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【研究取扱者試験編】百人力の名人と竹馬の幼馴染

 翌朝、ランプ市長のおじいさんが紹介してくれた人物がニボルさんのご実家にやってきた。その人物はキノコ取り名人として、毎日早朝から欠かさずキノコを採取しているんだとか――エルフ族の中でも有名らしい。いかにも山登りが好きそうなおじさんという感じである。

 

(早速、俺のことを見て泣いている。なぜだ?)


「いやぁ……感動するなあ。エルフのみんなはキノコが大好物だけど、キノコ自体に興味を持つ人は少なくてなぁ〜。エルフ以外の種族でキノコに興味を持っている子がいるなんて。しかも少年だ! こんな嬉しいことはないね。未来は明るい!」


 そう言って、リュックから大量のキノコを取り出し、俺に渡してくれた。


「ランプ市で採れる“代表12種”を全部、持ってきたよ。俺はエルフだから、毒の区別まではできないんだ。ぜひ調べてみてくれよ!」

 

 嘘だろ……全部持ってきてくれたんだ。すごい。この人こそキノコ伝説の絵本に登場してもいいんじゃないか? 「助かります。ありがとうございました」と言って、俺は去ろうとしたが、名人が遮って話を続けた。

 

「待ってくれ! キノコ以外にも役に立つと思って、地図を持ってきたんだ。この地図に採取したキノコの画像を貼ってるから参考にしてくれよ〜」

「なんと! あなた、神ですね。ありがとうございます」


(驚いた。女神様以外にも神様っていたんだ……)


 一歩先のことまで見据(みす)えている名人に感動してしまい、思わず神認定(かみにんてい)してしまった。


「ダハハ! 神だなんて……君は面白いな! またわからないことがあったら、気軽に言ってくれよ! 俺はこれからキノコを探してくる!」


 名人は本当にキノコのことが好きなのだろう。リュックを背負うと、そのまま山の方へ姿を消した。


 それにしても、昨日たまたま温泉に立ち寄っただけなのに、市長と名人に会えたおかげで、論文提出までスムーズに進みそうだ。


(なんてこった。進捗が恐ろしいくらい順調……)


 本来、キノコの種類を調べるだけでなく、生育場所を特定するだけでも二ヶ月はかかる見込みだった。最悪、提出に間に合わないかもしれないと想定しながら活動していたから、この作業が減るのは大いにありがたかった。


 名人との出会いに感謝しつつ、俺はニボルさんの車で、ご実家から自分の家へ戻ることにした。

 助手席に腰を下ろし、ふと前から気になっていたことを口にした。

 

「疑問に思ったことがあるんですが……ニボルさんのお母さん、あのランプ市で今までよく毒キノコを食べずに過ごせてたんですね」

「実は僕のお(ふくろ)、キノコが嫌いなんだって。でも僕が作ったものを食べないわけにはいかないと思って、あの時食べてくれたみたい……。お袋に無理させちゃった……本当、僕は親不孝だよ……」


 そうだったのか……。ニボルさんのお母さん、息子が作ってくれたご飯だから苦手でも食べたのか。その話を聞いて、ご両親に愛されて育ったんだなぁと微笑ましく思えた。実際に、ニボルさんは実家をよく行き来しているから、家族仲がとても良いのだろう。


「ニボルさん。話を振った俺が言うことじゃないかもしれませんが、落ち込まないでください。二人とも元気になったから、良かったです。それにご両親はニボルさんのこと、大切な息子だと思ってるんですよ」

「えっ、本当に?! そう言われると嬉しいなぁ〜。ありがとね、アダムくん。あのさ、話が変わるんだけど、トイレ寄ってもいい?」

「無理は禁物です。寄りましょう」

「じゃあ、ここに車を停めるね〜!」

「えっ。ニボルさん、ここって……!」


 思わず声を上げてしまった。なんと、ニボルさんが休憩場所に選んだのは、俺が幼い頃によく通った図書館だった。

 

「うん。例の図書館長に、久しぶりに挨拶しようかなと思ってね。あと、トイレ借りる! アダムくんも行かないー?」

「そうですね、せっかくなので」


 車から降りて、俺たちは図書館へ移動した。

 館内はこれまでと変わらず、落ち着いた雰囲気だったが、図書館長のおじさんは残念ながらいなかった。受付さんに聞いたところ、有給休暇中らしい。


 俺たちはトイレを済ませ、再び車に戻ろうとしていたが――車の周りに数人の女の子たちが集まっていた。ニボルさんは「ごめんねー」と言いながらドアを開けていた。


(そうか、この地域では車は珍しいのだろう。って、あれ……?)


 ふと女の子たちの顔を見ていると、知ってる子が一人いた。


「アンズ?」

「えっ! アダム?! どうしてここに? もしかして戻ってきたの?」

「いや、偶然寄っただけだ。今から自分の住んでる家に帰るところ。そうだ、俺もザダ校を目指すから、また会おうな」


 アンズは俯いて、「そっか……」と残念そうに呟いた。俺はドアに手をかけていたが、この前のお礼をちゃんと言おうと思い、アンズに声をかけた。


「あっ、この前のクッキーおいしかった。手紙も嬉しかったよ。ありがとう」

「えっ……!」


 アンズの頬が一気に赤くなった。


「えへへ。私、アダムに会えて幸せ。また会おうね!」

「もちろん、じゃあな」

「うん。バイバイ!」

 

 アンズに手を振って別れを告げ、車に乗り込むと――運転席のニボルさんが満足そうに笑っていた。


「アダムくん。あの女の子は誰なんだい? 知り合い?」

「あぁー。彼女は幼馴染で、幼稚園からずっと同じ学校に通ってたんです」

「へぇ! 幼馴染、ねぇ……」


 ニボルさんは過度に興味津々で、探偵のようにアンズのことを根掘り葉掘り聞いてきた。まぁ、俺としては「幼馴染です」と繰り返すしかなかったが……。


 そんなこんなで賑やかに車内でお喋りしながら、ようやく自分の家に戻った。


「よし。無事に帰ってこれたし、白衣に着替えよう」


 気持ちを切り替えて、今度は研究モードだ。

 エルフ保護地域であるランプ市で採集された毒キノコと通常のキノコを見分けるため、キノコ取り名人から譲り受けた12種類の標本を机に並べる。形状、色、環境条件――ひとつひとつ、特徴を徹底的に記録していった。

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