【退学処分編】果報は寝て待て掴み取れ! ※アンズ視点
【※注意】主人公ではなく、アンズちゃん視点です。
今日はアダムの退学処分審議会の日――アダムだけでなく、私にとってもドキドキする1日になりそう。
(神様、どうかお願いします! アダムを退学にさせないでください!)
そんなことを思いながら、私はアダムが創設した実験部の部室にいた。私以外にもサラとニコくんがいる。
サラは、明らかに動揺しているのか、少女漫画を手にしているのにページが全く進んでいない。目線は漫画に向いているものの、心ここにあらずといった様子だ。
一方のニコくんは、審議会の行方にまるで興味がない様子で……スマホゲームに没頭している。
(この状況でリラックスできるなんて! なかなかの強心臓かも?!)
私は結果が待ち遠しいけれど、この待ち時間が苦痛すぎて、何か暇つぶしになるものはないかとスマホで検索してみた。
すると、『16タイプ診断』という流行りの心理テストが目に留まった。問題数が多いから、普段なら途中で飽きてしまいそうだけど、落ち着きのない今の私にはぴったりだ!
どう解釈すればいいのか悩むような問題もあったけれど、1つずつ回答していく。
やがて診断結果が表示され――踊り子のようなキャラクターが出てきた!
(えっ、これ私っぽい! 歌うの好きだし、めっちゃ当たってるかもー!)
書かれている説明が驚くほど私の性格を言い当てていて、思わず感動してしまった。しかも、この診断では「相性」まで分かるらしい!
(これ、アダムにもやってもらおう! 絶対面白いはず!)
ふとアダムのことを思い出した。彼は今頃、審議会で厳しい対応に迫られているのかもしれない。
私がザダ校に行こうと誘って、彼も進学してくれた――絶対、一緒に卒業したい!
そんな私に気づいたのか、サラが「アンズちゃん、何やってるのー?」と近づいてきた。
「この診断、面白いんだよ! ドキドキしちゃって落ち着かなくて……暇つぶしにやってたの」
「へぇ! 面白そう! ぼくもやってみるー!」
早速、心理テストを始めるサラ。
興味津々そうに彼女が真剣な顔で問題を解いている姿が、なんだか癒される。
……終わったようで、私の方を見ていた。
(結果が出たみたい!)
「えっと〜、ぼくは緑色のキャラクターが出てきたよ! なんか手を振って、ずっと微笑んでる!」
「えー! 面白い表現ね! 見せて見せて!」
2人でキャッキャと楽しんでいたけど、視線を感じたので、振り返る。
すると、ニコくんがじーっとこちらを見ていた。
その気配を察したのか、サラがすぐニコくんに声をかける。
「ニコくんもこの診断やってみるー?」
「ん。今、ゲームがちょうどいいところだから、後でやるよ」
「じゃあ、URL送っとくね!」
「サンキュー」
ニコくんは吸血鬼族ということもあり、クラスでは一匹狼のように見られている。それに、私は幼い頃から両親にこう言われていた。
『男の吸血鬼は女性の人間・エルフ・天使の血を吸うから、気をつけなさい』
その教えのせいもあって、吸血鬼族には怖いイメージを持っていた。
でも、サラはそんなことを気にする様子もなく、普通に話しかけている。アダムも彼がどんな種族かを特に気にしていないみたいだし、この2人って意外と似ているのかもしれない――そんなことを思いながら、ふとサラの様子に目をやった。
サラは私の診断結果を聞いた後、スマホで『相性が良い』で何かを検索し始めていた。
「サラ! 何調べてるのー?」
「アンズちゃんと相性が良いタイプって誰だろうと思って……」
そう言いながら、サラは少し照れたように笑った後、「あっ! なんかアダムさんみたいなキャラクターが出てきた!」と、思ったことをそのまま口にする。
私はその瞬間、顔が真っ赤になってしまった。
(私がアダムのこと好きだって……サラは知ってるのかな!?)
「あっ、ごめんね。ついアダムさんの名前を出しちゃった。でも、アダムさんなら絶対大丈夫だよ! どんな困難も乗り越えてきたのだから!」
サラは慌てて言い訳しながらも、自信満々に話し続ける。そして、すぐにニコくんの方を向いて声をかけた。
「ねえ、そう思うよね、ニコくん!」
「……まあ、大丈夫だろう。いろいろ準備はしておいたから」
ニコくんは、私たちの方を向いて、落ち着いた声で答える。
「だよねー! それに、アダムさんってアンズちゃんと出会ってから、人生が楽しいって言ってたもん! 信じて待とう!」
サラの明るい言葉に少しだけ緊張が和らいだ。
そうして私たちは、部室でドキドキしながら結果を待つことにした。
そして――1時間後。
バタバタバタ!
廊下から大きな足音が響いてくる。
「お待たせ!」
アダムが珍しく息を切らしながら、勢いよく部室に飛び込んできた。
「アダム! お帰りなさい! どうだったの?」
私は居ても立ってもいられず、真っ先にアダムの目の前に駆け寄る。
彼は私の肩に手を置き、少し得意げな表情を浮かべながら――「俺はまだこの学校にいられる。退学処分は免れたんだ」
そう言って、ニヤリと笑ってみせた。
その瞬間、緊張が一気に解けて、私は涙が止まらなくなった。
「良かったぁぁぁ! アダムが居なくなったら、どうしようってずっと思ってたんだからぁぁぁ!」
アダムは困ったように笑いながら、優しく私の頭をなでてくれた。
「アンズ……本当に色々心配かけてごめんな。でも、大丈夫だ。これからも一緒にいられるよ」
彼の温かい言葉と手の感触に、心がじんわりと温かくなっていく。
(本当に良かった……これからもアダムと一緒にザダ校で過ごせるんだ!)
サラも「やったー! アダムさん、おめでとう!」と私やアダム、そしてニコくんに両手でグータッチをしていた。
そんな幸せムードの中、ガラッと誰かが入ってきた――ケイちゃんだ!
「アタシたち、頑張ったわ……! だから、今から打ち上げに行くわよ! 5人で予約取ったから、いきましょう〜!」
すごい……もう打ち上げの予約をしたんだ!
「早過ぎだろ……」とアダムがすかさずツッコミを入れている。
「でも……ありがとな。せっかくだし、今日は俺の奢りでいいよ」と、いつもはケチだとからかわれるアダムがさらりと言ったので、みんな一瞬、驚きで固まった。
「あんた、それ本当に?! やっぱりあの審議会キツかったのね〜。いやぁ、間一髪だったけど、第2王子様やオーガー公爵が助けてくれて良かったわ」
「えっ! 他の王族の方がいらしてたの?」と私はつい尋ねてしまった。
「そうよ〜!」と回答した後、ケイちゃんはドヤ顔でさらに驚くべき事実を述べる。
「それに、ニコ! 裏で証拠撮影の編集をしていたらしいわね? やるじゃない!」
「そうだ、ニコ。ありがとう。ダンさんから聞いたよ」とアダムも感謝の言葉を口にする。
「あぁ……まぁ。その件は気にしなくて大丈夫。依頼があったから、作っただけ。その依頼人からは後でたんまりご褒美してもらう予定さ……」と言いつつ、ニコくんの口元がわずかに緩んだ。珍しく見せたその微笑みは、彼らしからぬ穏やかさを感じさせた。
(ニコくんを動かせるなんて……一体どんなすごいお方なんだろう?)
私は心の中でそう思わずにはいられなかった。きっと普通の人ではないに違いない――それほどまでに、ニコくんが何気なく言った「たんまりご褒美」の言葉には意味深な響きがあった。
でも、今はそんな謎よりも、この瞬間を楽しみたい。みんなの笑顔があふれる中、私は強く思った。これからも困難を乗り越えて、みんなで楽しく部活動をしていきたい――そう願いながら。
「よし、打ち上げ行こうか!」とアダムが場を仕切るように声を上げた。
「おー!」とケイちゃんとサラが拳を突き上げる。
「じゃあ、戸締りして行こうー!」と私は言って、みんなと部室を後にする。
この後、私たちは笑顔で打ち上げ会場に向かって歩き出した!
打ち上げ会場はお好み焼き屋さんでした。
【お好み焼き屋さんにて】
アンズ「アダム、これさ。やってみて?」
アダム「へぇ〜。心理テスト、面白そう」
アンズ「どうだった?」
アダム「なんか研究者みたいなのが出てきた」
アンズ「えっ?!」(私と相性抜群?!)
アダム(これ、16種類もあるのか。面白いな!)