬、どう説明しようか迷ったが、俺は咄嗟(とっさ)に「研究者だから、つい発想力が(あふ)れちゃったんだ」と適当に誤魔化すことにした。


 アンズは微妙に納得したようなしていないような顔で、「発想力すごいけど、これカレーじゃなくない?」と再び指摘してくる。


(うん、まあ、そうだよな……)

 

 そんな感じで、俺たちクラス全員が調理を終え、理事長による試食タイムが始まった。


 最初に選ばれたのは、アンズの暗黒物質(ダークマター)こと……焦げたカレーだ。

 アンズは「理事長、ごめんなさいー! 無理して食べなくてもいいですから!」と必死で止めていたけど、理事長は意に介さずスプーンを手に取った。


「なるほど……スパイスの量がやや多いかもしれない。しかし、君はアドバイスを受けながら果敢に挑戦した。その心意気、見事だよ」


「きゃー! なんてお優しいんですか!」と、アンズは顔を赤らめて照れている。


 次に、ケイが勢いよく前に出た。


「キハダ理事長! アタシのスープカレーもぜひ!」


 彼女が差し出したのは、水のようにシャバシャバしたカレー。


(いや、これをスープカレーと呼んでいいのか……?)


 理事長も少し首を傾げつつ、慎重に一口。


「うーん……スープカレーというには少し違う気がするね。しかし、その自由な発想と大胆さは君らしい。とても面白いよ」


 お見事! 理事長は一切、ダメ出しをせず、フォローを添える技術が神業だ――心もイケメンだわ。


「さっすがキハダ理事長! 試食の神!」とケイは大はしゃぎしている。


(いや、これ褒められてるか微妙だけど……本人が喜んでるならいいか?)


 理事長の柔らかい対応と生徒たちの賑やかな反応で、調理室は終始和やかな雰囲気に包まれている。

 彼女は他のカレーも次々と試食を進め、残るはニコ、サラ、そして俺の3人になった。


「じゃあ、次はニコの野菜カレーだな」

 

 一口食べた理事長は小さく頷き、「おいしい! シンプルだけど、魔法で調理された精密さが伝わる。計算され尽くしてるな」と感想を述べた。


 ニコはいつも通りのそっけない様子で「どうも」とだけ返事をする。

 続いて理事長は、うさぎの形に盛り付けられた可愛らしいカレーへ手を伸ばした。これはサラの作品だ。


「……完璧だ――! 見た目だけでなく、味も申し分ない! これぞカレーの理想形だ!」


 理事長は目を輝かせながら、サラのカレーをあっという間に完食してしまった。サラは相変わらず自然体で、「自由に作ってみました!」と笑っている。


 最後に残ったのは――俺のチーズ牛丼だ。理事長は皿を前に首を傾げ、不思議そうな顔でじっと見つめていた。


「アダム。これ……カレーなのか?」


 俺も内心、異世界にチーズ牛丼という文化をこの場で共有してしまったという罪悪感に苛まれていた。だけど、なんとか冷静を装いながら答えることにした。


「キハダ理事長。俺はちゃんとカレーを想像しながら唱えたんですが……結果がこれでして」

「ふーん。まあ、食べてみよう」


 理事長は半信半疑ながらもスプーンを持ち、恐る恐る一口……。


「うまい! なんだこれ!」


 理事長の目が一瞬でキラキラ輝き出した。周りの生徒たちも驚きの声を上げる。だが、すぐに理事長は冷静さを取り戻し、「……しかし、これはカレーじゃないな」と断言した。

「ぜひ、実験部のみんなもこの料理を味わってみてくれ」と言うと、理事長は魔法で俺の牛丼を5等分に分けてくれた。


「では、これにて私の授業を終了する! 料理は魔法だけでなく、創意工夫とみんなの個性が大事だからな!」

 

 そう言いながら、理事長は颯爽と調理室から出ようとした――が、俺の顔を見て急に立ち止まった。


「そうだ、大事なことを言い忘れていた!」

 

 理事長は指を一本立て、まるで授業の締めにふさわしいトーンで話を続けた。


「カレーのような煮込み料理を大量に作った後は、必ずすぐに食べること! なぜなら、時間を置くと食中毒の原因になる場合があるからだ。もし余ってしまいそうなときは、私が今やったように小分けして冷蔵保存するのが一番だ!」


 俺は思わず感心してしまった。勢いとテンションだけの人かと思っていたけど、こうして実務的で役に立つ情報もちゃんと伝えてくれるとは――意外と抜け目がない。


 

 授業が終わった後、俺たち実験部は部室で俺が作ったチーズ牛丼を食べることにした。


「ねえ、これおいしいじゃない!」

「本当だ……おいしい! 私、アダムの料理を初めて食べたけど、意外とやるじゃん!」


 ケイとアンズがすぐに褒めてくれた。

 遅れて部室にやってきたニコとサラは、何の迷いもなく俺のチーズ牛丼にタバスコをかけ始めた。


 サラは「みんなで食べる牛丼、美味しい〜!」と満面の笑みを浮かべている。


(なるほど……サラだけは()()()()()()のニボルさんが作った牛丼を知ってるのかもしれない)

 


 ……今日以降、俺たちは新しい担任ことキハダ理事長と過ごす学校生活を楽しんでいった。

 

 そして後日――とある場所で食中毒が発生し、誰かさんが大変なことになり、調査へ駆り出される羽目になったのはまた別の話。

<余談>

女神様「いや〜。す⚪︎家のチーズ牛丼って美味しいのよね。ネットでネタにされがちだけど......。そうだ! ところで、カレーの食中毒って何の話なのかしら?」

アダム「女神様! 俺、あの授業、気まずかったんですよ。俺の新担任である理事長先生って、ゴリゴリの体育会系みたいな人物なんで。あれは、ウェルシュ菌の話ですね」

女神様「ウェルシュ菌? それって、どんな菌なの?」

アダム「ウェルシュ菌は、主に【カレーやシチュー】のような煮込み料理で増える菌です。特に、大量調理するときに問題になりやすいですね」

女神様「えっ、どうして煮込み料理なの?」

アダム「ウェルシュ菌は【嫌気性菌】だから、空気が少ない環境で増殖するんです。大鍋で作った料理を冷ますときに、鍋の中心部がゆっくり冷めると、菌が増えやすくなるんですよ」

女神様「なるほど、大量調理が危ないのね。じゃあ、どうやって予防するの?」

アダム「予防のポイントは3つ!

1つ目は、調理後に【すぐに冷ます】こと。鍋のままだと冷めにくいので、浅い容器に移して広げるのが効果的です。

2つ目は、冷蔵庫で【低温保存】すること。菌の増殖を抑えられます。

3つ目は、【再加熱をしっかり】すること。まぁ、加熱調理したものは、なるべく早く食べるといいね」

女神様「ふむふむ。具体的で分かりやすいわね。これって、どれか1つだけじゃダメそう?」

アダム「そうですね......。どれか1つだけでは不十分な場合が多いので、全部実践するのが理想です。食中毒って辛いんで」

女神様「ありがとう、アダム! じゃあ、次にカレーを作るときは気をつけるわ」

アダム「ぜひ。そうだ。次、俺がカレーを唱えた時は、チーズ牛丼じゃなくて、カレーを出してくださいね。女神様……」

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