【研究取扱者試験編】同心協力〜試験当日〜
とうとうこの日が来た――今日は研究取扱者の試験日である。
試験とは言ってもペーパー試験ではない。この試験では、提出した論文の内容について発表する。俺は論文を書き終えたあと、スライドを作成し、発表内容について常に確認していたため、受かる気満々でいた。
さて、あまり堅苦しい服装が好きではないが、スーツに着替えた。一応、白衣も持っていく。
試験会場は王立科学院が管轄する施設で王宮の近くなんだとか。試験自体は午前10時からだが、ザダ校前駅から電車で3時間ほどかかる。一方、サラの方も今日は剣術検定1級の審査があるらしく、会場はザダ校内の体育館らしい。そのため、ニボルさんの車でザダ校前駅へ送ってもらうことにした。
ピンポーンとチャイムの音が鳴る。出発する準備もできたため、玄関ドアを開けると、サラが「おはよ! アダムさん!」と明るく挨拶をしてくれた。よく見ると、サラやニボルさんだけでなく……オウレン先生の姿も。オウレン先生もサラの審査を見に行くのだろうか。でも、それにしては、ジャケットを着てキッチリしている。挨拶がてら聞いてみることにした。
「おはようございます。オウレン先生、どうしたんですか? ジャケット着てるのめずらしい……」
「おはよう。私はあなたと一緒に試験会場へ向かうわ。子供一人で行かせるわけにはいかないでしょう?」
「えっ……だい」
大丈夫と言いたかったところだが、ニボルさんが覆い被さって言った。
「大丈夫! 君がここまで頑張ってきた大切な試験なんだから、何かイレギュラーなことが起きても対応できるようオウレンに案内してもらうことにしたよ。オウレンは王立科学院に何度か行ったことがあるからね。僕も行きたいところだけど、サラちゃんの応援に行ってくるよ」
(おいおい……どこまでお人好しで優しいんだ、ニボルさん一家は)
そう思いながらも、場所を知っている人物がいるのは心強い。
こうして、俺たちは4人でザダ校前駅へ車で向かうことにした。運転席はニボルさん、助手席にオウレン先生。後頭座席に、俺とサラが並んで座った。
サラは小さなウサギのぬいぐるみをギュッと抱えている。
「サラ、不安なのか?」
「あっ、大丈夫だよ? ちょっと緊張してるんだ。だから、このぬいぐるみを持ってるの。恥ずかしいところを見られちゃった……」
緊張しいタイプだったとは、意外だ。
俺は茶化しながら、理由を聞いてみる。
「ぬいぐるみを持ってると落ち着くのか? 俺も試してみようかな」
「うん、すごく落ち着くんだよ。ふわふわで触ってると安心するんだ。はい、どうぞ!」
差し出されたぬいぐるみを受け取ろうとしたところで、サラの小さな指先が俺の指に微かに触れた。
(……あ、そっか……)
サラは男として生き、剣術を極めてきたのだろう。けれど、その手はアンズと同じように女の子らしく柔らかい。ただ、手のひらをじっと見つめると、小さなマメができていた。
「えへへ。練習し過ぎたせいか、マメができちゃったんだ。緊張してるけど、絶対に受かりたいっ!」
サラが安心感を求める理由が、わかった気がする。
(そうだよな、精一杯頑張ったんだ。俺も今回の試験で受かりたい)
その後、試験や検定のことを意識しているのもあって、お互いそわそわして落ち着かないながらも無事、ザダ校前駅にたどり着いた。
俺とオウレン先生が車から降りると、ニボルさんが車の窓を開けて、大声で応援してくれた。サラも元気に、手を振っている。
「僕たちは行けないけど、ここから応援してるからねー!」
「アダムさん、一緒に頑張ろうねー!」
二人の温かさに癒されながら、俺はオウレン先生と汽車に乗り込んだ。
「アダムくん、この汽車に乗るのは初めてかしら? 終点は王宮ターミナル。そこから、バスで王立科学院前に行くよ」
(バス? この世界には……なかったはず)
「えっ、バスってあるんですか?」
「そうよ。王宮周辺は交通が発達していてね。汽車に電車、バスに自動車となんでも揃っているの。近くに、王立科学院もあるから、そこの研究者たちがたくさん開発してきたのよ。遅れそうになったら、タクシーっていう選択肢もあるから。やっぱり、都会は素敵だわ」
「へぇ。都会と田舎でそんなに差が……」
「そう思うでしょ? でも格差が離れすぎるのも良くないってことで、前の“隣人さん”が地方にも道を整備したり、いろいろと開発し始めたのよ」
(この様子だと、5年後にはバスや自動車が当たり前に走っているかもしれない。前に生きていた世界と同じように)
オウレン先生の話を聞きながら未来を想像しているうちに、終点に着いた。そこから、バスに乗り換え、王立科学院の入り口へ辿りついた。
ここから先は、先生と別行動だ。先生は近くのカフェで、俺の試験が終わるまで待ってくれるらしい。発表が30分、その後およそ30分ほどで合否が出る。つまり、1時間後には結果がわかるということだ。俺たちは「午前11時頃に、入り口で集合しましょう」と約束した。
「アダムくん、あなたなら大丈夫。行ってらっしゃい」
「はい。行ってきます」
オウレン先生の温かい激励に背中を押され、俺は一人で会場に向かった。
(何とかなると思うけど、もし審査員から、データのことで深くつっこまれたら……)
緊張で喉が渇く。だが、同時に、挑戦への覚悟が固まっていく。
女神様との約束を果たし、夢を叶えるために。
深呼吸してからノックし、試験部屋へ足を踏み入れた。
次回、アダムと違う王子様や研究者が登場!お楽しみに!