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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ
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【退学処分編】審議会〜第9王子vs.第10王子 THE FINAL〜

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします!

 さて――運命の日がやってきた。

 

 今日は、俺の退学処分に関する審議が行われる日だ。

 対戦で第9王子に勝利したはずなのに……また戦わなければならないなんて。


 審議の場は、ザダ校の荘厳な大会議室。

 ついこの前、王族子女会議が開かれたときには入ることすら許されなかった場所だ。

 しかし、皮肉なことに……今回は俺だけでなく、ケイも一緒にこの場へと足を踏み入れることになった。


 審議の流れはこうだ――『第9王子・校長・教頭』vs.『第10王子(俺)・第4王女・理事長』で話し合いを行う。


 俺の前世の年齢を考えれば大人枠だが、今は15歳の身。しかも、俺たち後攻チームは大人1名と子供2名。第9王子側と比べて、どうにも心許ない戦力だ。


 そんな状況を考慮したのか、今回、立会人として数名参加することになったらしい。

 メンバーはオウレン先生、B組のパーカー女子、そして俺の担任――第11王子だ。

 俺は担任が第9王子と裏で繋がっていると睨んでいる。いや、確実に黒だろう。

 

 それでも、そんな陰謀に屈するつもりはない。

 俺は俺のやり方で、この場を切り抜けてみせる。

 そして、絶対に証明してやる――俺の得意分野は、根拠に基づいた論理的な説明だ。


 さぁ、始めよう。

 俺が研究施設のプールを壊したのは、第9王子から自分と、このザダ校の女子生徒たちを守るため――理屈に適った行動だった。その正当性を、この場で明らかにしてやる。


 ……とはいえ、俺は退学処分対象者として、最後に登場する立場だ。

 

 会場の空気が張り詰める中、俺の番が回ってくるのを待つ時間がやけに長く感じられる。


「アダム・クローナル。中に入りなさい」


 校長の冷たい声が響く。

 俺は緊張を抑えながら扉を開け、一歩中へ踏み込んだ。


 俺サイドには、キハダ理事長と第4王女のケイがついている。

 キハダ理事長はいつも以上にカッチリしたスーツ姿で、威厳を漂わせていた。ケイも制服のジャケットをきちんと着込んでいて、真剣な面持ちだ。そして俺も、学生らしく学ランスタイルでこの場に臨む。


 一方、第9王子は、この前の自撃と俺の“爆発”が原因なのか、目以外の全身を包帯でぐるぐる巻きにされていた。まるで動くミイラのようだ。


(やばい……これ、俺がやらかしたと思われてるんじゃないか?)


 実際、校長と教頭は険しい顔で俺を睨みつけているが、正直なところ、そんなのはどうでもいい。


 むしろ――俺は今日も素敵な女性陣に囲まれていることに気づき、妙な自己肯定感に包まれていた。

 キハダ理事長は凛々しいスーツ姿で俺の隣に座り、頼もしい雰囲気を醸し出している。ケイも整った制服姿でこちらに鋭い視線を送っており、戦力としての信頼感は抜群だ。


 さらに、立会人席には俺の師匠とも言えるオウレン先生が座っている。彼女の穏やかな眼差しには、心強い安心感がある。そしてもう一人……例の妄想癖が炸裂しがちなパーカー女子も、立会人としてこの場に参加していた。彼女は相変わらずフワフワしているが、意外と鋭い洞察力を持っているから頼りになる。


 その隣には、第11王子――例の担任が座っている。だが、妙に顔色が悪い。

 青白い顔をしているのは、単なる体調不良なのか、それとも何かを隠しているのか……?


 そんな感じで、俺たち9人の間には、妙に張り詰めた緊張感が漂っていた。

 

 その中で教頭が静かに立ち上がり、審議開始の挨拶を始める。


「これから審議会を開始する。退学処分の是非は、我々大人組による投票で決定する。投票者5名のうち、3名以上が賛成すれば退学処分が確定する――」


(5名? つまり……?)


 俺が疑問を感じたタイミングで、校長が補足説明を入れてくれた。


「つまり、投票者は私、理事長、教頭、ホルム先生、オウレン先生の5名という認識で間違いないかな?」

 

「その通りです」と教頭が頷く。


 その確認が終わってから、校長は厳しい表情のまま、俺に目を向けた。

 

「では、まず私から質問しよう。アダム・クローナル。君は『研究取扱者』という資格を有していると聞いている。それにもかかわらず、校内の研究施設用プールを破壊したと報告を受けたが、なぜそんなことをしたのか?」


 いきなり俺への質問が飛んできたため、すぐに返答する。


「ええと、まず訂正させてください。私は“壊した”わけではありません。正確には、第9王子様から対戦の申し出があり、その集合場所がたまたま研究施設用プールだったのです。対戦中、彼からの攻撃でダメージを受けるわけにはいかなかったため、自衛した結果、施設が耐えきれなくなっただけです。むしろ、施設の欠陥が今まで見逃されていたことの方が問題だと考えています。対戦は学則に基づいて行いましたし、研究取扱者の資格に従い、正当な行為を行ったまでです」


 そう説明を終えると……会場内が一瞬静まり返る。


(壊すつもりなんて全然なかった。けど、確かに『()()』はした……いや、爆発は俺が起こしたんだけどさ。でも最初からプールを壊そうなんて、1mmも思ってなかったんだぞ……?)


 俺の意見に同情したのか、キハダ理事長が勢いよく立ち上がり、口を開いた。

 

「そうだ! 彼の言う通りだ!」


 その声は、普段よりも力強さを感じさせられる。

 さらに理事長は「ちなみに、この手紙がその証拠です」と言いながら、第9王子からの手紙を、堂々と校長たちの前に差し出す。


 教頭は手紙に目を通しながら眉をひそめる。

 

「この手紙――宛名が“メガネ野郎”と書かれているけど……君だと確定できないのでは?」


 教頭の視線が俺に向けられる。明らかに疑っているのがわかる。


「おっしゃる通り、その内容だけでは誰を指しているかわかりませんよね……」

 

 俺は冷静に話を続ける。

 

「ですが、この手紙を俺に渡した同じクラスの悪魔族の子が、『メタノ様から渡してって言われたから』とはっきり言っていました。その場には俺以外にも、()()()のサラがいました」


 特待生だと言った途端、校長と教頭の表情が明るくなった。

 

「サラって、あの主席の子じゃないか?」

「剣術もできると聞いた。素晴らしい子だな」


 彼女は彼らにとっても評判がかなり良いらしい。サラを溺愛しているオウレン先生も、その誉め言葉に満更でもない表情を浮かべていた。


 一方、第9王子は露骨に不機嫌になり、わざとらしい舌打ちを響かせている。

 その様子を横目に、担任は薄笑いを浮かべながら口を開いた。


 「そうです。サラはとても優秀で善良な生徒です。だからこそ――第10王子に騙されている可能性も否定できませんね」


 白々しい嘘に、場の空気が微妙に変わった。


(いやいや、俺とサラは10歳の頃から仲がいいんだけどなぁ……)


 心の中で軽くツッコミを入れていたところ、オウレン先生が口を開き、話題を切り替えてくれた。


(だま)されているかどうかは、サラさんご本人がいないところで話しても仕方ありません。それより……なぜ健康診断の日付を間違えたのですか? ホルム先生」

「それは……誰にだって勘違いはあるでしょう。つい間違えてしまっただけです」


 その答えに、オウレン先生は間髪を入れずに切り返す。


「ですが、その日、私は女子生徒さんたちにお会いしていませんでした。手紙には『女の子たちは別の場所でまとめて監視してる』と書かれていますが、保健室ではなく、どこにいたのですか?」


 オウレン先生は事実を冷静に述べながら、核心を突く質問を投げかける。鋭い指摘に、場の緊張がさらに高まる。それに続いて、キハダ理事長も口を開いた。

 

「私もあの日、保健室を確認したが、3人の姿は見なかった。どこに連れて行かれていたのだ?」


 緊迫した空気の中、その問いにケイとパーカー女子が声をそろえるように答えた。

 

「アタシたちは……突然男子更衣室に案内されたんです。そして、Bクラスの彼女は、アタシたちが来る前からすでにそこにいました」

「私の場合は……Bクラスの担任の先生に『ホルム先生が案内に来るだろうから、この男子更衣室で待つように』と言われたんです」


 2人の証言が重なり、場の空気がピリつく。

 担任の対応が不可解どころか、明らかに不自然であるのは明白だった。

 

 重苦しい空気が漂う中、パーカー女子はふと何かを思い出したようで、手元の紙とペンを取り出した。


「そうだ……。私たち、あの男子更衣室で、こういう人形に閉じ込められていたんです!」


 彼女は素早く手を動かし、緑色の肌を持つ悪魔のような人形のイラストを描き上げた。その絵を見た瞬間、校長の顔色が変わる。


「この人形……ホルム先生のじゃない?」

「違います!」


 担任は即座に否定した。

 

「俺はこんな人形を作ったこともありませんし、生徒に危害を加えるようなことなど、断じてありえません! 確かに場所の案内を間違えたことは認めますが、それだけです!」


 その時、第9王子が冷ややかな声で割り込んできた。

 

「そうだ、第11王子の言う通りだ。それに、この人形を作れないのなら、彼女の言っていることが嘘ということになるな?」


 パーカー女子は息を飲み、その目を大きく見開いた。

 

「えっ……?」


「それは違うわ!」とケイが素早く反論した。

「アタシたち女子3人は、この人形に攻撃されたのよ!」と彼女は毅然とした態度で言い放った。

 

 だが、第9王子は冷笑を浮かべる。

 

「そう言ってもなぁ〜。その“人形”とやらはどこにも残っていない。証拠がない以上、君たちの言葉だけじゃ信じられないな?」


 確かに、サラの剣術技によって、人形はその場で粉々になり、跡形もなく消えてしまった。

 

 やばい。このままでは第9王子の意見が優先されてしまう。

 緊張がさらに高まる中、どう切り抜けるかが問われていたが、追い討ちをかけるように――第9王子は校長と教頭に視線を送りながら、不敵に問いかけた。

 

「手紙も……それ、本物だって証拠、どこにあるの? 校長先生、教頭先生、どう思います?」


 校長は腕を組みながらうなずき、重々しい口調で言い放つ。

 

「第9王子様の言う通りだ。アダム・クローナル、君がその手紙や人形の件を証明できないのなら、この件においては君に非があると言わざるを得ない」


 なぜ俺が悪いと決めつけられているんだ――?

 状況を飲み込めないまま、焦りだけが募る。


 だが、まだ手はある。俺は弁解のチャンスを掴もうと、意を決して口を開いた。


「待ってください! まだ証明できるものがあります。この盗聴器機能付きの万年筆に、彼女たちの位置情報が記録されているんです!」


 「盗聴器」という単語を聞いた瞬間、校長と教頭が目を細める。校長が即座に声を荒らげた。

 

()()()だと……? なぜそんな不審なものを学校に持ち込んでいるのか!」


 ここで退くわけにはいかない。俺は必死に理由を説明する。

 

「これには訳があります! 第4王女のケイを、第9王子によるいじめから守るために、やむを得ず用意したものなんです!」


 第9王子は口元に笑みを浮かべ、肩をすくめながら軽く返す。

 

「えー、俺がAクラスで直接いじめた証拠なんてないけど? ホルム先生、どう思います?」


 担任は冷たく首を横に振る。

 

「俺はメタノ様がAクラスに入った姿を一度も見たことがありません」


 それを聞いた瞬間、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

 

(まずい……このままでは完全に俺の負けになる。言葉だけではなく、誰もが納得する明確な証拠が必要だったんだ――)


 だが、示せる証拠が俺にはない。

 ――詰んだ。


(悔しい……。せっかく戦いには勝ったのに――)


 そんな苦しい思いが胸を締めつける中、校長は静かに投票の開始を告げた。部屋には一瞬、重い沈黙が漂い、全員の視線がテーブル中央に集まる。

 

 

「では……アダム・クローナルに――」


 

 その瞬間――バタン!

 

 

 扉が勢いよく開かれ、数人の人影が部屋へと足を踏み入れる。


「ご無沙汰しております。バク・オーガーです。ダンと一緒に参加させてもらっても良いかな?」


 場が一瞬で凍りついた。


「……えっ?」


 思わず声が漏れる。バク閣下、そして――第2王子?!


 予想を遥かに超えた訪問者たちの登場に、頭の中が真っ白になる。


 あまりの驚きに目を見開いてしまい、思考が止まる俺。

 そのせいで、第9王子の笑みが不自然に引きつっていることには、まったく気づけなかった。

バク閣下は第一部の【研究取扱者試験編】以来の登場です★

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