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ファンタジア・サイエンス・イノベーション〜第10王子:異世界下剋上の道を選ぶ〜  作者: 国士無双
第二部 【本論】第10王子、異世界下剋上の道を選ぶ

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【王位戦エントリー編】悪魔族の王子とは、絶対に結婚するなよ ※ケイ視点

【※注意】主人公(アダム)ではなく、第4王女・ケイちゃん視点です。

「どう? ビジネスはうまくいってるのかい」

「はい。キハダ様に教えていただいた流通ルートを確保できたおかげで、大助かりですよ」

「それは良かった」


 しまった……。アタシは内心で舌打ちした。

 キハダ理事長から情報を引き出してやろうと思っていたのに、先手を打たれてしまった。


 今のアタシたちは重厚なカウンター席に並んで座り、目の前ではシェフがお肉を焼いている。

 しかもこのシェフ、キハダ理事長の顔馴染みだからか、仕事の話ばかりで隙がない。

 

(この雰囲気じゃあ、とてもじゃないけど暗い話なんて切り出せないじゃないッ!)


 アタシはウズウズしながらも、結局、目の前の豪華な料理には勝てず、舌鼓を打った。


「う〜ん! 全部美味しいわねっ……!」

「左様ですか。王女様にそうおっしゃっていただき光栄です」


 シェフが恭しく頭を下げた。


「あら……? アタシ、王女だと名乗っていないはず……」

「私が前もって連絡した時に伝えておいたんだ」


 キハダ理事長が即答した。


「お気遣い、どうも……」

「当たり前のことをしただけだよ。最近、王子たちが狙われているんだ。君の身の安全を考えれば、この配慮も当然ってわけだ」

「へぇ……かっこいい。スマートね。恋人ができるのも納得だわ」

「おいおい……」


 アタシがおちょくると、キハダ理事長は苦虫を噛み潰したような顔をした。

 一方で、シェフはポカンと口を開けて固まっていた。


「あら? 刺激が強すぎたかしら」

「いえ……知りませんでした。キハダ様にお付き合いされている方がいらっしゃるとは。今度、ぜひご紹介を……」

「そうだな。だが、前もって伝えておくよ。私の恋人は()()のエルフ族だ。それでも、構わないかな?」

 

 問いかけではあったが、理事長の眼光は鋭く、拒絶を許さない気迫を漂わせていた。


(うっわ……。ギラギラしてる。本当にオウレン先生のことが大切なのね……)


「キハダ様、そんな猛獣のように睨まないでくださいませ。我々はこの店で、あらゆる事情を抱えたお客様を見てきました。差別などいたしません。ただ、お客様が笑顔で、楽しく食べてくれること。その一心で技を磨いてきたのです。実際にこのことを教えてくださったのは、他ならぬキハダ様。あなたですよ」

「素晴らしいわね!」


 シェフの言葉から溢れる尊敬の念に、アタシは胸を打たれた。

 キハダ理事長も、少しだけ目元を緩ませる。


「ありがたいね。今度、彼女を連れてくるよ。やはり私は、エルフ族と縁があるらしい……」

「えぇ。キハダ様、昔からそうおっしゃっていましたね」

「あぁ。エルフ族のおかげで私は生き延び、今こうして自由に生きていられる。世間は彼女たちを弱小種族だと言うけれど、私は決して思わない。彼女たちの心は、高潔だよ」

 

 水のグラスを眺めながら、「運命とは不思議なものだ」と呟くキハダ理事長だったけれど、ふと顔を上げてアタシを真っすぐに見つめた。


「ケイさん。君は……恋人がいるのかい?」

「アタシはフリーよ。婚約者もいないけれど?」

「ふーん。なら、私からひとつアドバイスをしよう」


 理事長は水を一気に飲み干すと、凄みを利かせた声で言い放った。


「ケイさん。悪魔族の王子とは、絶対に結婚するなよ」


(あぁー、そういう忠告ね……)


 あまりにも直球すぎる発言に、逆に拍子抜けしてしまった。


「わかってるわ。メタノの件でもう懲り懲りだもの」

「そうか。そういえば、その第9王子。謹慎が明けたのに、いまだに登校していないらしいね」

「ウソ! それは初耳だわ……」


 アイツのことだから、反省もせずに、特別科でふんぞり返っているに違いないと思っていた。


「王位戦に向けて、裏で何か企んでいるのかもしれない。これだから、悪魔の男は……。すまない、少し席を外すよ」


 膝に掛けていたナプキンを丁寧に畳み、テーブルの端に置いた彼女は、そのままお手洗いへ向かった。

 

 珍しい。

 ここまで嫌悪感をあらわにするキハダ理事長なんて、なかなかお目にかかれない。


「王女様。キハダ様のことを、どうかよろしくお願いいたします」


 突然、シェフがストローの挿さったコーラを出してくれた。

 何から何まで計画的なあの理事長のことだ、アタシの嗜好までしっかり伝えておいてくれたらしい。


「えぇ、もちろんよ!」

「嬉しいお返事、ありがとうございます。キハダ様は厳しく見えるかもしれませんが、本当は誰よりもお優しいお方なのです。王女様には、自身と同じような苦しみや、嫌な目に遭ってほしくないのだと思います」

「わかってるわ。融通が利かないところはあるけれど」


 ――彼女の実行力とストイックさは、アタシから見ても最高にかっこいい大人だと思う。


(まぁ、本人には絶対に言わないけどね!)


 そう思った矢先、アタシの頭にぽんと温かい手が触れた。


「おいおい。私のことを頑固者だと言ったのは誰かな?」

「ち、違いますっ! 褒めてるわよ!」

「それはどうも。じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「はーい! ご馳走様!」


 嬉しいことに、今日の会計はキハダ理事長の奢りだった。

 その上、彼女はアタシを助手席へエスコートした後、運転席に座り、慣れた手つきでナビを操作していた。


「女子寮前まで、責任を持って送るよ」

「えー、いいんですか?」


(正直、彼氏にしたいくらい、理想のエスコートだわ〜。そこらの王子様よりずっと紳士的!)


 浮かれていたアタシは、帰りのドライブも楽しもうとしていた。

 

 だがその時、車内に着信音が鳴り響いた。


「もしもし……はぁ?」


 三コール以内に電話に出たキハダ理事長の顔が、一瞬で強張った。


「何を言っているんですか。()()()先生」

「教頭っ?!」


 アタシは身を乗り出した。同じ王族でクラスメイトの双子がやられた、あの事件。

 事件を起こした本人からの電話を見逃せるはずがない。


「シーッ!」


「静かにしろ」と言わんばかりに、キハダ理事長は口元に指を当てた。

 

 でも、諦めが悪いアタシは強引に、通話の音声に耳を澄ました。


『助けてくれ! 殺され――ッ!』


 プツン、とすぐに回線が切れた。


「何よコイツ! 最悪のタイミングで切れたじゃない!」

「まさか……。ケイさん、悪いが急いで君を女子寮に送るよ」


 アタシには、彼女の声がいつもより覇気を失っているように思えた。

 事実、ハンドルを握ろうとする彼女の細長い指先が、震えていた。


「もしかして、キハダ理事長。アタシを送った後、一人で教頭の所へ行くつもり?」

「君には関係ないことだ。大丈夫だから」


 聞く耳を持たない。

 責任感の強すぎる大人だから、一人で地獄へ飛び込むつもりだ。


 こうなったら、強引にでも付いていくしかない。


「大丈夫じゃないわ。キハダ理事長とアタシは、関係あるでしょう?」

「ケイさん……」


 彼女は顔に出さない。

 それでも、その瞳はいつもと違って、どこか不安そうだった。

 

「その震えている状態で運転するのは危ないわ。アタシが代わりに運転しようかしら? 未成年だけど」

「何を言っている!? 冗談はやめなさい!」

「なら、取引よ。アタシは運転しない。だから、アタシを寮に送る前に連れて行ってちょうだい――元教頭先生(アイツ)のところへ」


 キハダ理事長は渋っていた。

 だけれど、アタシの決意が揺るがないことを悟ると、彼女は諦めたようで、無言でアクセルを踏み込んだ。


 行き先は、女子寮ではなく――黄泉路の始まりとも言える場所だった。

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