【退学処分編】まさかの時の王族こそ真の王族
すごい……王族のバク閣下と第2王子のダンさんがやってきた。
その瞬間、場の空気が一変し、全員が頭を下げた!
「突然お邪魔してすまない。早速本題に入るので、顔を上げてください」
低く響く声で指示を出すバク閣下に従い、皆が顔を上げた。
「アダムくんは立派な研究取扱者だ。皆さん、彼を誤解しているようだね。先ほどの話を聞いていたが、校長、教頭、それに悪魔族の先生と特別科の生徒さん――あなたたちの対応には失望したよ。ただ『証拠を出せ』と繰り返すだけとは……」
厳しい視線で場を見渡すバク閣下。鋭い言葉が、全員に突き刺さったようだ。
(そうだ、バク閣下の言う通りだ――みんな、明確な情報しか求めない……)
「ダン、研究施設用のプールに設置された監視カメラの映像を出せるか?」
「はい、父上」
ダンさんは静かに頷くと、持っていたプロジェクターを取り出し、操作を始める。
そこに映し出されたのは、俺が必死に走り去った直後の映像。そして――地面に倒れ込む第9王子の姿だ。
確かに、この後何が起きたのか俺は知らない。
しかし、映像を通して、どんな状況だったのか赤裸々に判明していった。
まず、負けた屈辱に震えながら、第9王子は怒りを抑えきれずに叫んでいる。
「クソぉおおおお! あの野郎……馬鹿にしやがって!」
その怒声が響いた次の瞬間――画面に映ったのは担任の第11王子だった。彼は急ぎ足で第9王子の元へ駆け寄る。
「メタノ様! どうして……!」
「ホルム! 今すぐあのメガネ野郎を追え!」
だが、担任は即座に首を横に振る。
「メタノ様、それはできません!」
「何だと?! 俺の命令が聞けないのか?」
「違います……俺の魔法で作った緑の人形は粉々になり、再生不能になりました……」
画面の中で第9王子が一瞬固まる。そして、信じられないとばかりに声を荒げた。
「おい、なんで王族のお前が、一般科の女どもにやられてるんだ?」
「お許しください、メタノ様――!」
担任が地面にひれ伏す様子が映像にしっかりと残っていた。
実際、その映像を見て、担任と第9王子以外の者たちは、完全に絶句していた。
これで決定的だ――音声と映像付きで、誰も逃れられない証拠が揃ったのだから。
「これで、お分かりいただけましたか?」
バク閣下が静かに口を開いた。その目は鋭く、第9王子を見据えている。
「さらに息子のダンから聞きましたが、第9王子は偽の招待状を第10王子と第4王女に送りつけていたようです」
次の瞬間、画面に映し出されたのは――第9王子が作成した偽りの王族子女会議の招待状と、それを作成した証拠となるファイルの画面。ファイルには第9王子の署名が記録されていた。
(ニコが証拠に残してくれてたんだ……!)
「父上、これだけではありません」とダンさんが一歩前に進み出た。
「第9王子は……アダムくんだけでなく、第4王女のケイさんにも卑劣な行為を行っていたのです」
次に映し出されたのは、悪魔の男子生徒たちがアイスティーに睡眠薬を混ぜる場面と、屋上からケイの頭上に水をかける場面だった。
「ケイさん……本当に辛かっただろう?」と第2王子がすぐさま、優しく声をかける。
「えぇ……でも、アタシの悩みに実験部のアダムたちが親身に相談に乗ってくれて、本当に助けてもらいました。それに、盗聴器を仕掛けたのも、アタシを守るために設置してくれたんです!」と、ケイは力強く話す。
「だが、盗聴器を使用するのはやりすぎだと思うのですが?」
教頭がそう指摘しようとした瞬間、バク閣下が穏やかながらも断固とした口調で遮った。
「あぁ、盗聴器機能付きの万年筆のことかな?」
バク閣下の目が教頭を鋭く射抜く。
「あれは、アダムくんと同じ研究取扱者であるオオバコさん、そして第5王子の公認のもと用意したものだ。さらに、王立科学院から正式な許可証も発行されている。この場で問題視する必要は全くない」
そう言うと、彼はゆっくりと許可証を提示した。その堂々たる態度に、教頭は返す言葉を失った。
(これは驚いた……。この1ヶ月間で第9王子との間に起きた出来事が、すべてこの場で説明された気がする)
映し出された数々の証拠により、校長と教頭の顔は見るみるうちに青ざめていった。
「これだけの証拠を前に、もはや反論の余地はあるまい」とバク閣下が続けると、部屋にいた誰もが静まり返った。
これでどちらに非があるか明確になっただろう――俺は、感謝の気持ちと決意を伝えるため、深呼吸してから口を開いた。
「バク閣下、第2王子様。本当にありがとうございます。そして、この場にいらっしゃる皆様にもお伝えしたいことがあります」
会場の視線が一斉に俺のところへ集まる。その重圧を感じつつも、俺はしっかりと前を見据えて言葉を紡いだ。
「俺には、この学校でどうしても叶えたい目標があります! それは、王位戦で1桁に入り、自分の力で研究所を設立することです。研究施設を爆発させてしまった件については深く反省しています。その責任を果たすためにも、将来、このザダ校に立派な研究施設を作り上げることで償いたいと考えています」
一度言葉を切り、力強く続ける。
「研究者という仕事は、俺にとって天職なんです。この場で誓います。俺の夢を、必ず形にしてみせます!」
そう告げた後、全員の前で深々と頭を下げた。
俺の真剣な思いは、理事長だけでなく、校長や教頭にも確かに届いたようだった。彼らの表情が次第に柔らかくなっていくのがわかる。そして、静かだった会場には、少しずつ温かい空気が流れ始めた――。
だが、キハダ理事長は厳しい表情で校長に問いかけた。
「これ以上、一般科の生徒たちを危険にさらすことは、断じて許されません。第9王子とホルム先生に関して、必要な処分は理事会で決めさせていただく。それでよろしいか、校長先生?」
校長は深い溜め息をつき、しばらく黙った後、重々しく頷いた。
「……あぁ。それにホルム先生。君の行為は、『勘違い』では済まされない。ここで明らかになった以上、しっかりと反省するように」
その言葉に場が静まり返る中、教頭が前に出て一歩踏み込むように告げた。
「これより投票を始めます。アダム・クローナルの退学を取り消すことに賛成の方は、挙手をお願いします!」
そう教頭が告げた後、担任を含む5名全員が一斉に手を挙げた。
信じられない!
俺は退学を免れたんだ。胸の中に込み上げる喜びを必死に抑えながら、俺は理事長や校長、そして皆に向かって深々と頭を下げた。
「次に、第9王子とホルム先生についての謹慎処分を検討したいと思います。賛成の方は挙手をお願いします」
理事長がそう告げると、今度は担任を除く4名全員が手を挙げた。
その瞬間、ケイの肩がかすかに震え、彼女がホッとしたように息を漏らすのが見えた。
どれだけ辛い思いをしてきたのだろう――第9王子から受けた数々の嫌がらせを思い出しているのかもしれない。俺はそんな彼女にそっと視線を送り、心の中で小さく頷いた。これで、少しでも彼女の心が軽くなればいい。
一方、キハダ理事長は何も唱えずに魔法を発動し、第9王子と担任を瞬時に拘束した。その見事な魔力の行使に誰もが息を呑む中、教頭と共に彼らを別室へと移動させていた。
(……キハダ理事長って、魔法の詠唱すら必要ないなんて……人間じゃないだろうな。180cm以上もあるし、やっぱり魔族なのかもしれない)
そんなことを考えていると、ふと校長と目が合った。彼の顔には深い謝罪の色が浮かんでいる。
「アダム、本当に申し訳なかった……。私は、君のことを正義のヒーローではなく悪役に仕立て上げてしまった。こんな私をどうか許してほしい」
校長は深々と頭を下げた。その真摯な態度に、一瞬言葉を失ったが、俺は静かに首を横に振った。
「いえ。俺はただの生徒です。自分の潔白を証明できたので、それで十分です」
そう告げた後、俺は校長ではなく、バク閣下と第2王子の方を向いた。彼らに向ける感謝の気持ちは言葉だけでは足りない。
「お二方、大変ありがとうございました。本当に感謝申し上げます」
俺は深々とお辞儀をした。彼らの尽力がなければ、俺は確実に退学になっていたはずだからだ。その事実を思うと、胸が熱くなる。
バク閣下は穏やかな微笑を浮かべ、第2王子も静かに頷いてくれた。その柔らかな態度は、俺の言葉をしっかりと受け止めてくれた証だ。
「アダムくん……久しぶり。大きくなったね。相変わらず研究熱心だと聞いているよ。お礼なんて必要ないさ。困った時は、大人に頼るものなんだから」
閣下の言葉は優しくも力強く、胸に響いた。そして第2王子が微笑を浮かべながら続けた。
「父上、ありがとうございました。でも運が良かったです。今日はザダ校でOBOG会が開かれていたので……それで父上がこちらにいらっしゃったんです」
まさか、そんな偶然があったとは――俺は自分の運の強さに驚きを隠せなかった。
「そうだったんですか?!」とケイは目を丸くし、驚きの声を上げた。その反応にバク閣下は満足そうに頷きながら、腕時計に目を落とす。
「あぁ、あと10分で会が始まるからね。そろそろ抜けるよ。みんな、元気で」
そう言うと、バク閣下はふわりとその場から姿を消した。
校長も慌ただしくポケットから手帳を取り出しながら、「いやはや、貴重な時間をいただいてすまなかった! さて、私も挨拶をしに行かなくては……アディオス!」と恒例の締めの挨拶を残して急ぎ足で去っていった。
その場に残された俺たちは、一瞬だけ沈黙し、そして小さく笑みを交わした。
オウレン先生は、この重苦しい空気に耐えきれなかったのか、水をゴクゴクと勢いよく飲み始めた。その仕草が妙におかしくて、俺たちの緊張も少しだけ和らぐ。
一方で、パーカー女子は安堵のあまり涙を流していた。彼女の震える声が静かな部屋に響く。
「退学にならなくて、本当に良かった……」
オウレン先生はそんな彼女を優しく見つめながら、微笑みを浮かべて言葉をかける。
「あなたの絵、本当に素晴らしかったわ。人形の説明を補ってくれたおかげで、証明できたのよ。本当にお疲れさま。ケイちゃん、彼女を連れて寮に戻って、今日はゆっくり休みなさい」
「はい。わかりました、オウレン先生」
ケイはそう言って、パーカー女子の背中をそっと支えながら、ダンさんの方を向いて深々と頭を下げた。
「第2王子様、本当にありがとうございました」
彼女たちは連れ立って女子寮へと戻っていった。
その背中を見送りながら、俺は気になっていた証拠がどうやって発掘されたのか、ダンさんに尋ねた。
「特別科の生徒には特権があってな。監視カメラの映像を確認できるんだよ。ザダ校では女性が少ないから、何か危険なことが起きても対応できるように、更衣室やトイレ以外の全施設に設置されている」
「……じゃあ、第9王子もそのことを知っているんじゃないですか?」
俺の問いに、ダンさんは首を振った。
「いや、彼は知らないよ。特別科でも上位5位以内じゃないと、その権限は与えられないからな」
(やっぱり……。一般科と特別科で完全に差別化されていると思っていたけど、特別科の中でもさらに順位で待遇が分けられているのか……)
「でも……これだけの証拠、よく集めましたね」
「そうだな。ニコが動画に詳しいっていうのも助かったな。彼にも手伝ってもらったんだよ。彼、ゲームが大好きで、たまに配信もやってるらしい」
(ニコはゲーム好きだったのか……。それに、やっぱり手伝ってくれてたんだな。あいつ、あんまり喋らないけど、裏で色々やってくれてるんだな〜)
「そうだったんですね……ありがとうございます。ここまで至れり尽くせりで、なんだか申し訳ないです」
「気にしないでくれ。今回の件は、大切な後輩からの頼みだったからね。放っておけるわけがないさ。それに――君には、この学校生活をもっと楽しんでほしいんだよ。苦しいだけじゃなくてね」
(『大切な後輩』……一瞬その言葉が気になったけど、まあ今回はうまく乗り越えられたから良しとしよう)
オウレン先生もほっとしたように微笑みながら、本音を漏らした。
「本当に良かったわ。あなたが居なくなったら、サラちゃんたち……とても悲しむと思うもの」
そう、俺は無事に退学処分を免れたのだ。
オウレン先生にも感謝の言葉を伝え、俺は次に向かうべき場所を思い描いた。
(終わった……本当に終わったんだ! 次は、実験部だ!)
肩の荷が下りたような解放感とともに、俺は一目散に実験部の部室へと駆け出す。足取りは軽やかで、吹き抜ける風さえ心地よく感じられた。
これにて、第9王子との対決は終了です。
アダムの2勝(対戦・審議会)になりました!
次回はアンズちゃん視点回になります。
いつもありがとうございます。