【第9王子vs.実験部編】一難去ってまた一難退学ありえない〜実験部全員集合〜
第9王子を倒した後、俺は男子更衣室に向かって、アンズとケイ、そしてパーカーを被ってBクラスの女子に変装したサラの3人を回収した。その時、アンズが動けなさそうだったから、抱っこして、4人で無事に部室まで移動できたのは良かったのだが……。
サラは男子更衣室での操り人形との戦いで、敵から胸の辺りを斬られてしまったようだ。傷はなさそうだったから、良かったけど……男だと隠している彼女にとって、斬られた場所が悪すぎた――胸の谷間が丸見えだった。
部室に到着した後、サラと俺の2人で、すぐ保健室へ向かえば良かったのかもしれない……。Bクラスの女の子が部室にいるのは気まずいのではと気を回したケイは、親切心から、いつの間にか彼女が被っていたパーカーのフードを外してしまった。彼女はBクラスの子ではなかった……なぜなら、俺の指示でサラは変装してくれて、その子になりきってくれたのだから。
外した瞬間――サラが女の子だと部員の女子2人にバレてしまった。サラはバレないよう、学園生活でずっと気を張っていたから、バレてかなりショックが強かったのだろう。みんなの前で、泣いてしまった……。
サラは何も悪くない……。むしろ、俺が彼女にBクラスの女子生徒として変装をしてほしいと頼んだだけでなく、男子更衣室にいる敵を倒して欲しいと言ってしまったから、本音を言うと俺に非がある。だけど、ケイがフードを外さなければ、こんな事態にはならなかったはずだ。ついケイを責めてしまい、大人気ないことをしてしまったと思ったが、時すでに遅し。俺とケイの言い争いがヒートアップしていて、サラはずっと泣いている。
部室は、まるで地獄のような緊張感に包まれていた。
その時、アンズが口を開いた――「みんな無事で良かったから、結果オーライじゃない?!」と。
その一言にハッとさせられた。
彼女の明るい雰囲気に、ピリピリした空気が少しずつ和らいでいくのを感じた。俺たちは無言でうなずき合い、ようやく全員落ち着きを取り戻したこともあり、俺の方からサラに「ニボルさんから聞いた話をそのまま伝えていいか?」と言った。すると、彼女はすぐに「うん。大丈夫」と返事をしてくれたため、そのまま2人に事実を話した。
俺が話したことによって、アンズたちは『サラ自身、大変な人生を送ってきたんだ……』と、驚きを隠せない様子だった。そして、2人はぎゅっとサラのことを抱きしめていた。
「よく頑張ったね。私たちが味方だから、いつでも相談してね」
「アタシもあなたの味方! 女同士、仲良くするわよ〜!」
俺はちょっと蚊帳の外だった。……俺も輪に入りたかった。
サラに関する事実を伝えた後、4人で保健室に向かい、第9王子との間で起きた出来事についてオウレン先生に話した。もちろん、サラの性別をハプニングでアンズとケイが知ったことも。
先生はすぐにサラの手当てをしていた。そして、俺は「大切なお嬢様なのよ、強い子だけど無理させないで!」と釘を刺されてしまった。
俺は女神様の強すぎる保護で無傷だったけど、オウレン先生はサラのことになると本当に過保護であった。
そんなとんでもない一日が終わって翌日――担任は体調不良でお休みだった。どうして女子生徒の健康診断の日付を間違えたのか理由は謎に包まれたままだ。でもコイツは、口では平等なんて言ってるけど、本当は第9王子に加担してたのだろう。
(……別にどうでもいいけどな)
さて放課後になり、俺は相変わらず実験をしていた。
ここ最近の部活動は一人だったけど、今日は兼部組のアンズ、サラだけでなく、ケイと……初めてきたのではないだろうか? 幽霊部員のニコもいた。
「ニコ、なんでいるんだ?」
「いいだろ。みんなサラのこと知ったんだろう? 本当は、お嬢さんだって」
(やっぱりコイツ、サラの性別を知ってたのか〜)
その言葉に、なんとなく腑に落ちる。そういえば、男同士なのに妙にサラとの距離が近いと感じることが多々あった。ただ、もしニコがサラのことを最初から女の子だと知っていたのなら……その距離感は不自然じゃなかったのかもしれない。それに、気があるとすれば、あの態度にも納得がいく。
だから、Bクラスの女の子ことパーカー女子は二人の絵を描いていたのか……はぁ。そういうことだったんだな。あっ、その同人誌はちゃんと彼女に返した。その彼女も今回無事だった。
(ちなみに、その同人誌の感想を言う暇もなかった。彼女は顔を真っ赤にして、一言も発せず逃げるように去っていったからだ……いや、あれは消えたって表現の方が正しいかもしれない)
むしろ、今回一番驚いたのは別のことだ。
俺とサラがお互い覚悟を決めて部室を出た直後、サラが「忘れ物をしちゃったー!」と戻ったらしい。そこで、たまたまニコが部室に来ていたそうで……。
いつもと状況が違うことをすぐに察したのか、サラが作戦を説明したところ、ニコはそのまま男子更衣室から抜け出したパーカー女子を保健室に連れて行ったらしい。その結果、そのパーカー女子はオウレン先生のもとで無事保護されたんだとか。俺の気づかないところで、こんな連携が起きていたなんて……本当に驚きだ。
(ニコ……意外と頼りになるやつなんだな)
そう考え込んでいた俺に、アンズがふと問いかけてきた。まるで、俺の思考を見透かしているようなタイミングだった。
「アダム。あのパーカーちゃんって、結局どうなったの?」
俺は質問に応じて簡単に説明した。
「トイレに行ってもらってる間に、サラと入れ替えたんだ。その後はニコがオウレン先生のところに案内してくれて、匿ってもらった――合ってるよな、ニコ?」
「まぁな。あの日たまたま部室に寄ったら、女の子の格好をしたサラがいたからさ。……ところでサラ、今日はあの格好じゃないのか?」
ニコは軽い冗談を交えながら、サラに話しかけた。
「ぼくはもう着ないよ! あれは作戦だったから着ただけだし……それより、アダムさん、どこであの制服を手に入れたの?」
サラは少し頬を赤らめながら尋ねてきた。その表情がどこか子どもっぽくて、つい微笑ましいと思った。
「オウレン先生に、『実験部は服が汚れる場合もある』って言って、事前に男女両方の制服を用意してもらったんだ。運よく、アンズとサラ、そしてパーカー女子が同じサイズ感だったから、今回の作戦が成立したってわけで……」
そうだ、たまたま一緒だったのはラッキーだった。
そんな偶然に絡めて。ケイも質問があるようだ。
「あんた、勘がよく働くわね。なんでアタシたちが男子更衣室にいると、分かったの?」
「あの日の朝、Bクラスの女の子とぶつかってしまってんだけど、彼女が俺の教科書を持っていってしまったんだ……。だけど、俺はその教科書に、盗聴器機能付き万年筆を挟んでいた。その万年筆の性能がすごくてなぁ。万が一に備えて、同じ研究取扱者の変人……いや違うな、オオバコさんが位置情報の分かるアプリを入れてくれてたんだ」
「すごっ!そんな奇跡みたいなこと、あるんだー!」とアンズは再び驚きながらも疑問に溢れているようだ。次はサラに質問を始めた。
「ちなみに、サラはどうやってあの剣を入れてたのー?」
「パーカーを着てたから、背中にこっそり入れてたんだよー!」
「 「すごっ!」 」
これには、アンズだけでなく、ケイも驚きを隠せない様子だった。
「それよりサラ。あなた、アンズと服のサイズが同じらしいけど、身長は……アンズより高いわよね? 体重ってどのくらいなの?」
(すごい……マジでケイは直球で物事を聞くなぁ)
ケイの直球すぎる質問に、アンズは思わず苦笑していたが、サラは正直に答えていた。
「ぼくは……48kgだったかな?」
「 「ウソッ!」 」
ケイとアンズは顔を見合わせて驚いている。
俺とニコは黙っていたが、会話に耳を傾けながら、穏やかな時間を楽しんでいた。
だが、次の瞬間――『バンッ!』と勢いよくドアを開けた理事長がドカドカと入ってきた。
部屋の空気が一変する。
「アダム・クローナルはいるかァア?」
俺たちが青春している時に部室へやってくるとは、空気が読めない理事長先生だ……俺は端的に用件を聞く。
「なんすか?」
「君……研究施設用のプールを爆発させたんだろう? 校長が規則違反として、退学処分対象にすると言ってるぞ?」
「えっ。なんて? 阪神タイガースですか?」
「なんだその名前は? 違う! 退学だ!」
全員で固まる。
(何を言っている――退学したら、王位戦に出られないし、学歴なしになるじゃないか……!)
「取り消してください!」と俺は思いっきり、睨みつけることにした。
「こっ、怖い顔をするな! 早速、私と作戦を立てるぞ!」
そう言って、俺は理事長に引きずられながら、部室から保健室に移動した。昨日、オウレン先生に怒られちゃったからただでさえ気まずいのに、今日も保健室の中に入ってしまった。
(女の子を助けたのに、なんで退学……?)
一難去ってまた一難である。
どうなる――俺?!
<余談>実験部の身長・体重
アダム:172cm・65kg
アンズ:163cm・52kg
サラ:165cm・48kg
ケイ:159cm・55kg
ニコ:188cm・97kg